USTR、EUのエアバス補助金に対する制裁関税を検討

(米国、EU)

ニューヨーク発

2019年04月11日

米国通商代表部(USTR)は4月8日、EUが欧州大手航空会社エアバスに不当な補助金を拠出していることへの対抗措置として、1974年通商法301条(注1)に基づき、追加関税の賦課について検討し、対象とするEU製品の選定を行うと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。USTRは合わせて、追加関税賦課の対象候補となる暫定品目リストを公表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)し、リストに関するパブリックコメントの受け付けと公聴会の開催も発表した。

これまで米国とEUは、エアバスへのEU補助金や、ボーイングへの米補助金は不当だと互いに主張し、長年、WTOの紛争解決機関で争ってきた。WTOは2018年5月28日、エアバスへのEU補助金はWTO協定違反だとの米国の訴えを認める判断を示し、米国に認める対抗措置の範囲について現在検討を進めている(注2)。

USTRが今回公表した暫定品目リストは14ページに上り、セクション1には、フランス、ドイツ、スペイン、英国産の民間用航空機や同部品など9品目(10桁のHTSコードベース)が記載されている(注3)。セクション2には、全EU加盟国を対象に、農水産・加工食品や衣料品、金属製品、光学機器など広範にわたる分野が含まれており、計317品目(8桁のHTSコードベース)が記載されている。USTRによると、暫定リストにあるEU製品の2018年の米国への輸入額は約210億ドルに上るが、最終的な追加関税の対象額は2019年夏の発表が見込まれるWTOの裁定に従い決定するとしている。USTRは、EUの補助金により米国が毎年110億ドルの損害を被っていると試算しており、相当額のEU製品を追加関税の対象に想定しているとみられる。また、追加関税の税率は明言されておらず、製品価格の100%を上限として設定するとしている。トランプ大統領も9日、ツイッターで「WTOはEUによるエアバスへの補助金で米国が損害を被っていることを認めており、EU製品110億ドルに対して関税を課す。EUは長年、貿易で米国につけ込んできたが、間もなく終わる」と発言している。

パブリックコメントの期間と公聴会の詳細は次のとおり。

  • 5月6日 公聴会での証言申し込みと証言の要約提出期限
  • 5月15日 公聴会開催(場所:ワシントンDC)
  • 5月28日 証言に対する反証を含む、書面でのパブリックコメントの提出期限

ロバート・ライトハイザーUSTR代表は声明で、「われわれの最終的な目的は、WTO協定違反である民間航空会社への巨額な補助金を断ち切ることでEUと合意することであり、EUが有害な補助金を停止すれば、米国の追加関税の撤回もあり得る」と述べた。

米国の動きに対して、欧州委員会のダニエル・ロザリオ報道官は「米国が主張する被害額は米国の試算によるもので、WTOの裁定に基づくものではない」と批判し、ボーイングへの米補助金もWTO協定違反と判断されていると述べ、EUも米国に対する報復関税の権利を行使する構えを見せている。

(注1)通商法301条は、貿易協定違反や米国政府が不公正と判断した他国の措置について、貿易協定上の特恵措置の停止や輸入制限措置などの貿易制裁を行う権限をUSTRに与えている。

(注2)WTOの補助金および相殺措置に関する協定(SCM協定)への違反が認められ、当該国が十分な是正措置を行わなかった場合、原告は当該国に対し対抗措置を講じることが認められている。なお、WTOは3月28日にボーイングへの米補助金はWTO協定違反だとするEUの訴えを認める判断も下している。

(注3)対象品目の詳細はUSTR発表資料の別添(Annex)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に掲載されている暫定品目リストを参照。セクション1の対象HTSコードは、8802.11.0030、8802.11.0045、8802.12.0040、8802.40.0040、8802.40.0060、8802.40.0070、8803.20.0030、8803.30.0030、8803.90.9030。

(須貝智也)

(米国、EU)

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