集合住宅での宿泊施設営業、10月から禁止へ

(ロシア)

サンクトペテルブルク発

2019年04月12日

ロシア上院は4月10日、ロシア連邦住宅法第17条に集合住宅内でのホテルサービスの提供を禁止する文言を追加する改正案を可決した。ロシアの観光都市を中心によく見られる集合住宅内でのホステルやミニホテルの営業が10月1日から不可能となる見通しだ。

写真 集合住宅の扉に掲げられたホテルの看板(ジェトロ撮影)

集合住宅の扉に掲げられたホテルの看板(ジェトロ撮影)

この改正案は集合住宅の住民の便益を図ることを目的にしたもので、ホステルやミニホテル自体は禁止されていない。ビャチェスラフ・ボロジン下院議長は、集合住宅内ホテルの宿泊客による騒音や飲酒、喫煙が同じ集合住宅の住人の生活を脅かしていると指摘し、改正案が「国民が快適な条件で生活する」ために機能すると述べている。もともと改正案は、即日施行を前提に3月に下院で可決されたものの、夏季の観光シーズン前の施行はホステルなどを既に予約している観光客に混乱をきたすことから、上院がいったん否決した。今回の改正案は10月1日施行として猶予期間を設けた妥協案。

改正案についての関係者の見方は分かれている。プスコフ州不動産所有者連合のアレクセイ・キリロフ会長は、住宅内ホテルによる無許可改築によって建物に被害が発生していることを理由に賛成している(「タス通信」4月3日)。北西部ツアーオペレーター・旅行業協会「アストゥル」のゲレナ・サモフバロバ会長も、法改正による違法なサービスの排除やサービス水準の維持・向上、健全な競争に伴う業界の発展に期待を寄せる(「タス通信」4月3日)。

一方で、ホステル・ミニホテル事業者やサンクトペテルブルクなど観光都市の関係者からは、改正案の検討段階から反発の声が出るとともに、対応策についての議論が進んでいた。ロシアホステル連盟のオリガ・ネドレゾバ会長は、集合住宅に入るホステルやミニホテルが非居住施設へ移転することは、技術的に不可能だと述べる(「NSN」3月13日)。全ロシア中小企業連盟(オポラ・ロシア)サンクトペテルブルク支部観光委員会のダリヤ・コバレフスカヤ委員長は、改正によって市政府や観光関連産業の収入が伸び悩むとした上で、集合住宅内で営業している事業者が非居住施設に移転する充分な期間の猶予が必要だと指摘している(「実業ペテルブルク」3月20日)。

在サンクトペテルブルクの旅行会社はジェトロのインタビューに対し、ホステルやミニホテルを利用することの少ない日本人旅行者や日本の旅行会社への影響は限定的だと予想する一方で、改正案はロシア人やホステルへの宿泊を希望する外国人を顧客に持つインバウンドの旅行会社には打撃になり得ると分析している。さらに同社は、一部のホステルやミニホテルが言語の問題などで旅行者とトラブルになるケースを挙げ、手ごろな価格と高いサービス水準を両立した宿泊施設の必要性をホテル業界の課題として指摘した。

(一瀬友太)

(ロシア)

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