民間投資大手の米国人創業者めぐる容疑で経済界懸念の声

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2019年02月21日

モスクワ市バスマン地区裁判所は2月15日、ロシア民間投資大手バーリング・ボストークの創設者で、シニアパートナーの米国人マイケル・カルビー氏が刑法第159条4項に該当する詐欺罪容疑で逮捕されたと発表した。

バーリング・ボストークは、ロシアCIS市場に特化した投資会社の1つ。北米、西欧、アジア、中東の年金基金、大学、政府系ファンド、ファンド・オブ・ファンド(ファンドに出資するファンド)が主な出資者。1994年からロシア、カザフスタン、ウクライナなど旧ソ連諸国の80社に28億ドル以上を投資してきた。ロシアでは、検索エンジン大手ヤンデックス、ECサイト大手のAVITO.ru、OZON.ru、食品小売り大手フクス・ビラ、統合基幹ソフト大手1Sなどロシア有数の大手企業に出資しており、2017年1月にはロシアのスタートアップ企業であるレボ・テクノロジーとソルスダタ(消費者向け製品・サービスの金利なし分割払いシステム開発)に対し、共同出資で2億ルーブル投資するなど、多大な投資額と実績を持つベンチャー投資会社として知られる。

報道によると、今回の事案は、ボストーク銀行の少数株を有する取締役からの告発によるもの。2017年2月にカルビー氏らが所有する債権処理会社が、同じく同氏が過半数株式を保有して取締役会長を務めるボストーク銀行に対する債務25億ルーブル(約42億5,000万円、1ルーブル=約1.7円)の弁済として、カルビー氏らが実質所有するインターナショナル・ファイナンシャル・テクノロジー・グループ(ルクセンブルク籍)の株式59.9%を、評価額30億ルーブルとしてボストーク銀行に譲渡したことについて、告発者はこの譲渡株式の実際の価値は60万ルーブルしかないと主張している。カルビー氏は容疑を否認している。また、告発した取締役は、ボストーク銀行が吸収合併したユニアストルム銀行の元所有者で、経営陣内の内紛が発端ではないか、との見方(タス通信2月16日)もされている。

著名なエコノミストでもあるアレクセイ・クドリン会計検査院議長は、カルビー氏はロシア政府が現在活性化に力を入れるベンチャー市場の第一人者であることから、「(本逮捕は)ロシア経済にとって非常事態」とコメント。大統領付属ロシア起業家権利保護全権代表のボリス・チトフ氏は「バーリング・ボストークはロシアで何年も活動し、民間投資家として評価されている。今回の治安機関の対応は外国投資家への強い(否定的な)シグナルとなる」とし、本件は企業活動として商事裁判で争うべきもので、刑法が適用される性格のものではない、と評している。

ビジネス団体も本件がロシア進出を検討する外国投資家に悪影響をもたらすことに大きな懸念を示しており、ロシア産業家起業家連盟(RSPP)は在ロシア米国商工会議所(AmCham)、在ロシア欧州ビジネス協会(AEB)、ロシア・ドイツ貿易会議所、フランス・ロシア商工会議所と連名で、捜査委員会アレクサンドル・バストルィキン議長宛てに、カルビー氏の釈放を求める書簡を送付した。

(齋藤寛)

(ロシア)

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