縫製業の最低賃金改正へ

(バングラデシュ)

ダッカ発

2018年04月06日

2018年末の総選挙を見据え、バングラデシュの基幹輸出産業である縫製業の最低賃金改正の議論が進んでいる。縫製業の最低賃金は、他分野の最低賃金を決定する上でも重要な指標となっている。政府は現在41の産業分野ごとに最低賃金を決定しており、ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公表している。

バングラデシュにおける最低賃金の議論は「国内事情」と「欧米の人権主義」の2つが大きく影響する。「国内事情」として重要なのは国政選挙で、与党が票集めのために選挙のたびに最低賃金の改正を議論するというサイクルが続いている。今回も2018年末に総選挙を控えており、そのサイクルを踏襲しているといえる。「欧米の人権主義」でいえば、2013年に1,000人以上の犠牲者を出したラナプラザ崩落事故により、労働環境改善の1つとして最低賃金も議論されるようになった。2014年の改正はこの人権主義が大きく関与していた。

最低賃金委員会が提案

ILOは1928年最低賃金の概念を持ち込み、独立前の1959年にバングラデシュ最低賃金委員会が設立された。以後この委員会で提案された金額が、国会承認後に最低賃金として承認されている。最低賃金委員会は6人のメンバーで構成される(表参照)。

表 最低賃金委員会の構成メンバー
議長 主に著名な裁判官が主に任命される
第三者意見人 主に国立ダッカ大学の教授が主に任命される
経営者代表 主要商工会の代表者が務める
労働者代表 労働組合などから労働者代表が選出
該当産業の経営者代表 該当産業の商工会の代表者
該当産業の労働者者代表 該当産業の労働組合などから労働者代表が選出

(出所)労働法および労働規則

今回の縫製業の最低賃金改正について委員会で議論が始まったのは、2017年11月のこと。委員会は原則として5カ月以内に国会に最低賃金案を提出する必要があり、国会は1~2か月でその法案可決の可否を決定する必要がある。そのため最速で2018年の5月から縫製業の新しい最低賃金が適用されることになる。

3倍に引き上げを要求

バングラデシュの賃金指標基金によると、バングラデシュでは、1世帯1万2,200~1万8,000タカ(約1万5,860~2万3,400円、1タカ=約1.3円)の収入が必要だとされる。また、ダッカ市内で生活するには最低1万6,460タカ、同市近郊で生活するためには1万3,630タカ必要であるとの指標も出ている。公務員給与の上昇も基準となり、2017年には公務員給与が倍額となっている。例えば、公務員の中で最も賃金の安い職種である清掃員の給与は1万5,250タカからだ。加えて物価上昇率も年6%程度あるため、上昇率に見合った最低賃金の策定が求められている。これらを背景として2018年3月、縫製業の労働者側から最低賃金を月額1万6,000タカに上げるよう申し入れがあった。現在の最低賃金は5,300タカであるため、3倍程度の金額になる。ただし、2014年の改正の際も、当初の申し入れ金額が1万タカ超だったが、5,300タカまで下がったという経緯もある。労働法に詳しいオマール・カーン弁護士は、「各種専門家の意見も集約すると8,000タカ超程度で落ち着くのではないか」と予想する。

安価な労働力が魅力のバングラデシュだが、2021年までに中所得国入りを目指しており、1人当たり所得の増加も課題の1つだ。しばらくの間は、低水準の賃金をメリットにできることは間違いないだろうが、選挙年ごとに上昇する縫製業の最低賃金は常に注視しておく必要がある。

(古賀大幹)

(バングラデシュ)

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