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ABC Cooking Studioに聞く、香港での「料理体験」-香港のサービス産業市場(4)-

(香港)

中国北アジア課

2018年03月30日

近年、単に物品を販売するだけではなく、様々な「体験」を顧客に提供するビジネスを海外で行う企業が増加している。ABC Cooking Studio香港の田丸玲奈社長兼取締役に、香港での料理教室事業や「料理体験」の提供について聞いた。連載の4回目。

金融、物流のハブである香港を地域統括拠点に

Q.香港に進出した経緯と、香港で展開しているスタジオの現状は。

A.2010年10月の上海市への進出を皮切りに、海外展開をスタートした。香港に進出したのは2013年9月15日。現在、香港がアジアの地域統括拠点となっている。現在、香港には3店舗を設置。合計1万5,000人ほどが会員となっている。

資本関係は日本本社から独立している。香港に設置している統括会社は、日本本社からの出資は受けておらず、海外資本(World Wide Limited)が100%である。シンガポールやマレーシアも同様である。一方、バンコク、インドネシア、台湾は、現地のサービス産業の投資規制などもあり、現地パートナーとの合弁形態となっている。

香港は情報、金融、物流のハブであるほか、法人税率も低く、アジアの統括拠点を置くのに適当な場所である。加えて、英国や米国とのビジネス上の親和性もあり、今後の海外展開を見据える上でもふさわしい場所といえる。香港は中国が推進する「一帯一路」構想への積極的な参画を目指している点にも注目している。

当社は日本の自治体とコラボレーションして、日本の地方や地方の食品のPRも行っており、スタジオは輸出促進と観光プロモーションのプラットフォームにもなっている。これまでに鹿児島県や鳥取県とのコラボイベントや青森県のインバウンドイベントなどを共同で実施した。

香港人の好みに合わせたサービスと広報を展開

Q.香港のスタジオの客層は。

ターゲットは地元の香港人である。顧客層をみると、香港では30代、40代の方が多い。一方、中国大陸やマレーシアでは20代、30代の方が多い。この差は、人口ピラミッドの違いによるものと思われる。また、客の93%は女性である。クリスマスやバレンタインなど、イベントがある時は男性客も増える。顧客の90%は訪日経験があり、うち9割は日本を複数回訪れたことのある層である。

香港人は、今まで作ったことがない料理を作ることなどによる「感動体験」を求める傾向にある。特に、香港は湿度が高くパン作りに適した環境ではなく、経験したことがない人がほとんどなので、パン作りの人気が高い。

Q.香港で行っている独自の取り組みは。

A.料理の味を香港人向けに調整している。日本のレシピを使ったとしても、味を少し変えている。例えば、柑橘系の酸味が苦手な香港人が多かったり、生姜は日本のものと味が違ったりするためである。また、菜の花のつぼみ部分は農薬がつまっているというイメージ多いため、使ってほしくないというコメントもある。日本の「おいしい」「かわいい」の価値観を押し付けることはせず、香港人がおいしいと思うものを作るようにしている

Q.香港人にどのようにABC Cooking Studioを発信しているのか。

A.香港人はSNSを非常に好むため、FacebookやInstagramでの発信は非常に有効である。香港のABC CookingのFacebookのフォロワーは約4万5,000人、Instagramのハッシュタグ#abccookingは非常に多く、8万を超えている。スタジオでは、SNSの使用を許可しており、客がSNSで発信していくことを通じて知名度が向上していく。SNSのような、いい情報も悪い情報も流れるリアルなメディアは、信用性が高く効果が大きい。

また、SNSから客の声を吸い上げ、それを形にすることもある。ある国の顧客が違う国の店舗レッスンに通いたい場合に使用できる「ABCパスポート」は、SNSからの要望を実現したものである。香港で新しいサービスを創造し、それを横展開していきたいと考えている。

人材育成がカギ

Q.香港でビジネスをする上での課題は何か。また、課題にどのようにして対処しているのか。

A.当社の店舗は人件費が非常に高い。全コストに占める不動産コストの割合は15%なのに対し、人件費は50~60%を占める。このため、人材は極めて重要な資産であり、その育成が重要となる。

採用から1カ月は研修だけを行う。その後は仕事と並行して研修を行う。1年で習得できるレシピは講師のスキルにもよるが、2種から3種のコースである。人によっては料理の講師のエキスパートになる講師もいれば、料理、パン、ケーキ万遍なく習得する講師もいる。1レシピにつき4冊のマニュアルがあり、マニュアルはイラスト付きのレシピとなっている。これらは、英語音声付きの動画で見ることもできる。ちなみに、動画は有料ではあるが、会員も見ることができる。

また、人件費同様、不動産のコストも高い。このため、家賃の交渉も非常に重要である。当社は数カ月単位で受講が必要となるパッケージ商品しか取り扱っていないため、長期間、定期的に客がショッピングモールに来ること、料理教室の特性上滞在時間が長いことなど、オーナー側にも当社が入居しているメリットが大きいことを交渉材料とし、価格交渉に臨んでいる。また、企業理念に共感してもらうことも重要である。

香港、中国大陸ともに拡大を目指す

Q.今後の展開は。

A.当社のモットーは「世界中に笑顔の溢れる食卓を」。2017年12月現在の海外店舗数は27店舗であるが、2020年までには50店舗にしたいと考えている。2018年中にはインドネシア、フィリピンに出店する予定があり、どちらもシンガポール拠点が管轄する予定である。インドネシアなどのイスラム教国では、料理のハラル対応が重要となってくる。みりんやアルコールは使えないため、ジュースなどで代用する必要がある。その他、米国のカリフォルニア州、オーストラリアでの展開も検討している。

中国では新たに重慶市、浙江省杭州市、広東省広州市、深セン市へ進出した。ただし、中国での展開は、許認可などの面で非常に煩雑である。法律の運用が地方によって異なることや、突然行政指導を受けることもあり、予測が非常に難しい。

香港は、すでに法体系が確立されており、予見可能性が高く、ビジネスを行うのは容易だが、規制が確立されているため、新規のビジネス展開をする際などは留意が必要である。

今後は、料理だけでなく、空間を楽しんでもらえる、あって当たり前のお店にしていく必要がある。また、今後も様々な新しいイベントを行いつつ、普段行っているイベントも並行して行っていく予定である。

香港の人口は約740万人。そのため、香港で展開できるのは、ターゲット層の人口数を考えると、最大4~5店舗だと考えている。中小企業などを対象にした法人税の減税が導入されれば、香港のビジネス展開に向けてプラスに働くと思われる。

(カン・カレン、楢橋広基)

(香港)

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