ISDSや原産地規則の改定めぐり意見対立が続く-ライトハイザーUSTR代表公聴会(2)-

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2018年03月26日

ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表による議会両院の税制関連委員会公聴会での証言内容報告の後編。北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉について。

ISDSの撤廃をめぐって議会と対立

公聴会は、下院の歳入委員会で3月21日に、上院の財政委員会で3月22日に開催された。

ケビン・ブレイディ下院歳入委員長(共和党、テキサス州)は、「新たなNAFTAの法案を今年中に議会で可決できることを期待している」と述べる一方、新協定で投資家対国家の紛争解決手続き(ISDS)が撤廃される場合は、その法案は議会で十分な支持が得られないと強調した。トランプ大統領が3月20日に議会に要請外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした大統領貿易促進権限(TPA)の延長(注1)については「強く支持する」としたが、TPAの中でISDSの維持は政権に対して明確に義務付けられているとくぎを刺している(注2)。オリン・ハッチ上院財政委員長(共和党、ユタ州)も、USTRはTPAで定められた交渉目的に従わなくてはならないと述べた。

ライトハイザーUSTR代表は「ISDSは米国の裁判所で米国人が持つ以上の権利を外国企業に与えるもので、国家主権上の問題がある。また、米国から拠点を移したい企業に対して、その投資に係るリスクを保証することは米国政府の役割ではない」とし、ブレイディ委員長に反論した。また、「ISDSで扱われる事項は、NAFTA20章の国家間の紛争解決手続きで対応が可能」と述べ、ISDSを維持する必要性を認めなかった。

これに対して、ブレイディ委員長は「USTRの顧客は議会で、議会が代表している米国企業は、海外投資において米国政府の後ろ盾を求めている」と譲らず、議論は平行線に終わっている。

USTR代表は原産地規則の交渉に期待感を示す

テネシー州選出のダイアン・ブラック下院議員(共和党)は、NAFTA再交渉における原産地規則の改定が、地元に工場を置く日産自動車などの生産に負の影響を及ぼす可能性があるとの懸念を示した。ミシガン州選出のマイク・ビショップ下院議員(共和党)も、原産地規則の改定により地域の雇用が失われると述べている。

ライトハイザーUSTR代表は、原産地規則改定の目的は米国に企業と雇用を呼び戻すことだと強調し、「NAFTA再交渉会合の中で、原産地規則に関する意見が収斂(しゅうれん)し始めている」「とても良い状況にある」と述べ、交渉の先行きに期待感を示した。また、この数日間、USTRの高官がデトロイトで自動車メーカーと、原産地規則改定案の詳細について議論していたことを明らかにした。

なお、イリノイ州選出のダリン・ラフッド下院議員(共和党)による、USTRの原産地規則改定案を支持している団体は、との質問に対しライトハイザーUSTR代表は、労組の米国労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)のみを挙げた。

NAFTAの継続を5年ごとに判断するサンセット条項の導入についても、企業の事業計画に不透明性をもたらすと議員から批判の声が上がった。しかし、ライトハイザーUSTR代表は「自分たちが他国に与えているものと、他国から受け取っている利益が不均衡であれば、再交渉するのは当然」として、取り合わなかった。

(注1)米国憲法では外国との通商関係は議会が管轄しているが、TPA法は、この通商交渉に関する権限を大統領に一時的に付与するもの。議会に対する報告・相談義務など、同法に定められた目的や手続きにのっとって政権がまとめた通商協定法案は、議会で修正を受けずに賛否のみの採決に付すことができる。現行のTPA法は6月末に延長期限を迎える。ただし、大統領がTPAの更新を議会に要請し、2018年7月1日までに下院または上院でそれに対する不承認決議がされない場合には、TPAは2021年7月1日まで延長される。

(注2)ブレイディ議員を含む上下両院の103人の共和党議員は3月20日、NAFTA再交渉でISDS条項を維持することを求める書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)をライトハイザーUSTR代表に送付している。

(鈴木敦)

(米国、メキシコ、カナダ)

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