日系サプライヤーがEV関連に投資-ドイツ自動車産業セミナーを浜松で開催(2)-

(ドイツ)

デュッセルドルフ、浜松発

2018年01月19日

ドイツ自動車メーカーにおいて電気自動車(EV)開発や車両の軽量化などが進む中、日系自動車サプライヤーもドイツでの開発・生産拠点を拡大している。ドイツの部品サプライヤーは、EV化によって従来の自動車に比べて部品点数が大幅に減ることへの対応を迫られているものの、このビジネス環境の変化を商機とみる企業も多い。浜松で行われたドイツ自動車産業セミナーの講演報告の後編。

炭素繊維複合素材から自動運転関連まで広範な投資

ドイツには日系完成車メーカーの工場はないが、ドイツの自動車メーカーへの納入などのため、開発、生産、販売拠点を構える日系サプライヤーは数多い。最近のEV開発、自動車軽量化に対するニーズの高まりを受け、サプライヤーの投資が拡大している。炭素繊維複合素材(CFRP)分野では、2016年3月に帝人の子会社である東邦テナックスがCFRPの一貫生産体制をノルトライン・ウェストファーレン州に整備した。また、三菱ケミカルは2014年にBMWやアウディなどを顧客に持つバイエルン州のCFRPメーカーのベティエ(Wethje)を買収し、2017年8月にはアウディへのCFRPの納入を発表している。東レは2017年10月、ミュンヘン近郊にCFRPや部品樹脂の研究開発拠点を設立し、2018年8月の稼働を目指す。このほか軽量素材では、旭化成が2017年10月に研究開発拠点をデュッセルドルフ近郊に開設している。

EVの要となるバッテリーでは、2014年にGSユアサ、三菱商事がロバート・ボッシュと次世代リチウムイオン電池の開発を行う会社をシュツットガルトに設立。2017年10月には昭和電工が黒鉛電極事業を強化するため、バイエルン州の炭素・黒鉛製品メーカーであるSGL GEをSGLカーボンから買収した。このほか、電動ポンプやモーター関連では、2015年2月に日本電産がフォルクスワーゲン(VW)やダイムラーに納入実績を持つチューリンゲン州のポンプメーカーを買収、2017年3月には古河電工がヘッセン州にEVのモーター用耐高圧巻線製造販売の合弁会社を設立した。

EV化とともに大きなトレンドになりつつある自動運転分野では、グーグルなどのIT分野の新興企業の台頭が注目されている。ケルン経済研究所が2017年8月に発表した報告によると、2010年以降に認められた自動運転に関する特許のうち、新興企業が占める割合は7%程度だった。他方、完成車メーカーが過半数、サプライヤーが約3分の1を占めており、特許数では既存の企業の存在感がまだ強い。自動運転は、ドイツが特に強みをみせる分野で、ドイツ企業が取得した特許数は全体の半分以上を占める。最も多くの特許を持つのはロバート・ボッシュで、以下、アウディ、コンチネンタルとドイツ企業が続く。この分野で先行するドイツ企業の技術に目を向ける日本企業の動きもみられる。パナソニックは2016年8月、マルチメディアと運転支援のソフトウエアを一体化した次世代コックピットのソフト開発を手掛けるベルリンのオープンシナジーを買収した。

生き残りへ対応迫られる中堅・中小メーカー

こうした大企業の活発な投資がみられる一方で、資金力が十分でなく、大規模な先行投資がしづらい中堅・中小サプライヤーは、進出日系企業もドイツ企業も自社技術を活用した生き残りを模索している。意外なことにドイツではこうした状況の変化を商機と捉えている企業も多い。ドイツ西部の南ウェストファーレン地域の自動車クラスターは3次サプライヤー(Tier3)が数多く集積している。クラスター内の企業を対象にクラスター事務局が行ったアンケート調査によると、ハイブリッド技術とEVについて、回答企業の約半数が「商機」でも「リスク」でもないと回答したものの、ハイブリッドに関しては42%、EVについては36%の企業が「商機」と捉えているとした。

この背景の1つとして考えられるのが、産学連携の体制やクラスター内企業ネットワークの存在だ。ドイツは産学連携がよく機能していることで知られている。同クラスター企業へのアンケートでは、8割の企業がEV技術の開発や人材育成を支援するためのコンピテンスセンター、地元大学、他の企業などと連携していると答えている。多くの場合、企業は産学連携、コンピテンスセンターの利用、クラスターなどが行うネットワーキングイベントに参加するには対価を支払わなければならないが、やる気のある企業を支援する枠組みが整備されている。

官民から役割が期待されるスタートアップ

既存のサプライヤーによる開発に加え、ドイツで官民が期待するのが、新たな発想を持つスタートアップの役割だ。スタートアップの集積地として、ドイツではベルリンが有名だが、ドイツ西部のデュッセルドルフやフランクフルト、南部のシュツットガルトやミュンへンなど国内産業が集積している地域にも数多く存在する。

このうち、ベルギーやオランダに近いアーヘン市では、ドイツ有数の工科大学であるアーヘン工科大学を中心に、ベンチャー企業支援機関、金融機関、商工会議所、自治体などが連携してスタートアップの育成を行っている。同大学から創出された有名な例としては同大学の教授が設立し、今や従業員数が4,000人を超えた、パワートレインなど車両関連のエンジニアリングを手掛けるFEV、半導体産業向けハイテクシステムメーカーのアイクストロンなどがある。最近注目されているのは、アーヘン工科大学教授がロバート・ボッシュなどと連携して立ち上げたEVメーカーのe.GOだ。最低価格は約1万6,000ユーロで、ガソリン車やディーゼル車とほぼ変わらない。フル充電での走行距離は100キロほどで、日常生活には十分な距離分の充電が1回でできる。量産のため、同大学近くに工場を建設中で、2018年春に完成の予定だ。同社は、ドイツ自動車部品大手ZFとともに電気バスの開発にも着手している。

ロバート・ボッシュやZF以外にも、BMW、ポルシェ、VW、ダイムラーなど多くのドイツ自動車メーカーおよび主要サプライヤーは独自のスタートアップ支援プログラムを持ち、自社の開発に資するシーズを探している。スタートアップがドイツ自動車産業の一翼を担おうとしている。

(木場亮、森悠介、志牟田剛)

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