日・EU間の個人データの保護レベル、十分性認定を急ぐ-欧州委のヨウロバー委員が訪日スピーチ-

(EU、日本)

ブリュッセル発

2017年12月19日

欧州委員会のベラ・ヨウロバー委員(法務・消費者・男女平等担当)は12月15日、日本経団連が主催するセミナー(東京)に登壇し、EU・日本間で進める個人情報(データ)の保護レベルの「十分性認定」に関する協議の進捗状況や、将来的な国際標準化に向けた取り組みについてスピーチした。同委員によると、欧州委は相互の相違点の洗い出し作業を行っており、相互に建設的で柔軟な解決策を提案することで、日本の「個人情報保護に関する法律」改正を伴わないかたちで、2018年早期に十分性認定の採択は可能だという。

2018年早期の十分性認定を目指す

欧州委のヨウロバー委員は12月15日、セミナーの冒頭あいさつで、EUと日本で進める個人データの保護レベルの十分性認定に関する協議の進捗状況や、将来的な国際標準化に向けた取り組みに関するスピーチをした。

ヨウロバー委員はまず、今回の訪日の主目的が、個人情報保護委員会(PPC)をはじめとする日本政府諸機関関係者との意見交換、EU・日本の相互理解の促進と、相互の個人データ保護システムのレベルの十分性についての協議を進めることにあると語った。同委員は「EUと日本は基本的人権や個人データ保護について価値観を共有している」状況にあり、12月8日に最終合意した「日EU経済連携協定(EPA)」(2017年12月11日記事参照)がそうした価値や利益を促進する新たな戦略的互恵関係の証左となる、との認識を明らかにした。

また、ヨウロバー委員は、個人データの自由な流通を確保するため、相互の十分性を同時に見いだすことが、日EU・EPAの便益を補完・拡大することにつながるとの見解を示した。同委員は「『データ』は21世紀経済にとって最重要の資産の1つ」で、「通商関係の緊密化に重要な役割を果たす」と指摘。EUと日本の間で、相互の個人データの保護レベルについての十分性認定を「2018年早期」に実現したいとの意欲を示した。

EU・日本間には共通認識の一方、相違点も残る

他方、ヨウロバー委員は、EU・日本間で、個人データ保護をめぐる制度の相違点が存在していることについても言及した。これらの相違点の詳細について同委員は明らかにしなかったが、欧州委としては既にこうした相互の相違点の洗い出し作業を行い、それらの相違点を調整し乗り越えることを含めて協議を進めているという。このため、日本の「個人情報保護に関する法律(APPI)」改正を伴わないかたちでも、相互に建設的な解決策を模索することによって、2018年に十分性認定の採択は可能とする見方を示した。同委員によると、これは根拠のない楽観論ではなく、EU・日本間には、個人データ保護に関する下記の共通認識があることからも明らかとしている。

(1)EUと日本は、データ経済において個人データ保護が消費者信頼の根幹を担うとの共通認識を持っていること。また、この認識の下、事業者は高い水準のプライバシー保護を行うことで、消費者の信頼感を醸成し、顧客として囲い込むことにつながるため、双方ともに、個人データ保護の徹底は負担ではなく利益と認識していること。

(2)EUおよび日本はともに、個人データ保護は基本的人権と認識し、厳格な規則を伴う包括的法令を施行していること。

ヨウロバー委員によると、これらの共通認識は個人データ保護の「規範となるもの(gold standard)」で、将来的には国際標準化を目指すべき内容と評価した。その意味で、個人データの保護レベルの相違点を収斂(しゅうれん)させる必要があるという。最終的には、EU・日本間の個人データの保護レベルをEU域内のレベルと同等に引き上げることで、日系企業が何ら制約を受けることなく、個人データの自由流通を享受し、EUビジネスを拡大できるとヨウロバー委員は指摘した。

スピーチの最後にヨウロバー委員は、2018年5月に厳罰を伴う「EU一般データ保護規則(GDPR)」の本格適用が始まることを強調し、EU域内の顧客から個人データを取得している日系を含む非EU企業も適用対象になるため、GDPR順守が求められることについて注意を喚起した。2018年1月末(予定)には中小企業や一般市民にも配慮した、新たなGDPRガイドラインを発表する考えも示した。

なお、本セミナーではヨウロバー委員に続いて、個人情報保護委員会の熊澤春陽委員が冒頭あいさつで登壇し、同委員と同様に、EUと日本の個人情報保護への認識は高い整合性があるとの共通認識を示した。同委員会は12月15日付で、前日の14日に熊澤委員とヨウロバー委員が行った会談の結果をウェブサイトで公表し、日・EU間の個人データ移転に関して「双方の制度間の関連する相違点に対処するための、法令改正を行わないかたちでの解決策について確認」し、その詳細について作業すること、および「2018年第1四半期に最終合意することを想定し、委員レベルで会談を持つことで一致」したことを明らかにしている。

(前田篤穂)

(EU、日本)

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