ブレグジットの最大の懸念は「英国経済の不振」-2017年度欧州進出日系企業実態調査(1)-

(欧州)

欧州ロシアCIS課

2017年12月04日

ジェトロは9月25日から10月23日にかけて、1,154社に対し「2017年度欧州進出日系企業実態調査」(有効回答952社、有効回答率82.5%)を実施した。2017年の営業利益見通しが「黒字」となる見通しと答えた企業は75.0%に達した。英国のEU離脱(ブレグジット)に関しては、在英、それ以外の企業ともに「英国経済の不振」が最大の懸念となった。在英日系企業がブレグジットに備え、拠点の見直しを実施・検討している割合は「販売」機能が約6割と最も高く、「統括」、「生産」が続いた。調査結果を2回に分けて報告する。

営業利益の見通しは高水準を維持

ここ6年間の営業利益見通しの推移をみると、「黒字」と回答した企業の割合は年々増加している。2017年の営業利益見通しは「黒字」が75.0%、「均衡」は13.4%、「赤字」は11.5%だった。在英日系企業のみでみると、「黒字」が71.6%で、在EU日系企業(在英を除く、以下同じ)の76.6%とは5.0ポイント差となり、前年の3.1ポイント差から拡大した。

2018年の営業利益見込みは、2017年との比較で「横ばい」が48.2%で最も高く、「改善」が42.7%、「悪化」は9.1%で、1割を下回った。業種別にみると、「改善」が多く、回答企業数に占める割合が高いのは「食品/農林水産加工」(14社、66.7%)、「ホテル/旅行/外食」(12社、63.2%)だった。「ホテル/旅行/外食」については、2017年の営業利益見込みでも15社(78.9%)が「改善」としており、その理由として「日本からの旅行客の増加」を複数の企業が挙げた。

進出国の景気見通しに関して、在英日系企業では「やや悪化」(33.5%)とした比率が他国と比べて圧倒的に高く、英国のEU離脱に向けて景気減速への懸念が高まっていることがうかがえる。

ブレグジットの影響は今後顕在化

ブレグジットによる今後の事業への影響は、欧州全体では「影響はない」(28.2%)と「マイナスの影響」(26.9%)が拮抗(きっこう)している。これまでと比べ、「影響はない」が37.9ポイント減り、「マイナスの影響」が12.8ポイント増えるなど、影響がより顕在化するのはこれからだといえそうだ。

これまでの影響を国別にみると、「マイナスの影響」との回答比率は英国(46.9%)が最も高く、チェコ(36.8%)、ポーランド(36.7%)が続いた。在英日系企業からは、今後の「マイナスの影響」として、これまでも影響として挙げられた「為替変動」「ポンド安による輸入価格上昇」に加え、「関税」「人材確保」「規制、法制度変更への対応」などが、在EU日系企業からは、「関税」「輸出入処理の煩雑化」「EU・英国間の貿易制度の変更」などが挙がった。なお、在英日系企業のこれまでの影響では、「プラスの影響」(5.7%)も最も高く、「ポンド安による輸出の増加」などが理由に挙げられた。

英国の規制・法制の変更も懸念材料

懸念として、在英日系企業、在EU日系企業ともに「英国経済の不振」「英国の規制・法制の変更」が回答割合の上位2つに挙がったが、在英日系企業の方がいずれも20ポイント程度高い。「英国の規制・法制の変更」で懸念する分野としては、在英日系企業、在EU日系企業ともに「関税」の割合がそれぞれ62.4%、72.2%と最も高かった。在英日系企業では、在EU企業に比べて、「個人データ保護」の割合が17.8ポイント高く、特に懸念が大きい。

拠点の見直しは「一部移転」の実施・検討が8割超

英国のEU離脱に備え、拠点の見直しを実施・検討している在英日系企業54社のうち、「販売」機能を挙げた割合(57.4%)が最も高く、「統括」機能(48.1%)、「生産」機能(20.4%)が続いた。実施・検討している対応としては、回答企業の8割超が「一部移転」(85.2%)を、2割弱が「全部移転」(16.7%)を挙げた。拠点の見直しに関し、移転検討中あるいは移転の可能性のある国として、在英日系企業のうち23社が「ドイツ」、6社が「オランダ」、各2社が「アイルランド」「フランス」「イタリア」「ベルギー」を挙げた。

英国がEU単一市場あるいは関税同盟に残留しない場合の必要な準備・対応について、在英日系企業、在EU日系企業ともに「特段の準備・対応は必要ない」と回答した比率が最も高く、それぞれ31.9%、43.1%だった。通関手続き導入への対応(関税率が0%の場合を含む)が続いた。残留しない場合の対応に必要な移行期間について、「通関手続き導入への対応(関税率が0%の場合を含む)」には、在英日系企業の50.0%、在EU日系企業の73.9%が「離脱日までに対応可能」と回答した。

なお、調査結果の詳細については、「欧州進出日系企業実態調査(2017年度調査)PDFファイル(0.0B)」参照。

(深谷薫、田中晋)

(欧州)

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