カリーニングラード州の特区指定を約15年間延長-E-ビザを2019年7月から導入-

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2017年12月13日

プーチン大統領は12月5日、ロシア北西カリーニングラード州の特別経済区(SEZ)指定期間を2045年末まで約15年間延長する法令に署名した。今回の改正には指定期限延長のほか、ビザの電子申告制度の導入や社会保険料の低減、認定対象企業の拡大などが含まれている。

飛び地カリーニングラード州の経済振興を狙う

署名されたのは、連邦法「カリーニングラード州の社会経済発展の課題に関するロシア連邦の個別立法の修正について」。ポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地カリーニングラードについて、a.SEZ指定期間の延長、b.ビザの電子申告制度(E-ビザ)の導入、c.特定の輸送・運搬機器へのリサイクル税の免除、d.社会保険料の優遇措置、e.SEZ指定地域の拡大とSEZ入居企業認定条件の改定、f.国による建築確認と環境影響調査の期間短縮などを定めている。

SEZ指定の終了時期について、現在の期限の2031年4月1日から2045年12月31日まで約15年間延長する。当初案では2095年まで延長される予定だったが、下院での審議を経て期間が短縮された。

E-ビザは、2019年7月1日から導入する予定。ロシア入国ビザの取得に際し、所在地のロシア大使館領事部もしくは領事館に出向く必要がなく、インターネット経由で申請することができる。ロシア極東の沿海地方(ウラジオストク港および国際空港)で先行して導入されおり(2017年8月3日記事参照)、2017年8月8日の開始から現在まで3,000人以上が利用している。今後7,600万ルーブル(約1億4,440万円、1ルーブル=約1.9円)をかけて、カリーニングラードでもシステムを導入する。ロシア上院のイーゴリ・フォミン社会政策委員会観光専門家部会委員長は「カリーニングラードの場合、全ての欧州の国が(E-ヒザの)対象となることが望ましい」と述べ、観光とビジネスの両分野でのカリーニングラードへの経済効果に期待している。

投資下限額の引き下げや社会保障費用負担減も実施

輸送・運搬機器に関するリサイクル税については、製造から3年以内で、カリーニングラードで通関・利用される機器を対象に免除される。カリーニングラード州のアントン・アリハノフ知事は、リサイクル税が免除される対象として農機や建設機械を想定しているとし、「カリーニングラードはロシアで唯一、農機や建設機械の輸入に際してリサイクル税を徴収されない地域となる。農業や建設分野で大きなビジネスの可能性がある」と期待を寄せている。

社会保険料の支払いも減免される。現在は被雇用者給与の30%程度を社会保障費用(年金基金、社会保険基金、強制医療保険)として雇用者側が負担している。今後は7.6%となり、自動車組み立てなど多くの社員を雇用する企業には大きなインセンティブとなる。また、工場や建物の建設に際して行われる国の建築確認と環境影響調査にかかる期間が、それぞれ60日から45日、3カ月から45日に短縮されている。

今回の改正により、これまで陸上に限られていた特別経済区の対象地域が、カリーニングラード州に接する内海と領海まで拡大された。また、SEZ入居企業の認定条件について、いままでは投資額の下限を5,000万ルーブルとしていたところを、a.保健分野では1,000万ルーブル、b.IT分野では100万ルーブルまで引き下げ、認定対象を広げている。今回の改定を含めたカリーニングラード州のSEZの優遇措置は表のとおり。

表 カリーニングラード特別経済区の税制優遇措置
名称 優遇の内容 条件など
企業利潤税と法人資産税 0% 最初の6年間無税、次の6年間は税率が2分の1。
対象企業が収益を上げた年から優遇開始。
収益を出すまで3年間猶予。
土地税 0% 該当不動産を取得してから5年間
社会保障費用 7.6% 内訳は年金基金6.0%、社会保険基金1.5%、強制医療保険0.1%
関税 7日以内に還付 域内で輸入部品を使って製造し、製品としてカリーニングラード州外に輸出する場合。
輸入消費税 180日の支払い猶予 カリーニングラード州からユーラシア経済連合領域に輸出する時点から起算。
リサイクル税 0% 製造から3年以内の輸送・運搬機器が対象。
詳細は政令で定める。

(出所)各種報道

現形態のSEZは2006年に創設され、2016年末時点では130社の企業が認定を受けている。認定企業の投資予定総額は1,000億ルーブル。認定企業の1社で、ロシア地場自動車組み立て受託大手のアフトトルは、BMW、起亜、現代ブランド11車種の乗用車を2016年実績で9万4,354台製造した。州政府は自動車産業クラスターの創設を目指しており、現在、BMWと工場誘致に向けた交渉を行っている。

新規に導入されるE-ビザ制度の対象に日本国籍者が含まれれば、ビザ取得のために旅券を一時的に預ける必要がなくなり、在欧日系企業にとってアクセスが改善する。自動車産業の集積やIT産業などへの税制優遇の拡大なども含め、今後、在欧の日系企業にとってカリーニングラード州はユニークな存在となりそうだ。

(高橋淳)

(ロシア)

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