多くのワイナリーは営業を再開、住宅不足はより深刻に-北カリフォルニア大規模森林火災の地域への影響-

(米国)

サンフランシスコ発

2017年11月14日

北カリフォルニアで10月初旬に発生した森林火災は、「カリフォルニア州史上、最も破壊的な森林火災」の記録を更新するほど被害が拡大した。3週間以上燃え続けて鎮火したものの、被災地では住宅不足が一層深刻になるなど課題が残る。一方、カリフォルニアワインの産地ナパ郡のワイナリーにほとんど被害はなく、多くは営業を再開しているものの、大々的な火災報道によって観光客の足は遠のいているようだ。

州史上最悪の森林火災に

サンフランシスコ湾北側に位置するノースベイで10月8日に発生し、3週間以上燃え続けた森林火災は10月31日にようやく鎮火した。ピーク時にはカリフォルニア州全体で250カ所の森林火災が確認され、主に北カリフォルニアのソノマ郡、メンドシーノ郡、ナパ郡で大規模な火災となった。山間部だけでなく住宅街にも甚大な被害を与え、燃焼総面積は24万5,000エーカー(約9万9,148ヘクタール)、一時は10万人以上が避難を余儀なくされ、10月末時点で43人の命が奪われた。今回の森林火災のうち1カ所(ソノマ郡タブス火災)は「カリフォルニア州史上最悪の森林火災20リスト」のワースト1位となった。

カリフォルニア州のデイブ・ジョーンズ保険長官は10月31日、一連の森林火災による保険会社の損失補償総額は33億ドルに上ると発表した。この金額には、住宅1万16戸の部分焼失、4,712戸の全焼、アパートなどを含む商業施設728棟の全焼などが含まれ、同州保険局は損失補償額がさらに増えると見込んでいる。

ソノマ郡では住宅の5%が焼失

最も被害の大きかったソノマ郡では、5,000人の雇用を失い、損害額は30億ドル以上と地元紙は報道している。また同郡の主要都市サンタローザでは、賃貸物件の空室率が森林火災前の時点でも1%と極端に低かった上に、同郡の住宅戸数の約5%に当たる約3,000棟が焼失したことで、住宅不足はさらに深刻になったと報じられている(「ベンチュラ・カントリー・スター」紙11月5日)。カリフォルニア州刑法396条では、緊急時に日用品や家賃などを緊急時前の価格から10%以上引き上げることは禁止されているが、火災後に家探しをしている地元住民が家主から法外な賃料引き上げを提示された例をメディアは報じている。

ソノマ郡とサンタローザでは、家を失った住民救済のため、短期宿泊用のバケーション・レンタル許可証発行の一時停止や、同郡所有地内での車中泊の許可、自宅のある土地に2つ目の住居を建設する際の許可料減額・免除など緊急条例を採択したほか、郡と市で10%以上の家賃引き上げを違法とし、同州刑法396条をより強固にする条例成立に向け動いている。

他方、地元の建設業者には、住宅の建て直しを希望する住民からの問い合わせが殺到している。他地域や州外からも建設業者が「復興ビジネス」を狙って流入することが予想されている。

ワインツーリズムのキャンセル相次ぐ

ナパ郡やソノマ郡はカリフォルニアワインの産地として知られる。森林火災のピーク時には、焼け焦げた住宅街や真っ赤に燃える森林の写真や映像がニュースの一面を飾った。しかし、ナパ郡の多くのワイナリーにはほとんど被害はなく、既に通常どおりの営業を再開している。地元紙で「被害のあったワイナリーのリスト」に掲載されているワイナリーでも、被害はなく営業しているところもあるが、ニュースの影響で、同地域を訪れる予定だったワインツーリズム客からのキャンセルが相次いでいるようだ。

ナパ郡を南北に走る一般道「シルバラード・トレイル」沿いには、多くのワイナリーが立ち並ぶ。今回の森林火災の1つアトラス火災からほど近く、道路から少し山側にあるワイナリーが全焼したが、シルバラード沿い全てのワイナリーが被害に遭ったわけではない。同エリアにある小規模ワイナリー、ルナ・ヴィンヤードのスタッフは10月29日のジェトロ取材に対して、「通常の週末よりかなり客が少ない。近隣の人気レストランも今なら予約なしで入れるだろう」と森林火災の報道後、地域に客離れが起きていると話した。

写真 ナパ郡の「シルバラード・トレイル」近くのブドウ畑。周辺に被害は見られない(ジェトロ撮影10月29日)
 写真 2点ともナパ郡山間部のブドウ畑。消防団の消火活動に加え、畑のスプリンクラーが稼働したのか、畑は無傷で周りだけ焦げていた(ジェトロ撮影10月29日)

(田中三保子)

(米国)

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