個人消費の伸びとネット普及で拡大するEC市場-中南米のeコマース事情(9)-

(ペルー)

リマ発

2017年10月23日

堅調な個人消費の伸びとインターネット利用の普及に伴って、ペルーの電子商取引(EC:eコマース)市場は観光および小売り部門を中心に拡大を続ける。普及が進むスマートフォンによるEC利用が増えていることも背景にある。また、クレジットカード情報をオンライン上に登録することをちゅうちょする消費者に、代替となる支払い方法の選択肢が用意されていることも、EC普及に一役買っているようだ。シリーズ最終回。

EC市場は観光と小売りを中心に拡大

ペルーの個人消費は引き続き堅調だ。生産省によると、ペルーの小売り部門の売上高は2016年に339億5,800万ソル(約1兆1,885億円、1ソル=約35円)となり、2012年からの4年間で32.3%増(年平均8%増)と、経済成長率を大きく上回る伸びを記録してきた。全体の56.9%を占めた「百貨店・大手スーパーマーケット」が33.9%増(8.5%増)と好調だ。このうち、「食品」を除くと、「洋服・靴・皮革製品」などのアパレルが22.1%を占めトップで、48.0%増(12%増)と大きく伸ばした。

これら小売り部門は、実店舗のみならず、ECを積極的に活用している。リマ商工会議所(CCL)のハイメ・モンテネグロEC部会長によると、オンラインで購入されるものとしては、かつては航空券などが主だったが、近年では小売り部門の伸びが目立っているという。分野別ではスポーツ用品、食品、日用品と、多様性が出てきたと指摘する。

調査会社イプソスによると、オンライン購入を行う消費者数は327万人で、このうち57%は購入手続きにスマートフォンを利用するという。ペルーでは42%がインターネットを利用し、その多くがスマートフォンによるアクセスだ。加えて、全人口の半分を超える1,700万人がフェイスブックを利用するなど、ソーシャルネットワークも利用が拡大している。そのため、EC市場に参画する企業はパソコン用のウェブサイトに加えて、ソーシャルネットワーク用のモバイルウェブサイト、さらにEC用のアプリを開発し、消費者を取り込んでいる。

米国アマゾンが進出していないペルーでは、ECサイトを運営するアルゼンチン拠点で中南米最大の総合オンライン売買サイト「メルカドリブレ」が存在感を示す。ペルー市場では2004年から同サイトが展開されており、アクセス数はアプリ経由も含め1日約50万で、国内のECで最大を誇る先駆け的存在だ。

メルカドリブレには個人の出店も含まれるため、クレジットカード情報の登録をちゅうちょする消費者もいる中、セキュリティーには万全の体制が敷かれており、カード情報などが第三者に漏れることはないとされる。それでもカード情報を登録したくない場合は、銀行のオンライン振り込みか、金融機関の窓口で振り込む方法でも支払い可能だ。そのため、クレジットカードの不正使用の被害を心配しがちな消費者も気軽にECが利用でき、同サイトはEC普及に一役買っている。また、商品が届かなった場合に支払額を全額補償する仕組みもつくるなど、消費者のECへのあらゆる不安を取り除く努力が続けられている。2017年6月にはペルーに支社を設置し、大手小売りなど独自のECサイトを有する企業の公式商品も取り扱うなど、さらなる販売拡大を図る。これまでに家電のオスターや、電動工具のマキタやスタンレー・ブラック&デッカーなど、12メーカーの取り扱いが始まっているほか、さらに20メーカーが追加される予定という。

セミナーやキャンペーンなどEC普及に向けた取り組み

2017年7月20日に首都リマのスイスホテルにおいて、「eコマース・デー・リマ」セミナーが、eコマース・インスティトゥートとリマ商工会議所の共催で開かれ、8回目となる今回は約70のEC利用企業の講演があった。同セミナーは、国内でECを導入したい企業にとって有益な情報収集が可能な場となっており、毎年参加者を増やしている。

これに先立ち、リマ商工会議所のイニシアチブにより、7月10~13日にEC販売促進を狙ったキャンペーン「サイバーデー」が展開された。特設サイトに割引や特典の情報を掲載して、参加企業のオンライン販売サイトのリンクを貼り、実際の購入手続きを行うサイトへ誘導する形式だ。同キャンペーンは、ペルーの祝日と重なる時期に年3回(4月、7月、11月)実施されており、今回で15回目。

毎回、30~50の出店者が「サイバーデー」に参加する。今回は、チリ資本の百貨店で実店舗も展開するリプレイやペルー資本の百貨店オエシュレなど小売り、アパレル、旅行会社を中心に38社が参加した。初日には、特設サイトに約50万のアクセスがあった。会期が前年の3日間から4日間に拡大したこともあり、サイトを訪問する消費者数は前年のキャンペーン時より約3割増えたという。

伝統的にECが利用されてきた旅行関連では、国内13都市を結ぶ路線でサービスを提供する航空会社LCペルーが「サイバーデー」に参加。同社は、国内のECアワード9社に選ばれるなど積極的にECを展開している。前年のキャンペーン時より、売り上げは45%増加した。

一方、スポーツ・アパレルのアディダスのバシリ・ディアスECスペシャリストによると、7月の「サイバーデー」開催4日間に同社のサイト訪問者数が3倍に増え、売上高は通常の5倍程度となったという。同キャンペーン中に最大の売り上げを記録したのはアディダスだったが、それでも全体に占めるECの割合はわずか3%程度にとどまる。リマ商工会議所のモンテネグロEC部会長によると、全体の売上高に占めるECの割合を5%まで拡大させることが当面の目標とする。また、2017、2018年のEC市場はそれぞれ15~20%の成長を見込むという。次回の「サイバーデー」は11月に開催される予定で、さらにEC販売の拡大が期待される。

なお、同キャンペーン中のアクセスの53.1%は、リマ首都圏以外の地方州からだった。一部のへき地への配達についてはまだ対応できていないため、購入前に確認が必要だ。現時点ではペルー国内全土でECが普及している状況になく、配達網の整備など今後の課題も残る。

(藤本雅之)

(ペルー)

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