メルコスール・エジプトFTAが発効、最長10年かけ関税撤廃

(南米南部共同市場<メルコスール>、エジプト)

サンパウロ発

2017年10月05日

南米南部共同市場(メルコスール)が2010年8月に締結したエジプトとの自由貿易協定(FTA)が、加盟国の批准を終え、9月1日付で発効した。2016年の貿易はメルコスール側の大幅な輸出超過となっている。ブラジルなどで関心の高い乗用車は最長の10年かけて関税撤廃となる見込みだが、即時関税撤廃となる主要輸出品目もある。

スケジュールはメルコスール側が緩やか

ブラジル外務省は9月1日、同日付でメルコスール・エジプトFTAが発効したことを発表した(注1)。同FTAは2010年8月に締結されたものの、加盟国での批准に時間を要していた。財の貿易に関する関税撤廃が主な内容となる。

関税撤廃スケジュールは、カテゴリーA~Eに分類される。Aは即時関税撤廃、Bは発効と同時に一段階関税を低減し、その後12カ月ごとに3段階に分けて関税を撤廃(つまり4年間で関税撤廃)、Cは同様の仕組みにより8年間、Dは10年間で関税撤廃となる。Eは発効後も関税率は変更されず、両国の代表者からなる合同委員会により関税撤廃に向けた話し合いが行われることになる。

メルコスール側が提示した品目リストにはNCMコード(メルコスールの関税コード)8桁分類で9,711品目(注2)が含まれ、カテゴリーAが2,535品目(26.1%)、Bが614品目(6.3%)、Cが3,008品目(31.0%)、Dが3,084品目(31.8%)ある。それ以外にメルコスール側4カ国でそれぞれ異なるカテゴリーに分類された品目が470品目(4.8%)あり、Eの品目が一部含まれる。一方、エジプト側が提示したリストにはHSコード6桁および8桁分類で5,434品目(注2)あり、カテゴリーAが1,708品目(31.4%)、Bが739品目(13.6%)、Cが1,717品目(31.6%)、Dが1,091品目(20.1%)、Eが179品目(3.3%)となっている。双方の品目に占めるカテゴリーの割合を分析すると、Aの低さ、CおよびDの割合の高さから、メルコスール側の関税撤廃スケジュールの方が緩やかといえる。

乗用車輸出は主に10年で関税撤廃

添付資料により品目別の関税撤廃スケジュールを大まかに分析すると、メルコスール側の輸出の観点では、エジプト側リストの第16部、第17部に含まれる機械類・電気機器や自動車関連品など工業製品でカテゴリーA、Bが多く、工業製品全般で輸出チャンスが増すと考えられる。ただし、ブラジルなどで関心が高いと思われる自動車(第87類)はエジプト側ではC~Eに位置付けられている品目が多い。ブラジル側統計では、2016年のエジプト向け輸出実績のうち第87類で多いのはNCM8706の「原動機付きシャシ」(1,736万ドル)で、関税撤廃スケジュールではCに分類されている。次に多いのはNCM8708の「部分品および付属品」(508万ドル)でA~Cに分類されている。NCM8703の「乗用自動車その他の自動車」は2016年の輸出実績が記録されていないが、DもしくはEに分類されている。

ブラジル商工サービス省の資料でメルコスールとエジプトの貿易実績をみると、2016年のメルコスール側の輸出額は36億1,100万ドル、輸入額は1億3,400万ドルと大幅なメルコスール側の輸出超過となっている(表1参照)。同年の国別輸出額をみると、アルゼンチンが最も多く17億9,200万ドル、ブラジルが17億7,200万ドル、パラグアイが3,200万ドル、ウルグアイが1,500万ドルと続く。ブラジルの輸出品目は砂糖関連品や食肉、穀物、鉱物など一次産品が中心となっている(表2参照)。そのうち「トウモロコシ(その他)」や「大豆(その他)」は即時撤廃のAに分類されており、エジプトからの輸入上位2品目の「尿素肥料」と「リン酸肥料(その他)」もAに分類されている(ブラジルが輸入国の場合)。

表1 メルコスールの対エジプト貿易額(国別)(単位:100万ドル)
輸出 輸入
メルコスール アルゼンチン ブラジル パラグアイ ウルグアイ メルコスール アルゼンチン ブラジル パラグアイ ウルグアイ
2011年 4,367 1,698 2,624 38 7 426 69 345 0 12
2012年 3,723 1,001 2,712 0 9 322 48 251 3 20
2013年 3,611 1,253 2,202 72 84 403 112 276 1 14
2014年 3,601 1,051 2,315 96 139 163 9 146 1 7
2015年 3,287 1,073 2,057 90 67 120 6 108 1 5
2016年 3,611 1,792 1,772 32 15 134 8 94 1 31

(出所)ブラジル商工サービス省データベースAliceMercosul

表2 ブラジルの対エジプト主要品目別輸出入(通関ベース)(単位:100万ドル、%)
項目 NCMコード 品目 2016年 2017年1~8月
金額 金額 構成比
輸出(FOB) 17.01.14.00 その他の甘しゃ糖 306 348 25.8
02.02.30.00 牛肉、骨付きでないもの(冷凍) 528 287 21.3
10.05.90.10 トウモロコシ(その他) 247 201 14.9
02.07.12.00 鶏肉、分割してないもの(冷凍) 140 180 13.4
26.01.12.10 鉄鉱(凝結させたもの) 181 136 5.4
12.01.90.00 大豆(その他) 14 40 2.9
01.02.29.90 牛(生きているもの)、その他のもの 17 18 1.3
17.01.99.00 その他の甘しゃ糖、てんさい糖および化学的に純粋なしょ糖 52 15 1.1
72.07.20.00 鉄または非合金鋼の半製品、 炭素の含有量が全重量の0.25%以上のもの 23 15 1.1
84.14.30.11 圧縮機(冷蔵用または冷凍用の機器に使用する種類のもの) 22 11 0.8
合計(その他を含む) 1,772 1,347 100.0
輸入(FOB) 31.02.10.10 尿素肥料、窒素の含有量が全重量の45%以上のもの 12 31 25.7
31.03.19.00 リン酸肥料(その他) 0 23 19.1
27.10.12.41 軽質油およびその調製品 10 13 10.8
20.05.70.00 オリーブ、調製しまたは保存に適する処理をしたもの(冷凍してない、食酢または酢酸により調製しまたは保存に適する処理をしたものを除く) 4 12 10.3
31.03.11.00 リン酸肥料、五酸化二リン(P2O5)の含有量が全重量の35%以上のもの 0 5 3.7
72.08.39.90 鉄または非合金鋼のフラットロール製品(熱間圧延をしたもので幅が600ミリメートル以上、厚さが3ミリメートル未満のもの) 0 3 2.9
27.12.20.00 パラフィンろう(油の含有量が全重量の0.75%未満のもの) 1 3 2.7
07.11.20.90 オリーブ、一時的な保存に適する処理をしたもの 5 2 2.9
25.10.10.10 天然のリン酸カルシウムおよびリン酸アルミニウムカルシウムならびにリン酸塩を含有する白亜、粉砕してないもの 3 2 1.9
52.05.43.00 綿糸(綿の重量が全重量の85%以上のもの)、構成する単糸が192.31デシテックス以上232.56デシテックス未満のもの 2 2 1.7
合計(その他を含む) 94 119 100.0

(出所)ブラジル商工サービス省(MDIC)データベースAliceweb

原産地基準はまず関税分類変更基準が適用

FTAに基づく税率適用を受けるためには、協定で定められた原産地基準をクリアする必要がある。その基準は、品目別規則(付属書II.4)で個別に規定された品目以外は原則として4桁レベルの関税分類変更基準がまず適用される。それを満たさない場合は、最終製品の工場渡し価格(Ex-Works Price)に対して非協定国(メルコスールおよびエジプト以外の第三国)原産品の原材料価格の比率が45%を超えないことを条件としている(協定第2章第5条)。ただし、パラグアイだけはこの比率が55%を超えないことと定められており、原産地ルールが緩和されている。また、4桁レベルの関税分類変更基準に関しても、ウルグアイ・エジプト間、パラグアイ・エジプト間の貿易に関しては特別ルールが別途定められている。

なおサービス貿易の自由化については、協定文第1章第24条で、WTOのサービスの貿易に関する一般協定(GATS)に基づく自由化に向け協議を行っていくと言及したにとどまる。投資分野も第1章第23条で投資促進協定の交渉可能性に言及したのみで、実質的な自由化には触れられていない。

(注1)ここでいう発効とは国際法上の発効であり、ブラジル国内で実際に効力を持つには、本協定に関する大統領令が公布される必要がある。

(注2)ブラジル商工サービス省(MDIC)ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲示された品目リストを基に、ジェトロが独自に集計した(2017年9月24日時点)。

(二宮康史)

(南米南部共同市場<メルコスール>、エジプト)