成長途上のEC市場、障壁改善が利用率向上のカギ-中南米のeコマース事情(8)-

(チリ)

サンティアゴ発

2017年10月20日

チリの電子商取引(EC:eコマース)市場は年々拡大しており、2016年は28億ドルと、この5年で2倍超の成長を遂げている。ただし、利用者数、サービスともに成長段階にあり、サンティアゴ商工会議所は関連イベントを実施し、さらなる裾野拡大を図っている。

EC市場は5年間で2.6倍に拡大

大手スーパーマーケットや百貨店などは近年、オンライン販売に力を入れており、インターネットで購入や配達サービスを受けられる仕組みが広がってきている。百貨店の中には、オンラインで購入した商品を店舗内の専用カウンターで受け取れるサービスを開始したところもある。市内でこうした商品の運送トラックを見掛ける頻度も増えており、利便性の良さが徐々に浸透してきている印象だ。

サンティアゴ商工会議所によると、チリのEC市場規模(BtoC)は2011年の10億6,000万ドルから2016年は28億ドルへと、この5年で2.6倍の規模に拡大している。2017年は33億ドル、2020年には50億ドル超の規模を見込んでおり、商業のオンライン販売比率も6%まで上昇するとの見通しを発表した。

しかし、チリのEC市場は十分に発達しているとはいえない状況にある。サンティアゴ商工会議所の発表資料によると、オンライン購入をしている割合は人口の25%で、他の先進国と比べると圧倒的に低い。利用の拡大を図るため、同商工会議所は「サイバーデー」や「サイバーマンデー」などと銘打ち、参加企業がオンライン限定のディスカウント商品を用意し、オンラインショッピングへの関心を引くイベントを定期的に実施している。5月下旬に開催されたサイバーデーでは165の企業が参加し、3日間の総売上高が前年比24%増の1億4,500万ドルとなり、サイト訪問者数も22%増の4,500万人と大幅に伸びた。一方で、EC参加の障壁として、オンライン購入に対する不信感、配送品の質、物流、支払い方法が挙げられており、これらの改善が今後の利用率向上のカギとなる。

EC販売商品は衣類や家電、旅行が中心

調査会社GfKアディマーク(GfK Adimark)の2016年のアンケート調査結果によると、過去1年間でオンライン購入した割合は22%だった。また、一番利用度の高い年齢層は25~34歳(33%)だった。アクセスはパソコンからが62%、スマートフォンが32%、タブレットが4%となった。オンラインで購入した商品は衣類が一番多く、以下、家電製品、旅行、入場券、ディスカウントクーポン、家具の順だった。一方、購入しなかった理由については、「オンライン購入を信頼していない」が36%でトップ、「関心なし」が33%、「実物を見て購入したい」が15%と続いた。

チリで広く知られているECサイトは、南米で広く展開しているメルカドリブレ(Mercado Libre)で、個々人が同サイト上で売買できる仕組みに加え、企業が自社商品を販売するサービスもあり、現在、約150の企業が同サイト内で販売を行っている。その他のサイトでは、ヤポ(Yapo)、コンプラ・イ・ベンデ(Compra y Vende)などが有名だ。ただ、いずれもチリに会社を有している企業ないしはチリの代理店経由での参加が条件となっており、外国から直接出品する仕組みには対応していない。

オンライン決済に必要なカードは広く普及しており、2017年5月時点でクレジットカードの発行枚数は1,286万枚、デビットカードは2,131万枚で、チリの人口1,800万に鑑みると、全国民が平均1枚以上を保有している計算になる。

法制度に関しては、消費者保護(法19496号)、個人情報保護(法19628号)が整備されており、2017年1月には個人情報保護庁設立に関する法案が上院に提出され、審議中となっている。ECをめぐる消費者からの苦情受け付けについては、経済省の消費者庁(SERNAC)が窓口となっている。

2017年1月に米国のアマゾン(Amazon)がチリ市場へ参入し、早ければ2017年中にサービスを開始するとの報道があった。6月には、チリ大手小売り流通グループのファラベーラ(Falabella)が「アマゾン関連報道の確認はしていない」と述べつつも、対抗策として物流・技術に10億ドルの投資を行うことを発表した。今後の各社の展開拡大によるオンラインサービス多様化が期待される。

(中山泰弘)

(チリ)

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