茶製造の流通サービス、無農薬栽培の抹茶を海外で展開-将来的にはIoTを活用した生産も視野に-

(英国、ドイツ、EU、日本)

欧州ロシアCIS課

2017年08月15日

茶の生産や加工、販売を手掛ける流通サービス(静岡県菊川市)は、世界16カ国へ茶を輸出している。また、日本で茶を栽培する際、茶畑にソーラーパネルを設置し、持続可能な栽培を実現した。欧州を中心としたビジネス展開と新しい農業の在り方について同社代表取締役の服部吉明氏に聞いた(7月21日)。

茶の栽培から販売まで手掛ける

もともとは、流通業者であるハットリ製茶の4代目だった服部氏が、「顧客が求める商品を販売するには自ら生産するのが一番」との思いから、茶の生産から加工、包装事業、販売までを手掛ける流通サービスを1989年に設立した。現在は6ヘクタールの茶畑を有し、世界16カ国に抹茶などを輸出している。当面は輸出先を20カ国に拡大することを目標に、新たなバイヤーと協議を進めており、2017年内にもこの目標を達成する予定だという。

海外では抹茶がよく売れている。しかし、静岡県で栽培されている茶の96%は煎茶向きの品質「やぶきた」だ。そこで、服部氏は10年前に抹茶事業をしたい人を集め、抹茶の原料となるてん茶を栽培する「天竜愛倶里ファーム」を設立した。国内市場の縮小を受け、かねて抹茶事業をしていた服部氏は8年前から英国へ抹茶を中心とした茶類の輸出を開始した。2015年には、ドイツの食品見本市「アヌーガ」への出展を契機に同国での販売を開始した。流通サービスの海外での主力商品は、無農薬の抹茶と玉露だ。これらは栽培時に一定期間、直射日光を避ける工程を経る手間のかかる高級な茶だ。現在、売上高に占める海外の割合は数パーセントだが、将来の国内市場のさらなる縮小を見込み、海外事業の拡大による売り上げ維持・拡大を目指している。

オーガニック栽培でもおいしい抹茶作りを目指す

欧州では残留農薬の規制が厳しく、消費者もオーガニック商品を好むため、無農薬で栽培した茶が求められる。通常、オーガニックの抹茶は、肥料と農薬を使用したものに比べて品質が悪く、収穫量が6割程度にとどまる。服部氏は、無農薬や、化学肥料・農薬をほとんど使わない農業に取り組む「エコファーマー」であり、茶の栽培では、土づくりにこだわってオーガニック栽培でもおいしい抹茶作りを実現している。流通サービスは、EUの厳しい農薬規制の中、8年前から欧州に茶を輸出している実績により、商品の信頼性が高いと評価されている。英国ロンドンにある日系の食材・雑貨店ジャパンセンターでは、他社商品を含め20種類以上の抹茶の取り扱いがあるが、同社の商品は常に売り上げ3位以内に入っているという。

また、服部氏は「今後は商品の構成などを強化していきたい」と抱負を語っている。さらに、7月6日に大枠合意した日EU経済連携協定(EPA)(2017年7月7日記事参照)により、現行3.2%の茶の関税が撤廃された場合、コスト面でのプラスの影響は大きいとみる。

農業を働きたい環境にするのが将来像

流通サービスは将来の展望として、「茶畑ソーラー」を利用し、業界初のIoT(モノのインターネット)を活用した全自動の茶畑を目指している。茶畑ソーラーとは、茶畑の上に棚とソーラーパネルを設置して売電収入を得るものだ。流通サービスは、茶畑ソーラーを耕作放棄地を活用した茶畑に7基設置し、月約400万円の売電収入を得ている。茶畑ソーラーで栽培するのは、煎茶よりも価値の高い抹茶の原料となるてん茶だ。てん茶は植えてから収穫するまでに4~5年を要するため、それまでの収入確保や初期投資の回収という課題解決のために、服部氏が編み出した手法だ。また、てん茶は栽培期間中に遮光するため20日間程度被覆する必要があり、このソーラーパネルの棚を被覆に利用することで、わざわざ被覆用の棚を設置する必要がなくなる。さらに、茶畑ソーラーは持続可能性という意味でも海外で茶を売り込む際に1つのアピールポイントになるという。

服部氏は新しい農業の在り方について、「今の農業は、やりたいと思える環境にない。大学生が入りたくなるような畑を目指し、全て自動化しようと考えている」と話す。農業の自動化には、IoTの活用がカギとなる。自動化に伴う電力は、ソーラーパネルから発電しインターネット経由で管理する。水分や気温などの農地のデータをセンサーで読み取り、その情報をインターネット経由で飛ばす。得られたデータを蓄積・解析することで、つないだスプリンクラーによる自動水まきや自動被覆を実現する計画だ。服部氏は自動化のメリットについて、「今まで辛くて大変だった農業が、こんなに楽しくできる。(インターネットを経由するため)海外旅行していても農業ができる」とし、さらに「余った時間を海外での営業に充てられる」ほか、「海外のバイヤーが直接、耕作放棄地の借り主になり、遠隔操作で生産に参加してもらうことも可能になる」とIoTを活用した自動化の未来に期待を寄せている。

写真 服部代表取締役と茶畑ソーラー(ジェトロ撮影)

(田中晋、鵜澤聡)

(英国、ドイツ、EU、日本)

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