シャリフ首相が辞任、内閣は総辞職-パナマ文書疑惑係争で最高裁が首相不適格の判断-

(パキスタン)

カラチ発

2017年08月02日

パキスタン最高裁判所は7月28日、シャリフ一族に対するパナマ文書疑惑について最終的な司法判断を示し、ナワーズ・シャリフ氏は首相として不適格との裁定を下した。これに伴い同日、同首相は辞任して内閣も総辞職し、事実上罷免されたかたちとなった。同氏は、2018年5月までの5年間の任期を全うせずに、3度目の首相の座を降りることとなった。

シャリフ氏の今後の再任はない見通し

パナマ文書が2015年に流出して以来、パキスタンでは同文書が注目を集めてきた。同文書の中には、パキスタン首相(当時)のナワーズ・シャリフ氏と、同氏の4人の子のうち、3人の氏名が含まれていたからだ。

野党のパキスタン正義運動(PTI)は2016年4月、これを追及。シャリフ一族によるロンドンの不動産取得や、租税回避地にオフショア企業を設立し所得を隠しているとの疑惑について、同年8月に最高裁で審理が開始された。

最高裁は2017年4月、同疑惑についてさらなる調査を実施するため、合同調査チームを組んで60日以内に最終報告書を提出するよう命令した。これを受け、7月10日に合同調査チームが最終報告書を提出し、7月28日に最高裁の最終判断が示された。

最高裁は、憲法62条および63条を根拠にナワーズ・シャリフ氏が首相として不適格と裁定した。裁定文では、同氏を首相として不適格とする期間は定められていない。裁定の効力は生涯にわたって続くとの当地報道もあり、法律家の間ではこれまで3度首相の座についた同氏の再任はないとの見方が一般的だ。

当地メディアによると、最終報告書が示した判断の主要ポイントは以下のとおり。

〇シャリフ一族の資産は収入額によって説明し得る範囲を超えており、申告資産と収入を得るための手段には大きな隔たりが認められる。

〇シャリフ一族が運営する事業は収益が上がっていないと申告されているものが大半で、保有資産を正当化できない。

〇シャリフ一族が提出した証拠書類には捏造(ねつぞう)したものがある。

〇シャリフ首相は、自身の事業収益を子息らの事業利益から贈与というかたちで受領。

〇さらなる捜査のため、本件を国家汚職取締局(National Accountability Bureau)に送致。

次期首相の本命は実弟シャバーズ・シャリフ氏か

パキスタン下院の議席数は342で、ナワーズ・シャリフ氏の辞任後、与党の議席数は188となったものの、依然として過半数を維持している。主要英字紙「ビジネス・レコーダー」(7月31日)は、「ナワーズ・シャリフ氏は、暫定首相として前石油・天然資源相のシャヒッド・アバシ氏を支持する。次期首相候補としては、実弟で現在はパンジャブ州首相のシャバーズ・シャリフ氏の支持を表明した」と報じた。

州首相であるシャバーズ・シャリフ氏が中央政府の首相に就任するためには、補欠選挙で選出されて与党内の支持を取り付け、国会の承認を経て大統領から任命を受ける必要がある。パキスタン選挙管理委員会は当該補欠選挙の実施を既に決定しており、45日程度で実施されると報じられている。

ナワーズ・シャリフ氏の選挙区はパンジャブ州。同州都のラホールはカラチに次ぐ第2の商業都市で、近年、順調な経済成長を遂げている。今回、総辞職した閣僚級20人のうち14人が、副大臣級では9人のうち8人がパンジャブ州選出だ。パンジャブ州は、政治的にも大きな影響力を有している。総辞職した中には、上院議員で前財務相のイスハク・ダール氏、中国パキスタン経済回廊の陣頭指揮に当たった下院議員で、前計画開発相のアッサン・イクバル氏、外国直接投資誘致の推進役だった前投資庁長官のミフタ・イスマイル氏も含まれている。

パキスタンには、内閣総辞職から新内閣組閣までの期間を定めた法律はないが、これまでの慣習としては、新首相が任命されてから約10日以内に組閣される。新内閣の構成メンバーと支持基盤が注目されるが、暫定首相のシャヒッド・アバシ氏もパンジャブ州選出であることから、引き続きパンジャブ州選出議員が入閣する公算が大きい。

在パ日系企業はシャリフ前政権の実績を評価

今般の首相辞任および内閣総辞職について、ジェトロがカラチ日本商工会にヒアリングを行ったところ、久林融会長は「ナワーズ・シャリフ政権下のパキスタン経済は過去10年間、平均すると4%前後で成長しており、2016/2017年度(2016年7月~2017年6月)では過去10年間で最高となる5.3%の成長率を記録した。経済政策には課題はありながらも、その実績は評価される。次期内閣にも、これまでと同様に、経済重視の政権運営を期待する」と述べた。

なお、株式や外国為替などの当地金融市場は、7月31日の取引終了時点では特段大きな反応は示しておらず、通常の範囲内の値動きだった。

(久木治)

(パキスタン)

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