電子商取引関連団体、3~5年の移行期間導入を要請-ブレグジットに向けた意見書を公開-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年07月31日

欧州の個人消費者向け(BtoC)を中心とする電子商取引関連事業者で構成される欧州eコマース・オムニチャンネル事業者協会(EMOTA)は7月19日、英国のEU離脱(ブレグジット)を念頭に同産業としての意見書を公開した。ブレグジットに伴う関税や通関手続きの復活はウェブショップなどを営む中小事業者の経営に深刻な影響を及ぼし、市場の混乱を避けるためには3~5年の移行期間の導入が必要と指摘する。EMOTAのマウリッツ・ブルッヒンク事務局長に聞いた(7月19日)。

EU・英国間の越境ECに寸断リスクも浮上

EMOTA(本部:ベルギー・ブリュッセル)は、欧州の企業と消費者(BtoC)間の電子商取引(EC)事業者を中心に、オランダのポストNLなど郵便事業者、ドイツポスト傘下のDHLや米国のユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)などの配送事業者のほか、米国のEC事業者アマゾン・ドット・コムや中国の阿里巴巴集団(アリババグループ)、日本のGMOインターネットグループなどの有力インターネット事業者も加入している横断的な産業団体だ。英国の娯楽ソフトウエア流通事業者協会(ERA)や中小企業連盟(FSB)なども加わっていることから、ブレグジットはEMOTA全体にとっても大きな問題になっている。同協会は7月19日、ブレグジットに向けた意見書を公開した。

この意見書によると、欧州のEC市場(BtoC)は5,400億ユーロ規模にまで成長しているが、大企業が運営するマーケットプレイスにウェブショップなどを出店する中小企業が関連事業者としては大多数を占めている。このため、関税や通関手続きの復活などブレグジットに伴う前例のない事態を不安視する声が根強い。1日当たり100万個ともいわれるEU域内のBtoC取引の小包発送を担っているのは、これら中小・零細企業だからだ。EMOTAのブルッヒンク事務局長によると、BtoCの取引額はドイツに次いで英国が大きく、特にドイツや北欧で高級インテリアや雑貨を扱うオンライン販売事業者にとって英国市場は重要とされる。同事務局長は「英国がEU域外の第三国になれば、これまでシームレスに売買が行われてきたEU・英国間の取引に従事する事業者の混乱は避けられない」と指摘する。混乱は単に関税負担や通関手続き作業の問題にとどまらず、個人データ保護やクレーム処理をめぐる手続きや要件がEUと英国との間で異なる可能性も想定されるため、ウェブサイト改修などに対応する必要も出てくるという。

また、資金力のある大企業であれば、ブレグジット後に、在庫を管理する倉庫や配送・返品のルートやチャンネルをEU側と英国側で分け、2系統で運営することもできるが、「中小・零細企業には多大なコスト負担を強いられる2系統管理の選択肢はない」とEMOTAは指摘する。この結果、EU側と英国側を結ぶ越境ECが寸断するリスクも否定できない。

移行期間の導入やEU・英国包括的FTA締結に言及

こうした中小・零細オンライン販売事業者の混乱を最小限に食い止めるためには、英国はEUとの離脱交渉終了後、直ちにEU単一市場へのアクセスを失わないよう、3~5年の移行期間を導入すべきとの考えの下、EMOTAとして欧州委に対して働き掛けを行っているという。また7月19日の意見書では、これまでのEU・英国間のスピーディーな配送を維持できるように、簡易な特別通関手続き(ファストトラック)を確立すべきとも指摘している。

同意見書は結論として、最終的にEUと英国の間で、これまでのルールや基準の調和継続を保障する包括的自由貿易協定(FTA)を結ぶことが双方の利益にかなうことや、そのためにFTAで「規制協力章」を導入し、双方の規制当局間での対話を通じて規制調和を目指すことが重要との認識を示している。

このほかEMOTAは「製品安全基準の相互認証」「個人データ保護についての十分性認定」「郵便事業者の相互運用性確保」「知的財産権保護での協力」などの分野でも、EUと英国の連携が欠かせないと意見書の中で強調している。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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