EU離脱交渉は英国にとって一層困難に-フランス大統領選についての英国メディアの見方-

(英国、フランス)

ロンドン発

2017年04月25日

 フランス大統領選挙第1回投票(4月23日)の結果を受け、英国では決選投票でのエマニュエル・マクロン候補の当選を仮定した、英国のEU離脱(ブレグジット)交渉への影響について論じられている。各紙は総じて、マクロン候補のEU単一市場へのアクセスをめぐる厳格な態度や、英国のEU離脱をフランス経済活性化の機会としようとする発言から、英国にとって厳しい交渉が待ち受けるとの見方を示している。

正反対の陣営による決選投票

「フィナンシャル・タイムズ(FT)」紙(4月24日)は、1面で投票結果を大きく報じた。グローバリゼーションや経済の近代化、欧州統合を志向するマクロン候補に対し、保護主義や国境(管理)への回帰、ユーロからの離脱を訴えるマリーヌ・ルペン候補という、国のビジョンや世界での位置付けについて正反対の考え方を持つ、2つの陣営による2週間にわたる戦いが繰り広げられるとしている。決選投票(5月7日)での勝利が有力とされるマクロン候補だが、市場開放的な経済政策や移民管理政策、EUにおいてフランスが果たすべき役割についての考えは、他の極右・極左候補とは異なるものであり、今後、保守層や左派の取り込みが必要になる、と分析。決選投票の投票率が伸びないようだと、ルペン候補に流れが傾く可能性もある、としている。

また、FT紙は金融市場への影響にも着目して、マクロン候補がルペン候補に先行したことはEU加盟国を喜ばせるとともに投資家に安心感を与えた、と評価した。第1回投票後の4月24日の市場ではユーロやフランス国債を買う動きが鮮明になっており、アジア市場では5ヵ月ぶりに1ユーロが1.09ドルを超え、欧州市場ではフランスの10年物国債利回りが0.821%と10ベーシスポイント低下している。

マクロン候補は「ハードブレグジット」の姿勢

各メディアは、決選投票でのマクロン候補の勝利を仮定し、英国とEUとの間で今後本格化する英国のEU離脱交渉に与える影響についても分析している。

BBC(4月24日)は、法人税率の引き下げなどのマクロン候補の政策は、英国のEU離脱後に企業をフランスに引き付けるものと分析している。しかし、労働者の権利に係る規制緩和などへの批判は強く、これまでのフランス労働市場の改革の歴史を振り返るとその実現は容易でない、としている。一方で、マクロン候補の勝利は、英国のEU離脱の是非を問う国民投票(2016年6月)以後に欧州で広がりつつあった右傾化に歯止めをかけるものになる、と解説した。

「ガーディアン」紙(電子版4月24日)は、これまでマクロン候補が、EU単一市場からの英国の離脱に賛同する「ハードブレグジット」の姿勢を取り、EUの統合堅持を強調してきた点を指摘し、英国にとって離脱交渉の困難性が増す、としている。また同紙は、マクロン候補が2月に訪英した際に、英国の銀行や人材、研究開発・教育機関をフランスに積極的に誘致する姿勢を示したことも紹介している。

交渉の複雑性が薄れるとの見方も

FT紙(電子版4月24日)も、3つの理由を挙げて英国にとって厳しい交渉が待ち受けるとしている。1つ目の理由は、マクロン候補の勝利が英国や米国で前年に吹き荒れたポピュリズムの波の後退を意味することだ。2017年6月の国民議会選挙における支持基盤の獲得など、決選投票後に待ち受ける課題が大きいのは確かだが、マクロン候補が勝利すれば、反EUを掲げるポピュリズムの広がりを原動力とする英国のEU離脱強硬派にとっての打撃になるのは間違いない、としている。

2つ目は、マクロン候補が、大統領候補者の中で唯一の「確信的EU主義者(convinced European)」と自認しているためだ。すなわち、マクロン候補は、EU加盟国の要件について古典的な見方を抱いており、人・モノ・資本・サービスの移動の自由が単一市場へのアクセスの条件と見なしている。テレーザ・メイ英首相はEU市場へのアクセスを最大限可能にするオーダーメイドの協定締結を志向しているが、マクロン候補の厳格な姿勢はこれを困難にする、としている。

3つ目として、マクロン候補が、英国のEU離脱をフランス経済活性化につなげようとしている点だ。かつて金融界に身を置いたマクロン候補は、パリを国際金融センターとするためにあらゆる手段を講じると予想される、とした。

外交や安全保障、国内で顕在化するテロへの対応などで英国と連携する必要性から、姿勢を軟化させる可能性はあるものの、FT紙は、英国との経済関係よりもEUの強化にはるかに重きを置こうとするマクロン候補の信念は強固、とみている。

ブルームバーグ(4月24日)も、マクロン候補の勝利が英国を厳しい立場に置くと論じているが、反対の見方を示す英国のEU離脱派の指導者のコメントも紹介している。それによると、マクロン候補の勝利はルペン候補の勝利に比べて政治的安定性をはるかに高めるもので、交渉の複雑性が薄れるとされる。もしもルペン候補が勝利した場合には、新たな関係性についての合意が全くないまま英国がEUを離脱する可能性が高まるなど、大きな混乱がもたらされるという見方をしている。

(佐藤央樹)

(英国、フランス)

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