製薬ノボノルディスク、オックスフォード大に研究センター設立へ-英国のEU離脱に反応さまざま-

(デンマーク、英国)

デュッセルドルフ、ロンドン発

2017年02月14日

 英国のテレーザ・メイ首相が1月17日に、EU離脱方針を具体的に示したことに対し、デンマークでは政界や産業界からさまざまな反応が出ている。そうした中、製薬大手ノボノルディスクは1月30日、英オックスフォード大学に予定どおり2型糖尿病の研究センターを設立すると発表した。同社は今後10年間にわたり1億1,500万ポンド(約163億円、1ポンド=約142円)を投資、100人ほどの研究者を配置する計画だ。

<政界は英国のEU離脱に懸念や称賛>

 英国のEU離脱決定に対するデンマーク政界の反応はさまざまだ。ラース・ルッケ・ラスムセン首相(自由党党首、中道右派)は「離婚が必要不可欠なことはあるかもしれないが、決して心地よいものではない。どんなに良い意図があっても、課題は起こり得る」と、英国のEU離脱を離婚に例え、今後は可能な枠組みで英国との建設的な関係構築に取り組むと述べた。

 

 社会民主党(野党、中道左派)のメッテ・フレデリクセン党首は「欧州が弱体化することには変わりない」と懸念を表明した。急進左党(野党)のモーテン・ウスタゴー党首は、メイ首相の演説が反EUを掲げるデンマーク国民党(野党、右派)の躍進に一役買い、場合によってはデンマークのEU離脱の是非を問う国民投票実施に結び付けられる可能性があることを示唆した。デンマーク国民党のクリスチャン・チュールセン・ダール党首は「英国が自らの意思で離脱したというよりも、EUのやり方が英国を押し出した」との見解を示し、同党のソレン・エスパーセン副党首はメイ首相を「欧州の大政治家」とたたえた。

 

<産業界は英国企業が競争力を高めないか懸念>

 デンマークにとって英国は5番目の輸出相手国で、英国との貿易により45,000人の雇用が創出されている。デンマーク統計局と財務省の試算では、英国のEU離脱によって13,000人の雇用減となり、デンマークのGDP成長率が最大1ポイント低下する懸念があるという。

 

 デンマーク産業界には、EU離脱後の英国が国家補助金や労働者保護、環境規制といったEU規制を撤廃し、それによって価格競争力を高めることへの懸念もある。特に主要産業である海運業界の懸念は大きい。デンマーク海運協会のヤコブ・K・クラセン会長代理は、英国船主協会が20161028日に発表した「EU離脱後の成長に向けた青写真」の中で、時代遅れのEU規則を撤廃すると提案していることに対して、「英国企業が引き続きEU市場にアクセスしたいなら、フェアプレーが求められることを、英国政府は認識すべきだ」として、ロビイング活動に取り組むことを明らかにしている。

 

2型糖尿病の研究に100人を配置>

 こうした中、デンマークの製薬大手ノボノルディスク(本社:バウスベア)は130日、今後10年間にわたり11,500万ポンドを投資して、オックスフォード大学内に100人ほどの研究者を配置した2型糖尿病の研究センターを設立することを発表した。デビッド・ゴーク英国財務省首席副大臣は、この投資はEU離脱後も英国が科学や研究において先導的な地位にあり続けることを示す「確信ある決議」だ、と語っている。

 

 ノボノルディスクで研究チームのチーフも務めるマッド・トムセン副社長は「英国のEU離脱決定により一度は決定をためらったが、超長期的な視点で考えた」と述べ、「われわれは英国のEU離脱を明らかに不幸なことだと考える。しかし、オックスフォード大学が学術面での優秀さを示してきた伝統と、それを製薬分野での成功につなげるわれわれの能力は(英国のEU離脱によって)変えられるものではない」と、英国放送協会(BBC)の取材に対してコメントした(130日)。

 

 米誌「フォーブス」(130日)は今回の決定について、20166月の英国の国民投票後にポンドがユーロに対して下落したこと(現在では1割程度)を指摘し、デンマーク・クローネ建て(ユーロに連動)のノボノルディスクにとっては格段に安く投資できる好機であり、驚くにあたらない、としている。

 

(安岡美佳、岩井晴美)

(デンマーク、英国)

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