景気回復を見込むも、ブレグジットやトランプ・リスクが内在-欧州委が冬季経済予測を発表-

(EU、米国)

ブリュッセル発

2017年02月15日

 欧州委員会は2月13日、2017年冬季経済予測を発表し、EUの2017年の実質GDP成長率を1.8%と2016年11月の秋季経済予測から0.2ポイント上方修正した。また、ユーロ圏の実質GDP成長率についても、0.1ポイント上方修正した。ただし、今回の予測に関するリスクとして、米国のトランプ政権の経済政策や英国のEU離脱(ブレグジット)問題の行方など政治問題への警戒が内在するとの見方を示した。

<前例のない不透明感に警戒強める>

 欧州委は2月13日に発表した冬季経済予測で、前回の秋季経済予測の実質GDP成長率から、EU28ヵ国(1.6%→1.8%)は0.2ポイント、ユーロ圏(1.5%→1.6%)は0.1ポイントそれぞれ上方修正した。2016年の実質GDP成長率との比較では、2017年はEU28ヵ国(1.9%→1.8%)、ユーロ圏(1.7%→1.6%)ともに0.1ポイント下回る見通しになった。欧州委は、EU経済が底堅く推移しており、その流れは2017年も続くと総括したが、経済環境を取り巻く不透明性は前例のない状況だ、とも指摘する。

 

 今回の発表の中で、欧州委のバルディス・ドムブロフスキス副委員長(ユーロ・社会的対話担当)は「欧州経済の回復は続くが、先行き不透明な状況の中、競争力を持続し、環境変化を乗り越える必要がある。このためには、EUとして構造改革を進めるべきだ」と指摘。さらに、「物価水準も上昇基調にあることから、現在の低金利政策を今後も継続できる環境にあるとは思えない。このため、財政収支や債務状況に問題を抱える加盟国は、経済リスクに耐えられるようにその健全化に努めるべきだ」と述べた。また、欧州委のピエール・モスコビシ委員(経済金融問題・税制・関税同盟担当)も「欧州経済を取り巻く不透明性は最高潮に達しており、成長を持続させるため、あらゆる政策を発動する必要がある」と警戒感をあらわにした。

 

<「トランプ」「選挙」「ブレグジット」が不安定要素>

 欧州委は今回発表した経済予測に潜むリスクとして、(1)いまだ明らかになっていない(still-to-be-clarified)トランプ米政権の政策、(2)2017年に欧州で行われる幾つかの国政選挙(オランダ、フランス、ドイツなど)、(3)英国とのEU離脱をめぐる協議の行方、についても言及した。

 

 ただし、トランプ政権の経済政策については、短期的にはその景気刺激策の結果、現在の欧州委の想定以上の成長(プラス)要素になる可能性もある、とした。また、中長期的課題としては、「欧州債務危機の余波(当事国の財政健全化徹底)」や「英国のEU離脱問題」「(新興国経済を圧迫する)米国の金融引き締め」「中国の債務問題顕在化」などを指摘した。

 

<EU経済の堅調を反映し、中・東欧では人材払底も>

 ただ、EU経済は総じて堅調で、欧州委は今回発表した経済見通し対象期間(2016、2017、2018年の3年)全てにおいて、全EU加盟国がプラス成長となっていることを強調した。これはリーマン・ショックが起こった2008年以降では初めてのことだという。

 

 国別に2017年の実質GDP成長率の状況(前回予測→今回予測)をみると、欧州経済を牽引するドイツが1.5%→1.6%と上方修正され、EU離脱問題の影響で成長鈍化が予測されていた英国が1.0%→1.5%と大幅に上方修正された。経済に不安要素を抱えるギリシャ(2.7%→2.7%)、スペイン(2.3%→2.3%)、イタリア(0.9%→0.9%)などについても下方修正はなく、底堅さを示した。

 

 欧州委は全体的な経済の堅調を反映して、雇用情勢見通しについても、改善傾向が強まるとの見方を示している。EU28ヵ国の失業率は、2017年については8.3%(前回予測)→8.1%、2018年についても7.9%→7.8%と徐々に低下する、としている。この傾向は、ユーロ圏(2017年:9.7%→9.6%、2018年:9.2%→9.1%)でも同様で、スペイン(2017年:18.0%→17.7%、2018年:16.5%→16.0%)においても、前回予測から大幅な改善見通しが示された。

 

 また、日系企業の欧州における生産拠点が集積する中・東欧での失業率の予測推移をみると、チェコ(2016年:4.0%→2017年:3.9%→2018年:3.8%)を筆頭に、ポーランド(2016年:6.3%→2017年:5.6%→2018年:4.7%)、ルーマニア(2016年:6.0%→2017年:5.7%→2018年:5.6%)といずれも「歴史的な低水準」に達する見通しで、人材払底を警戒する必要がある、としている。

 

(前田篤穂)

(EU、米国)

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