AP州のビジネス環境探る視察団を派遣-富山県とジェトロが共同で実施-

(日本、インド)

富山、ニューデリー、チェンナイ発

2016年11月28日

 富山県とジェトロは共同で10月23~28日、インド南部に位置するアンドラ・プラデシュ(AP)州へ「インド・AP州ビジネス環境視察団」を派遣した。日系企業などから7社・団体の合計11人が参加し、新州都予定地のアマラバティならびに日本企業が多く集積する同州南部のスリシティー工業団地を訪問した。富山県とAP州は2015年、経済や人材、学術面での交流に関する協定を締結している。

AP州との関係深める富山県>

 現在のAP州は20146月、テランガナ州が分離独立するかたちで誕生した。現在の州都ハイデラバードは独立後10年間に限り、両州の共同州都とされているが、その後はテランガナ州の州都となることが決まっている。そのためAP州は州中央部に位置する都市ビジャヤワダから車で1時間ほどの場所にあるアマラバティを新州都としてその整備を進めている。新州都開発におけるインフラ開発など、投資機会が多い同州への取り組みを加速するため、経済産業省とジェトロはAP州官民議会を立ち上げ、20165月には高木陽介経済産業副大臣を団長とし、日本企業25社・団体のミッションが同州を訪問している(2016年6月22記事)。

 

 こうした状況下、富山県は医薬品産業の振興といった共通の関心事項も後押しし、AP州との間で経済や人材、学術面における「交流・協力に関する覚書」を20151211日に締結。12月末には石井隆一知事が同州を訪問し、AP州のN・チャンドラバブ・ナイドゥ州首相と会談している。石井知事は、ものづくり、農業、人的交流などのさまざまな面で同州との関係を強めていきたいとしている(富山県ウェブサイト)。

 

<既進出富山県企業と新州都アマラバティを訪問>

 AP州との覚書をフォローアップする目的で派遣された今回の視察団は、富山県内企業を中心に7社・団体の11人で構成。20161023日から26日にかけては、ニューデリー周辺に進出している富山県企業と、AP州の新州都予定地であるアマラバティを訪問した。

 

 視察団の一行は1025日、富山県企業の三光合成(本社:南砺市)とインド現地で樹脂販売会社JRGホールディングスの合弁企業サンコー・エスバンス・JRGツーリング・インディア(SANKO SVANCE JRG TOOLING INDIA、エスバンスは三光合成の子会社)を訪問し、事業内容の説明を受けた後、工場内の製造現場を視察した。同社は、自動車の樹脂部品および部品製造に使う金型を製造している。面談の場で同社担当者は、インド市場の将来性を強調しつつも、工場建設における施工品質の低さや他州へ製品を運搬する際の書類手続きの煩雑さ、毎年の賃上げ交渉など、投資先としてインドが抱えるさまざまな課題について説明があった。

 

 インド人の雇用環境について活発な質疑応答があり、団員からは「日本で聞いていた話と実際に目で見て得られる情報は大きく異なる」などの感想が寄せられた。投資環境の厳しさを実感しつつも、身近な県内企業が実際に事業を展開している様子を間近に見て、視察団の一行は大きな刺激を受けていたようだ。

 

 1026日には、新州都アマラバティの開発現場を視察し、ビジャヤワダ市内の首都圏開発局の会議室において、州経済開発委員会からAP州の概要についての説明を受けた。アマラバティでは、州都機能を早期に移転するための仮庁舎の建設が進められており、2018年の完成を目指して、州首相官邸や議事堂など6ブロックの建設が進められている。

 

 本視察団の事務局を務めた富山県庁は、AP州の将来的な発展に期待を寄せつつ、直近の協力事項として、2017年秋に富山県で開催を予定している「富山県ものづくり総合見本市」へのAP州内からの企業出展を要望した。これを受けて、AP州からも同見本市への協力を検討したい旨の申し出があった。2017年の見本市へのインド企業出展が実現すれば、富山県とAP州が締結した覚書による具体的な成果の1つとして、インド企業と富山県企業の交流が活発になることが期待される。

 

<日系企業15社が入居するスリシティー工業団地>

 視察団は1027日に、AP州の最南端(チェンナイ市内から約70キロ、車で約2時間)に位置するスリシティー工業団地を訪問した。全7,500エーカー(約30平方キロ)の敷地を有し、敷地内にはSEZ(経済特区)、DTZ(国内一般関税区域)、FTWZ(保税倉庫区域)エリアが設けられている。事業会社スリシティーによると、現在26ヵ国から約140社の企業が入居しており、うち日系企業は15社。20164月にはいすゞモーターズインディアが操業を開始した。

 

 スリシティーは同工業団地の強みとして、(1)複数の港(クリシュナパトナム港、チェンナイ港、カマラジャ港、カトゥパリ港)を使える場所に位置していること、(2)州政府と良好な関係を構築しているため、行政関連の手続きに関しても手厚いサポートが可能であること、(3)工業用地のみならず、居住区や教育施設などを含めた総合的な開発を検討していること、などを挙げた。同社は日系企業の誘致にも力を入れるとしており、将来的には居住スペースや和室などを兼ね備えた日本人専用施設の建設も計画中だという。

 

 視察団は、同工業団地内の日系企業のパイオラックス(PIOLAX)インディアも訪問した。同社は2009年に設立され、2012年から操業を開始。工業用ファスナー、小型ユニット部品など自動車用部品の製造・販売を行っている。20167月には生産能力拡大のため、工場の拡張を行った。同社の梅山貴史社長はスリシティー工業団地での工場運営について、電力状況は改善しているものの瞬間停電がまだ起こるという現状や、産業廃棄物の処理に苦労することがあるといった課題を述べた。続いて、視察団は同社の工場を見学し、団員からは「当地で操業する日系企業の工場訪問を通じて、インドビジネスの実態を知ることができた」などの声が聞かれた。

 

 視察を終えて、団長を務めた富山県商工労働部の大橋豊次長は「渋滞や停電などインドのビジネス環境の厳しさを実感したが、引き続き富山県としてインドAP州との連携を強め、県内企業のインド進出の後押しをしていきたい」とコメントし、今後の県内企業支援を含むAP州との連携に向けて積極的な姿勢を示した。

 

(長尾祐介、古屋礼子、磯崎静香)

(日本、インド)

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