求められる交通インフラ技術、日本企業に商機-アルゼンチン・セミナー「交通インフラ開発と投資機会」を開催-

(アルゼンチン、日本)

環境・インフラ課、米州課

2016年10月13日

 アルゼンチンの政権交代(2015年12月)以降、日本との経済交流が活発化している。2016年9月にはギジェルモ・ディエトリッチ運輸相が来日し、鉄道関係者らを対象としたジェトロ主催の同国交通インフラに関するセミナーが9月29日に開催された。同セミナーには運輸事業長官のマヌエラ・ロペス・メネンデス氏も登壇した。交通インフラにおけるメンテナンス不足など過去の投資不足に起因する問題は、日本のインフラ関連ノウハウや技術の導入によって解決・改善が可能とされる。日本の交通インフラ関連企業にとって、アルゼンチンは今後、注目に値する国となりそうだ。

<インフラの不備は投資機会とアピール>

 ジェトロは929日、在日アルゼンチン大使館、海外鉄道技術協力協会(JARTS)と共催で、ディエトリッチ運輸相を迎えて「交通インフラ開発と投資機会」と題するアルゼンチン・セミナーを開催した。セミナーには約150人の交通インフラ企業関係者が参加した。冒頭にジェトロの石毛博行理事長が、マクリ政権発足以降のアルゼンチンの投資環境の変化を受けたインフラミッション(3969人)派遣などジェトロの取り組みを紹介した。また、日本の地下鉄が首都ブエノスアイレスの地下鉄をモデルにしたことや、丸ノ内線の車両が1990年代以降にブエノスアイレスの地下鉄で使用されるようになったことなど、2国間の地下鉄に関する交流の歴史を紹介し、今後のアルゼンチンの交通インフラ整備に関して、日本の優れた技術・ノウハウ導入への期待を示した。

 

 アラン・ベロー駐日大使は本セミナーの意義について、「日本企業がアルゼンチンの交通インフラ市場を成長機会として捉えるきっかけになるもの」と日本企業参入への期待を表明した。さらに、掛江浩一郎国土交通大臣官房審議官(国際)はあいさつで、「新政権の下での新たな交通インフラ整備の方向性について、大臣自らの言葉でお伝えいただける貴重な機会」と述べた。

 

 特別講演のスピーカーとして登壇したディエトリッチ運輸相は、現在抱える交通インフラの問題として、需要増加に対応できない設備そのものの不足に加え、既存設備のメンテナンス不足があると強調した。具体的な例として、全国の貨物輸送の90%が道路(トラック)により行われているが、道路の総延長距離に占める高速道路の割合は4%にすぎず、また国道の約4割は舗装が悪く事故の危険性をはらんでいることを挙げた。また、鉄道は貨物輸送の5%しか使用されておらず、さらに既存路線もメンテナンス不足のため、列車は時速15キロ程度の低速で運行せざるを得ず、脱線も頻発しているなど安全面でも問題があるとの認識を示した。ただ、こうした問題は日本企業を含む外資企業にとっては、インフラ部門への投資機会が非常に大きいことでもあると述べ、今後4年間(20162019年)で1,000億ドルの大規模な投資計画を予定していることを紹介し、日本企業の入札参加に強い期待を寄せた(表参照)。

表 アルゼンチンの主な交通インフラ整備計画

 さらにディエトリッチ運輸相は、日本を含む外国資本の交通インフラプロジェクト参加を促すため、公共調達制度の抜本的な改善を行ったことを説明した。具体的には、外資系企業の参入障壁を低くするため、入札案件はインターネット上で全て公開し、透明性を確保したことや、公務員の汚職を防ぐため、スタッフの大幅な入れ替え、採用面接によるスクリーニングを実施したことを例に挙げた。こうした改善の結果、本セミナー前日に実施された65億ペソ(約5億ドル)規模の入札において、34というこれまでにない数の企業が応札したことについても触れ、入札手続きの改善の成果は明らかだとした。最後に、マクリ政権発足後9ヵ月間に実施した債務問題の解決、輸入や為替規制の撤廃、税制改革などの成果を踏まえ、マクロ経済全体が改善に向かっているとの認識を示し、その上で日本とアルゼンチンの歴史にふさわしい2国間関係再構築のタイミングが到来していると述べて、スピーチを締めくくった。

 

<日本のインフラ技術に売り込みのチャンス>

 続いて、メネンデス運輸事業長官が登壇した。鉄道に関するプロジェクトを中心に、具体的な入札案件の紹介や事業推進に必要とされている技術について説明を行った。

 

 都市交通については、1,400万の人口を有するブエノスアイレス都市圏で1日の地下鉄使用者は50万人にすぎず、近郊路線の使用者も150万人にとどまるとのデータを紹介。その背景には、過去の投資不足に伴う安全性への懸念が市民の間にある、との見解を示した。そうした懸念を払拭(ふっしょく)するための取り組みとして、主要近郊路線のロカ線では1980年代から自動制御システムが日本の協力により整備されてきたことを紹介した。同路線は全体の10%に自動制御システムを導入済みだが、2019年に向けて全て電化し、全列車に自動制御システムを導入するという。なお、アルゼンチン運輸省のウェブサイトには、日本の自動制御システムの調達を6,300万ドルで丸紅を通じて行った旨の情報が掲載されている。

 

 地下鉄については、西から市内に入る路線を地下に潜らせることが必要であり、これに関して5つの地下の駅、20キロのトンネル工事が必要とし、日本のトンネル掘削技術を生かす機会となる可能性はある。既に最初の地下駅に関しての入札は始まっており、2017年初めには最も重要な6キロのトンネル区間の入札が始まるという。

 

 日本の「質の高いインフラ」を支える技術やノウハウは、同国の老朽化した交通インフラの旺盛な更新需要に応えるためのソリューションの1つとなり得ることが、今回のセミナーで確認された。マクリ政権が公共調達におけるプロセスの透明性確保に努めるなど、事業リスクも低下しており、日本企業にとっては魅力的な事業展開先となってきそうだ。

スピーチするディエトリッチ運輸相(ジェトロ撮影)

(遠藤壮一郎、竹下幸治郎)

(アルゼンチン、日本)

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