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人の移動の自由、制限回避策を探る-メイ首相のEU加盟国歴訪(2)-

(英国、アイルランド、イタリア、スロバキア、ポーランド)

ロンドン発

2016年08月05日

 ドイツとフランスに続き、メイ首相はアイルランド、イタリア、スロバキア、ポーランドを訪問した。EU域内の人の移動の自由に関して、歴史的な結び付きが強い隣国アイルランドとの間では、「国境自由化」の扱いが論点となるが、英国が移民流入の管理強化に向かう中で、「国境自由化」をいかに維持していくか、落としどころを探るのは容易ではなさそうだ。

<共通旅行区域の維持が隣国との課題>

 726日、メイ首相はアイルランドのエンダ・ケニー首相との会談に臨んだ。英国が唯一陸地で国境線を共有しており、EU離脱に伴う大きな論点は「国境の自由化」の扱いだ。英国民とアイルランド国民は、共通旅行区域(CTA)制度の下、パスポート検査などもなく両国間を往来できる。これは特に直接アイルランドと国境を接する北アイルランドにとって重要で、アイルランド国民と同じカトリック系の住民が自由に国境を越えられることは、北アイルランド和平プロセスの核をなしている。しかし、英国がEU離脱により移民対策を強化する場合やEUの関税同盟から外れる場合には、国境線での取り締まり強化や税関設置などの対策を迫られることも考えられる。メイ首相が「両国にはCTA維持についての強い意志がある」と述べたのに対し、ケニー首相も「国境の壁が存在した過去に戻ることを両国ともに望んでいないことで完全に合意した」と応じた。

 

 しかし、移民入国の管理強化と国境の自由化が両立できるのか、具体策を見いだすのは容易ではない。例えば、英国・アイルランド間の国境の扱いは現状のままとしつつ、グレートブリテン島(イングランド、スコットランド、ウェールズ)とアイルランド島(北アイルランド、アイルランド)の間に境界線を設けるという案がある。この場合、北アイルランドとアイルランド間の往来の自由は保障されるが、北アイルランドとその他の英国地域との移動の自由に制限が生じる。これに対し、北アイルランド行政府のアーリーン・フォスター第1首相は、「英国内に境界線が設けられるべきでない」と、否定的な考えを示している。

 

<オーダーメードの貿易関係を構築>

 727日に行われたイタリアのマッテオ・レンツィ首相との会談で、メイ首相の今後のEUとの貿易関係に関する考え方の一端が明らかにされた。メイ首相と同時期に訪米していた英国のリアム・フォックス国際貿易相が「自由貿易を行う英国独自の環境を整え、世界に乗り出すことを恐れない」と、関税率設定などに参加国の自主裁量を認めないEU単一市場やEU関税同盟からの脱退を辞さない姿勢を示したのに対し、メイ首相は「貿易関係は虚心坦懐(たんかい)に検討したい。これはすなわち、英国とEUに最適なモデルを作り上げるということで、既存のモデルを適用するということではない」と述べ、ノルウェー型、スイス型などの既存モデルとは異なるオーダーメードの貿易関係を構築する意向を示した。

 

<在英のEU加盟国民の権利保護に意欲>

 メイ首相は728日には、スロバキアのロベルト・フィツォ首相、ポーランドのベアタ・シドウォ首相とそれぞれ会談した。英国として移民管理の強化を進めていく一方で、中・東欧からの移民は貴重な労働力として英国産業に貢献していることから、EU離脱後にこのような移民労働者をどう扱うかが、英国産業界と中・東欧諸国の関心事となっている。特に英国内に居住するポーランド人は2014年末で85万人を超し、国別居住者数2位のインド人の37万人を大きく引き離している。こうした現状を踏まえ、メイ首相は「英国在住のポーランド人に対し、EU離脱後も英国内での地位を保障できるようにしたい」と語ったものの、「それは、EU加盟国に在住する英国人の地位が保障されることが条件」と付け加えることを忘れなかった。

 

 人の移動の自由については、EU単一市場への英国のアクセスに関してシドウォ首相も言及し、英国がモノ・人・サービス・資本の4つの移動の自由を受け入れることをアクセスの条件として維持したいが、妥協点を探ることも必要だと、柔軟な姿勢もみせた。

 

(佐藤央樹)

(英国、アイルランド、イタリア、スロバキア、ポーランド)

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