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不透明な世界経済の見通しに警戒感-英国EU離脱問題のシンガポールへの影響(1)-

(シンガポール、英国)

シンガポール発

2016年07月04日

 シンガポールの政府首脳や経済関連の省庁は6月24日、英国民のEU離脱〔ブレグジット(Brexit)〕の選択を受け、世界経済への影響が不透明なことを警戒している。リー・シェンロン首相は「英国と欧州にとって、今後数年は不安定な状態となるだろう」との見方を示した。英国のEU離脱問題への政府の対応と、日系企業への影響について、2回に分けて報告する。

<リー首相が先行きに懸念を示す>

 リー・シェンロン首相は624日、自身のフェイスブックで、英国の国民投票結果に理解を示しつつも、「『(EUからの)解放』や『内向き』の姿勢は、安全保障や国家の繁栄にとってマイナスとなり、薄暗い将来につながるだろう」と指摘した。また、「英国と欧州にとって、今後数年は不安定な状態となるだろう」と述べ、先行きに懸念を示した。同首相は、英国とEUとの間の新たな協定締結の行方や、世界経済への影響など懸案事項を挙げつつ、「誰もブレグジットが招く結果を予測できない」と述べた。

 

 ターマン・シャンムガラトナム副首相はフェイスブックで、「金融市場はネガティブに反応し急変動するが、2008年(リーマン・ショック)のようなことにはならない」との見方を示した上で、「向こう23年間は先行きの不透明感により、英国や欧州の経済成長が損なわれるだろう。そしてその影響は、アジアの私たちを含む世界経済に打撃を与える」と指摘した。

 

<通貨金融庁は金融市場安定に強い意思>

 624日は、シンガポールを含む東南アジア各国の株式が売られた。シンガポール証券取引所(SGX)のストレーツ・タイムズ指数(STI)は2,735.39と、前日比2.1%急落した。また、シンガポール・ドル(Sドル)も米ドルに対し下落した。シンガポール通貨金融庁(MAS、中央銀行に相当)によると、同日正午には1米ドル=1.3616Sドルとなり、前日正午の1.3375Sドルから大きく値を下げた。しかし、MASは同日の声明で、「シンガポールの銀行間取引市場は規律正しく機能し続けており、銀行システムも健全だ」と強調した。

 

 また、MASは「本日(624日)、国際外国為替市場で価格変動性(ボラティリティー)が高まったが、通貨バスケット制(注)によるSドルは許容変動幅内にとどまっている。MASSドルの過剰な価格流動性を抑制する準備ができている」とした。MASはまた、英国の国民投票の数週間前からEU離脱の結果を想定し、国内の銀行や海外の中央銀行、規制機関と密接に連携し、国内金融システムの安定を図るため準備を進めてきたことを明らかにした。その後の株式市場と為替相場は落ち着きを取り戻しており、629日現在、STI2,792.73、米ドル相場は1.3514Sドルと、624日以前の相場に戻りつつある。

 

<見解分かれる金融市場の見方>

 しかし、金融市場の先行きに関しては、見解が分かれている。地場大手の大華銀行(UBS)アジア大洋州地域投資戦略部門長のトム・リバーズ氏は「今後12ヵ月間、不安定な状態が続くだろう」との見通しを示した(「ビジネス・タイムズ」紙625日)。また、SGXも「ブレグジットは市場の価格変動を引き起こし得る前例のない出来事だ。(リスク管理の一環として)市場を絶えず警戒し、適切な時に迅速な調整ができるよう準備する」としている(「ストレーツ・タイムズ」紙625日)。

 

 一方、同じく地場大手DBS銀行のピユシュ・グプタ最高経営責任者(CEO)は「ブレグジットが及ぼす影響は誇張されている」として、「短期的には、ポンド安により英国は素早く回復できる。英国とEU間の貿易も継続する。マクロ経済を決定する比較優位は、今後も変わらないだろう」との見方を示した(「ビジネス・タイムズ」紙625日)。また、スイスはEUに加盟しないでもやってきたとする一方、「今後数日間は、ポンドよりもユーロがさらに弱くなるとみている」と、EUに対して厳しい見方をしている。

 

 在シンガポール日系金融機関のアナリストからは、シンガポールの実体経済面への影響よりも、金融面への影響を懸念する声が多く聞かれた。シャンムガラトナム副首相と同様に、リーマン・ショックのような状況にはならないとの見方が強いものの、以下のような点が懸念されている。(1)シンガポールには英国からクロスボーダーでの与信・貸し出しがあるため、英国の銀行の資金調達環境が悪くなると、貸し出しが細る可能性があること(この点は香港やオーストラリアなども同じ)、(2)金融センターとして資産運用会社が多く、英国・欧州での運用悪化が資産運用会社に影響し得ること、(3)リスク回避の観点からシンガポールを含むアジアからマネーが逃避する可能性があること、などだ。また、金融センターとしてのロンドンの位置付けが今後どうなるか、シンガポールなどアジアの金融拠点も注視する必要がある、との声も聞かれた。

 

(注)MASSドルの為替レートについて、米国を含む主要貿易相手国の通貨で構成する通貨バスケット制を採用。金融政策の手段として政策金利を設定せず、その代わりに毎年4月と10月の2回、Sドルの為替変動幅を見直している。

 

(小島英太郎)

(シンガポール、英国)

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