英国・EUとの協力関係を並行して継続-英国のEU離脱問題に対する中国政府の反応-

(中国、英国)

北京発

2016年07月01日

 英国のEU離脱問題について、外交部の華春瑩報道官は、英国国民の選択を尊重すると表明した。その上で、中国は英国との協力関係を継続し、両国の実務的な協力を推進すると同時に、EUとの関係発展も継続していくことを強調した。李克強首相は、英国のEU離脱の国際金融市場への影響は既に表れており、世界経済の不確実性がさらに増したとの認識を示し、共同で安定した国際環境をつくり出すことが必要だ、と述べた。

<影響はさまざまな方面に>

 外交部の華報道官は624日の定例記者会見で、英国の国民投票について質問を受けた際、中国側は英国の国民投票の結果に注目しており、英国国民の選択を尊重すると表明した。そして、中国は英国との協力関係を継続し、両国の実務的な協力を推進し、同時にEUとの関係発展を積極的に継続していくことを希望している、と強調した。また、欧州の発展に向けた自主的な選択を支持し、英国とEUが交渉を通じて早期に合意に達することを望むとし、安定的に繁栄する欧州は各国の利益に合致する、と述べた。

 

 英国の国民投票の結果が中英の経済・貿易関係に与える影響についての質問には、英国のEU離脱の選択による影響はさまざまな方面にある、とした。また、中国は英国との関係発展を重視しており、英国と共同で努力し、中英関係を良好に維持・発展させること、両国の実務的な協力が継続的に進展を得るよう推進していくことを希望している、と述べた。さらに、英国のEU離脱という国民投票の選択は、たった今起こったことであり、関係国はこの新たな状況に対して、真剣に研究するための時間が必要だとし、その影響を分析することの困難さも指摘した。

 

<世界経済の不確実性が増大>

 李首相は627日、世界経済フォーラム夏季会合(夏季ダボスフォーラム)の開幕式で演説した際、英国の国民投票の結果の国際金融市場への影響は既に表れており、世界経済の不確実性がさらに増したとの認識を示し、このような状況の中、共同で安定した国際環境をつくり出し、抜本的な対策を模索することが必要だ、と述べた。また、欧州は中国の重要なパートナーであり、新たな情勢の下で中国は引き続き中欧および中英関係を発展・維持させていくことに注力するとした。中国は団結して安定したEUと英国関係の実現に期待しているとも述べており、それぞれとの関係重視の姿勢がうかがえる。

 

 英国民のEU離脱選択後に、人民元が下落(628日の対ドル中間値は6.6528元)したが、李首相は、人民元は長期的に下落する根拠はなく、合理的な水準を保つ能力がある、と述べた。

 

 なお、中国人民銀行が624日にウェブサイトに掲載した責任者の声明では、中国は既に英国の国民投票結果公表後の金融市場の反応に留意し、対応策もあるとした。人民元の市場化形成メカニズムをさらに整備して、人民元レートの合理的な均衡水準を保持し、中央銀行、金融当局および主要国際金融機関との協調をさらに強化していくとしている。

 

<直接的な影響は限定的との見方>

 主要メディアは、「中国経済への英国民投票の影響は限定的」との有識者の見方を伝えている。中国銀行の田国立会長は624日、「世界の経済・金融に不確実性をもたらしたが、中国経済に対する影響は限定的で、直接的な打撃とはならない」と表明した(新華網625日)。また、田氏は「ユーロと英ポンドは長期的に低迷傾向となり、人民元の準備通貨としての地位はさらに高まるだろう。624日に人民元の対ドルレートは6.61480.55%下落したが、新興市場通貨の中では対ドル下落率は最も低い」と述べた(新華網625日)。

 

 中国人民大学・国際金融研究所の向松祚理事兼副所長は「英国のEU離脱は1つの長期的な法的プロセスであり、中国は英国および欧州における投資に根本的な影響は受けない。英国とEUがウィンウィンの貿易関係を維持していくことは可能だ。また、双方が一連の協議にあらためて調印することは可能で、英国はEU基本条約(リスボン条約)から抜けることも可能だが、英国がEUを離脱しないことは、中国の対英国および欧州貿易に安定を提供する」との認識を示した(「経済参考報」627日)。

 

<対EU政策のパイプ役失うと懸念も>

 一方、今後の中国への影響を懸念する声も聞かれる。浙商銀行経済アナリストの楊躍氏は「英国のEU離脱問題は、中国とEUの政治・経済分野における交流協力の推進に影響を与えるだろう。中英両国の協力は一貫して積極的かつ直接的で、いったん英国という懸け橋が外されれば、中国は他人を顧みることができないEUと複雑なゲームを行うことになる。中国は現在、『中英の黄金の10年』を構築し、英国との信頼関係を深め、経済・貿易分野をさらに深化させることを希望している。英国のEU離脱は国際金融市場としてのロンドンの地位を揺るがし、人民元の国際化のプロセスにおいて不利となる。同時に、英国の短期的な地位の低下と経済の動揺も協力関係に影響するだろう」と述べた(「経済参考報」627日)。

 

 中国現代国際関係研究院の馮仲平副院長は新華社のインタビューに対し、「英国はもともとEUの大国であり、中国に対する態度が積極的で、英国の対中政策はEUに多くの影響を与えてきた。例えば、EUが中国に市場経済国としての地位を与えることへの呼び掛けや、貿易保護主義への反対などの面において、英国は積極的に中国寄りの立場を取ってきた」との見解を表明した(新華網624日)。また、中国人民大学EU研究センター主任の王義●(木へんに危)教授は「英国がEUを離脱すれば、中国はEUの対中政策に影響する1つの重要なツールを欠くことになる」と指摘した(新華網624日)。

 

 2015年の中国の輸出全体に占める英国の割合は2.6%(596億ドル)、輸入全体に占める割合は1.1%(189億ドル)となっている。2015年の中国への対内直接投資額に占める割合も0.9%(11億ドル)と低い水準にある。英国のEU離脱には今後、一定のプロセスが必要で、短期的には直接的な大きな影響を受けるという論調はみられない。ただし、前述のとおり、世界経済・金融に対する影響をめぐる中国への連鎖反応などについては各種論じられており、注視していく必要がある。

 

(宗金建志)

(中国、英国)

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