市況見通しに悲観的な食品・飲料産業-一部には新たな通商関係構築に好機との見方も-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2016年07月04日

 欧州の農業協同組合で構成される産業団体は、英国のEU離脱問題が、もともと厳しい経営状態にあった農業生産者をさらなる苦境に陥れ、「火に油を注いだ」との認識を明らかにした。全体に食品・飲料産業からは悲観論が目立つが、スコットランド・ウイスキー協会は、EU以外の輸出市場と新たな通商関係を模索する好機との見方を示した。

<欧州の農業従事者の苦境に追い打ち>

 欧州農業組織委員会(Copa)・欧州農業共同組合委員会(Cogeca)は624日に声明を出し、英国のEU離脱問題を念頭に「英国とEUの農業事業者にとって『悲しい日』になった。ただ、国際政治が引き起こした問題の『つけ』を農業事業者は払うつもりがないことを訴えていく」ことを明らかにした。また、「今後も農業分野への影響を注視する必要がある」とし、「われわれの最大の関心は欧州農業市場のさらなる混乱を回避することだ」と既に混乱が生じていることを示唆した。現在、英国産の食品・飲料の約半数がEU市場向けであると同時に、英国の食品・飲料市場はその他のEU加盟国からみると有望な輸出市場であり、高級食材市場として期待が大きいと指摘した。CopaCogecaとしての記者会見に臨んだペッカ・ペソネン事務局長は「英国のEU離脱のための交渉は2年以内に妥結するだろう」との見通しも明らかにした。

 

 さらに、CopaCogeca627日にも欧州農業市場の混乱について声明を出し、「農業事業者レベルで市況は全く改善のめどが立っていない。欧州の農業分野は、ロシアによる対EU経済制裁に加えて、高コスト・低価格という構造問題もあり複雑だ。もともと欧州の農業事業者は資金繰りに苦慮していたが、英国のEU離脱問題が『火に油を注いだ』」として、EUや加盟国政府による農業分野への支援をあらためて要請した。

 

 英国の高級紙(オンライン日刊紙)「インデペンデント」(627日付)は、英国農業従事者組合(NFU)への取材に基づいて、「英国のEU離脱問題で、英国での食品・飲料の価格高騰は避けられない」との見通しを示した。英国では通貨ポンドの価値が急落しているほか、伝統的に食品・飲料の外国依存が根強いため、こうした市況の混乱の影響が出やすい、とNFUは警鐘を鳴らしているという。

 

<スコットランド産ウイスキーには販路拡大の好機>

 他方、英国のスコットランド・ウイスキー協会(SWA)は624日付のデビッド・フロスト会長声明で、英国のEU離脱問題について、「市場の不透明性につながることは不可避」と語った上で、同時に「(EUの)単一市場へのアクセスがどうなるのか」「広範な国際市場とつながるための通商協定をどうまとめ上げるか」が重要との認識を明らかにした。

 

 後者の指摘は、英国がEUの通商協定の枠組みから離脱することで、戦略的な国・地域と通商交渉を開始する「自由」を回復することを意味している。フロスト会長は「(英国)政府はこれから、どのような通商交渉のアプローチを準備するか、協議が必要だ」ともコメントし、この作業の中で、政府を積極的にバックアップすることにも言及した。SWAとしては政府に、慎重かつ真剣に「最適な市場アクセス」の在り方を探ることを求めるとしている。そして同会長は、「EU市場」と「その他の輸出市場」それぞれへのアクセスをバランスさせることにこそ、スコットランド産ウイスキーの市場拡大のカギがあるとし、EU市場偏重から脱却し、新たな通商関係構築の好機と捉える考えを示した。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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