広い範囲で日系企業にも影響か-英国のEU離脱問題(3)-

(英国)

ロンドン発

2016年06月23日

 英国には879社の日系企業が進出し、日本の直接投資残高は892億2,770万ドル(2015年末、財務省)に上る。連載の最終回は、英国のEU離脱が日本企業に与える影響について。

<日系企業の6割強がマイナスとの見方>

 英国のEU離脱により、日系企業はどのような影響を受けるのか。短期的には為替の変動や英国の景気低迷・市場縮小などにより、商品・サービス価格の上昇や消費の減退が予想される。中長期的には、EUからの人材確保が難しくなることのほか、EUとの交渉にもよるが、通関・関税コストの上昇や、それに伴う原材料・部品などの調達コストの上昇、規制・法制度の変更への対応など、影響が広範囲に及ぶことも考えられる。

 

 進出日系企業879社のうち470社は現地法人(本社)で、英国の拠点が広く欧州をカバーしている企業が多い。金融機関は英国で許認可を受ければEU域内で自由に出店・営業できる「パスポート制」により各国に展開しており、パスポート制が利用できなくなった場合には、EUで別途、認可を受ける必要が出てくる。自動車・鉄道などの製造業では、原材料・部品などに関税が発生する可能性もあることから、欧州全域でのサプライチェーンの見直しが必要となる。また、英国貿易投資総省(UKTI)によると、日本企業のうち158社が英国に研究開発・デザインセンターを置き、EU基金の恩恵を少なからず受けていることから、研究開発体制の見直しも迫られる可能性がある。

 

 614日にジェトロはロンドンで、英国のEU離脱問題に関して日系企業向けのセミナーを行った。参加した企業のうち54社が回答したアンケート結果では、英国のEU離脱によりマイナスの影響を受けるとした企業は64.8%に上り、分からないと回答したのは25.9%、影響はないとしたのは9.3%にとどまった。中には、ドイツやオランダ、アイルランドへの移転を検討している、という声もあった。

 

<現在はMA活発化も進出企業数は減少傾向>

 2015年末現在の日本から英国への直接投資残高は8922,770万ドルで、投資先としては米国、中国、オランダに次ぐ4位だった。日本からの直接投資残高は2009年以降、急速に増加している。最近も、201511月に完了した日本経済新聞社によるピアソンからのフィナンシャル・タイムズ・グループ買収や、20162月に完了した三井住友海上火災による損害保険会社アムリンの買収など、大型MAの動きが活発だ。

 

 一方で、外務省の海外在留邦人数調査統計(平成28年要約版)によると、英国に進出している日系企業数は201510月時点で879社(支店と駐在員事務所を含み、日本人が海外に渡って興した企業は除く)で、前年より52社の減少となった。減少した主な業種は製造業(38社)や金融・保険業(25社)で、人件費やオフィス賃料などの高コストを理由にした新興国への移転などの動きを反映し、進出企業数は徐々に減少している。

 

(佐藤丈治)

(英国)

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