脆弱な市場、緊急時には対応策を実施-ケニー首相が英国の国民投票を受け表明-

(アイルランド、英国)

ロンドン発

2016年06月30日

 英国の国民投票の結果を受け、アイルランドのエンダ・ケニー首相は6月24日に記者会見し、ヒト・モノ・サービスの移動の自由はすぐには変わらないと強調した。また政府として、短期的には市場の脆弱(ぜいじゃく)性に対応すべく、さまざまな緊急時対応策を実施していくことを明らかにした。

<移動の自由はすぐには変わらずと強調>

 ケニー首相は会見で、英国のEU残留を働き掛けてきたにもかかわらず、国民が離脱を選択したことについて、「英国民の意思を尊重する」としつつも「遺憾だ」と述べた。一方、アイルランド政府は離脱となった場合に備えて最大限の準備を進めてきたこと、両国間のヒト、モノ、サービスの移動の自由はすぐには変わらないことを強調し、短期的な市場の脆弱性に対応すべく、緊急時対応策を実施していくことを発表した。

 

 具体的には、アイルランド商務庁(エンタープライズ・アイルランド)を中心とした輸出業者への各種支援策の強化(ホットラインの開設や英国以外への販路拡大支援など)、EU市場へのアクセスを求めて英国から移転する可能性のある潜在的投資家1,200社以上へのアプローチによる対内直接投資の促進、アイルランド南北国境地域における共同出資のインフラプロジェクトや企業活動、貿易への影響調査、などを行う。

 

 ケニー首相は特に北アイルランドとの関係は重要で、細心の注意を払う必要がある、と述べ、中期的にはヒト、モノ、サービスが自由に行き来できるよう、英国の空港でアイルランドへの入国審査が行われる共通旅行区域(CTA)の維持を英国政府に働き掛けていく考えを示した。

 

<英国との関係の再構築が重要>

 アイルランド事業主雇用主連合(IBEC)も624日に、英国の国民投票の結果についてコメントを発表し、英国のEU離脱は、EUにとって潜在的に不確実で不安定な時期をもたらすとても大きな一撃だ、とした。ダニー・マッコイ会長は「アイルランドは英国の離脱により最も大きく影響を受けるだろう。離脱交渉においてわれわれ(アイルランド)は中心的な役割を果たすことが重要だ」と述べた。

 

 「アイリッシュ・タイムズ」紙(624日)は、アイルランドにとって経済、文化、社会的に最大のパートナーである英国との関係をEU抜きでどのように再構築していくのか、北アイルランドの和平プロセスの核である国境の自由化をどう維持するのか、デリケートな関係調整が求められる、と論評している。

 

(佐藤丈治)

(アイルランド、英国)

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