欧州産業界、英国とEUの離脱交渉のソフトランディング望む

(EU、英国)

ブリュッセル発

2016年06月29日

 英国の国民投票結果を受けて、欧州産業界からは英国とのビジネスが断ち切られないよう、緩やかな処理を求める声が相次いでいる。ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は「秩序ある離脱プロセス」を要請し、英国とのビジネス関係が深い保険共済組合や中小企業経営者団体も民間レベルのパイプ役を継続する姿勢を示している。他方、「EU改革」継続の必要性は欧州産業界の共通認識となっている。

EU改革の継続を訴えるビジネスヨーロッパ>

 欧州の産業界も英国の国民投票の結果について声明を発表しているが、総じて「貿易関係の深い英国との関係はEU離脱後も持続可能にすべき」と、英国とEUの離脱交渉がソフトランディングすることを求めており、2年を期限として迅速に交渉を進めようとする一部のEU首脳との温度差が浮き彫りになっている。

 

 欧州の経団連に相当するビジネスヨーロッパは624日付の声明で、「欧州産業界はEUを強く信頼し続ける」「秩序ある離脱プロセスを求める」とする、エンマ・マルチェガリア会長のコメントを発表している。しかし、同時にEU改革の継続も必要で、「単一市場」「共通通商政策」「ユーロ」の経済基盤への信任をEU加盟国にあらためて確認すべきとの考えも示した。

 

 また、英国のEU離脱をめぐる欧州側の議論の結論として、下記の5点が明らかとなったとし、EU改革継続の必要性を訴えた。

 

1)「EUレベル」と「国・地域レベル」の権限

 EUが関与することに意味のある課題にはEUで取り組むが、国・地域に任せるべき課題にはEUは関与すべきではない。そのレベルに応じた分担を検討すべき。

 

2)包括的・先見的なグローバル戦略の選択と集中

 対外関係(特に安全保障・治安対策や通商政策)では、EUは一体となって対応すべき。

 

3)効果的な規制緩和と競争力強化のための政策の実施

 

4)シェンゲン協定維持と難民問題の解決

 自由移動が保障されたシェンゲン圏を維持しつつ、難民危機に対する欧州としての最終的な解決策を提示すべき。

 

5)経済通貨同盟(EMU)の統治強化

 

<保険共済組合や中小企業団体も声明>

 欧州の保険共済組合などを会員とする欧州保険共済組合・保険協同組合協会(AMICE)も声明を発表し、「英国のEU離脱(が多数となった国民投票)は残念な結果ではあるが、英国はEUとの歴史的な関係性を維持し、双方が緊密な連携を取り、市民や企業のために最善を尽くすことを望む」としている。また、同協会としても「英国の保険共済組合など事業者との緊密な連携を続ける」方針を明らかにした。

 

 欧州の伝統工芸品職人や中小企業経営者で構成される欧州手工業・中小企業連合会(UEAPME)は624日に、「英国のEU離脱は欧州に対するモーニングコールだ」と題する声明を発表。中小企業経営の視点で、改革の必要性を求めた。最優先課題としてUEAPMEは、「EU諸機関が、非効率的な行政手続きを中小企業に対しては大幅に緩和すべき」ことを挙げ、英国の中小企業とのビジネス関係が断ち切られないように協力する方針を明らかにした。

 

(前田篤穂)

(EU、英国)

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