キューバビジネスへの関心高まる-ジェトロがビジネス環境視察ミッションを派遣-

(キューバ)

米州課

2016年06月15日

 ジェトロは5月31日から6月3日にかけて、組織として初めてキューバにビジネス環境視察ミッションを派遣した。日本だけでなく米国や中南米進出の日系企業からの参加も得て、国営企業や合弁企業、マリエル開発特区の視察などを行った。

2015年は71ヵ国からミッション>

 キューバ商業会議所によると、2015年は71ヵ国からビジネスミッションを受け入れたという。2012年は58ヵ国、2013年は61ヵ国、2014年は67ヵ国と年々増加している。

 

 貿易・投資においてキューバと関係が深い欧州からのビジネスミッションはこれまでも多かったが、2015年は中南米・カリブ諸国、中東・アフリカ諸国からの受け入れが増加したという。アジアからはキューバと同じ社会主義国で関係が深い中国やベトナムが中心だったが、2015年は岸田文雄外相が率いる日本企業のミッションがキューバを訪問した。

 

 2008年にラウル・カストロ政権が発足して以降、経済改革が進められていること、米国との国交回復、オバマ大統領による相次ぐ経済制裁緩和により、キューバビジネスへの関心が高まっていることが、ミッション派遣国が増えている背景とみられる。

 

<日本・米国・中南米から3449人が参加>

 ジェトロは531日~63日、組織として初めてキューバにビジネス環境視察ミッションを派遣し、日本、米国、中南米から合わせて34社、49人が参加した。参加者は、外国貿易・外国投資省(MINCEX)から投資環境、キューバ商業会議所からキューバとの商取引に関する説明を受けたほか、国営企業とのビジネスマッチング、国営企業や合弁企業、マリエル開発特区の視察を行った。

 

 MINCEXのカティア・アロンソ外国資本事業部長は「201310月の閣僚評議会で承認された外国投資に関する政策方針に基づき政府として外国投資の誘致に力を入れており、2013年にマリエル開発特区を設置した。2014年に新外国投資法を公布、20143月に投資有望案件を取りまとめた『投資機会ポートフォリオ』を公表し、法的枠組み、投資誘致の体制が整った」と述べた。年間20億~25億ドルの外国投資を誘致することが目標だとして、日本企業の投資に期待を示した。

 

 キューバ商業会議所のセリア・ラボラ外国関係部長は、キューバの国営企業との商取引について説明した。キューバでは商材別に輸出入企業が存在しており、外国企業3,000社との間で貿易取引が行われている。原則として入札により取引先が選定される。また、外国企業がキューバと貿易取引を行うためにキューバに拠点を設ける必要はないが、一定の条件を満たせば支店の開設が可能だという。

 

 首都ハバナ市の西45キロにあるマリエル開発特区のオスカル・ペレス・オリバ事業評価部長は、これまでに15の外国企業、キューバ企業の投資案件が認可されており、引き続き、物流、バイオテクノロジー・製薬業、食品包装、建材などの先進的な製造業の進出を期待していると説明した。同特区の認可企業は法人税に当たる利益税が10年間免除されるなど、税制恩典が大きな魅力だという。

 

<キューバ側も日本との取引に関心>

 今回のミッションでは、医療分野を中心に国営の機関や企業の視察を行った。各機関・企業とも、日本市場への参入や日本企業とのビジネスへの意欲がうかがえた。

 

 バイオ医薬品や農業バイオ製品の研究開発・製造を行う国営の遺伝子工学・バイオテクノロジー研究センター(CIGB)では、糖尿病の足壊疽(あしえそ)治療薬、畜産、農業、水産向けのバイオ製品の日本市場参入に関心が示された。また、20161256日にハバナで開催される、糖尿病に関する国際会議への日本の糖尿病専門医の参加を呼び掛けた。

 

 国内の医療機器の設置・保守・修理を行う保健省傘下の公団セントロ・ナシオナル・デ・エレクトロメディシーナ(国家医療機器センター)では、全国の拠点を通じた医療機器の保守体制について説明を受けた。キューバが輸入した日本のメーカーの医療機器の保守も手掛けているという。

 

 検査機関向けの検体検査機器・試薬の国内販売と輸出を手掛ける国営企業テクノスーマ・インテルナショナルでは、販売する製品について説明を受けた。バイオセンサーなど一部の技術や部材については中国企業から導入しているが、機器の製造に必要な多くの部材は国内調達品が多いという。輸出は中南米向けが中心で日本向けは実績がないとしつつ、日本市場参入に関心を示していた。

 

 視察に加えてビジネスマッチングも行われ、多くの国営企業が参加するなど、日本の製品やサービスへの関心の高さがうかがえた。

 

<外国企業もビジネス拡大に布石>

 紙巻きたばこの生産・販売・輸出を手掛けるブラスクーバ・シガリージョス(BRASCUBA)では、キューバの小売市場の仕組みや労務管理など中心に説明を受けた。同社はブリティッシュ・アメリカン・タバコ・グループであるブラジルのソウザ・クルスとキューバ農業省傘下のタバクーバ(TABACUBA)の合弁企業で、キューバの国営企業が国内に展開する約7,000ヵ所の小売店などを通じて製品を販売している。労働者の直接雇用はできず、TABACUBA傘下のクーバタバコ(CUBATABACO)を通じて雇用する。BRASCUBAはマリエル開発特区に新工場を建設することを決定しており、国内市場、外国市場の開拓に力を入れる方針だ。

 

 また、ミッション参加者は米国のインターネット大手グーグルがハバナに開設した施設を見学した。この施設はキューバの著名な芸術家アレクシス・レイバ・マチャド(通称Kcho)のアートスタジオの敷地内にある。米国のオバマ大統領は、20163月にキューバを訪問した際、グーグルがキューバにおけるWiFiとブロードバンドへのアクセスを拡大するべくキューバ政府と協議を重ねていることを明らかにしていた。キューバ国民は同施設でネットを無料で利用でき、接続デバイスを持っていない場合は、グーグル提供のクロームブック(パソコン)を使うことが可能だという。

 

 キューバとのビジネス拡大に向けて動き出す企業が少しずつ増えているが、社会主義の特殊な経済システム、米国の経済制裁、外貨不足の問題などは依然残る。キューバビジネスの展開にはなお慎重さが求められそうだ。

 

(西澤裕介)

(キューバ)

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