「親ビジネス」を強く印象付けたミケティ副大統領-日アルゼンチン官民経済フォーラム開催-

(アルゼンチン、日本)

米州課

2016年05月19日

 ミケティ副大統領はじめアルゼンチンの政府関係者が来日した機会を捉え、5月12日に日亜(アルゼンチン)官民経済フォーラムが開催された(経済産業省、日亜経済委員会、ジェトロ主催)。フォーラムでは2国間関係の強化に関する日本の政府関係機関の取り組みが紹介され、アルゼンチン側からは有望な投資セクターやインフラ案件などについて説明があった。2015年12月の発足後、保護主義的な政策を次々と改めてきたマクリ政権の「変革への本気度」を日本の産業界に強く印象付けたフォーラムとなった。

<長期的な経済改革へ「対話の政府」>

 ミケティ副大統領は、日本を同じ民主主義国家で共通の価値観を持つ国だとし、アルゼンチン国民の3分の1が貧困レベルから抜け出し、幸福へのプロセスを歩めるよう国内外の民間企業と一緒に汗を流したいと述べた。そのためには投資受け入れによる雇用促進が必要だとし、日本企業がアルゼンチンへの投資に関して、何か必要なことがあれば相談に乗る「対話の政府」でありたいとした。

 

 これに対して経済産業省の上田隆之経済産業審議官、小林健日亜経済委員会会長ほか日本側参加者からは、マクリ政権の変革のイニシアチブを歓迎する旨のコメントが相次いだ。また、ジェトロの赤星康副理事長は、201511月に実施した「2015年度中南米進出日系企業実態調査」の結果(2016年3月7日記事照)を紹介、「今後12年の事業拡大方針」について、アルゼンチン進出日系企業から「拡大する」という回答が前回調査の倍以上に伸びた一方、「撤退・第三国への移転を検討」と回答した割合が14.3%からゼロになるなど、日本企業によるマクリ政権への高い期待が示されていると述べた。さらに201671315日にアルゼンチンへ、インフラミッションを派遣すること(ジェトロウェブサ参照)や、ジェトロ・ブエノスアイレス事務所の体制を強化することなどが伝えられた。

 

2019年までにインフレ率47%が目標>

 フォーラムでは、アルゼンチンの政府関係者から改革の進展と具体的なビジネス機会が紹介された。まずはラコステ財務金融副大臣が、マクリ政権発足直後からの資本規制撤廃や為替レートの一本化、デフォルト(債務不履行)の際に債務再編に応じなかった「ホールドアウト債権者」との交渉を成功させた後の160億ドルのソブリン債の発行に成功したことなどを紹介。ホールドアウト債権者への債務返済に当たっては、マクリ政権の所属政党が上下院で過半数を確保していないにもかかわらず、議会の了解を取り付けたことで野党とも「対話」できていると述べ、政治面での安定性に懸念を持つ日本企業に対してマクリ政権の求心力をアピールした。さらに、IMF協定の4条に規定されているIMF経済チームの訪問受け入れを決めたことも、政策の透明性向上策の一環だと付け加えた。

 

 日本企業がリスクとして懸念しているインフレについて、電力など公共インフラへの助成金削減による500600%の値上げの社会コストは大きいものの、負担バランスを修復するための施策であり、長期的には2019年までにインフレ率を47%に収める(20162025%、20171217%、2018812%)という具体的なインフレ目標を示した。

 

<アグロビジネスや自動車、ソフトウエアへの投資を期待>

 マクリ政権によるミクロ分野の変革について、ブラウン工業生産副大臣は、工業製品の輸出税5%の撤廃や高級車に対する奢侈(しゃし)税の撤廃、貿易金融の変更など、アルゼンチンビジネスの障害を政権発足後60日以内に除去したことを挙げた。また、アルゼンチンのビジネスポテンシャルを有する分野・ポイントとして、以下のような点を示した。

 

1)消費市場としての有望性:購買力を有する中間層の存在。若年層の多い人口構成。

2)工業部門における65,000社が日本企業の戦略的パートナーになり得る。中南米域内貿易は伸びる余地が多く、アルゼンチン企業とともにアルゼンチンをプラットホームとして活用することも考えられる。

3)輸出有望セクターとしては、高い競争力を有するアグロインダストリーのみならず、4,800社が存在するサービス産業、特にその半数を占めるソフトウエア産業が有望。ソフトウエアの輸出は年間15億ドルを記録。政府としてもソフトウエア促進法を定め、税制インセンティブを付与している。

4)インフラやアグロインダストリーに関連するビジネスポテンシャル。アグロインダストリーは農業機械や肥料など周辺産業などのビジネス機会も創出する。

 

 さらに同副大臣は、自動車分野については最近法案を提出したばかりで、日本企業の自動車サプライヤーの投資拡大に期待を表明した。

 

<未開拓資源と不十分なインフラやエネルギーにも投資機会>

 また、メイラン・エネルギー鉱業副大臣は、開拓余地の大きい資源エネルギーおよびインフラ整備についてのビジネス機会に言及した。具体的には、まず鉱業部門で開発フェーズの435案件のうち、生産に至っているものないしフィジビリティー・スタディー(FS)フェーズのものは9.5%しかないというデータを基に、鉱業部門の開発はまだ未成熟だと説明した。銅はアンデス山脈で採れ、国境を接するチリが世界の3分の1の生産量を誇るが、実はアルゼンチン側の山脈の面積はチリの4倍の広さがあり、探鉱の成否次第だが、生産量が現状より大幅に増える可能性を秘めているとしている。

 

 アルゼンチンはリチウム資源も豊富で世界3位の生産量、さらにシェールガスの埋蔵量は世界2位、シェールオイルの埋蔵量は世界4位となっており、これらの埋蔵・採掘地域もアンデス山脈に近い地域、つまり国の西側だと述べた。西側は人口が少ないために輸送も電力インフラも貧弱だという。ブエノスアイレス都市圏の交通インフラ整備などに関心が集まりがちだが、この西部地域も資源開発と絡めたインフラ整備の必要性を指摘した。

 

 電源構成は現在、消費電力の64%が火力、30%が水力、4%が原子力となっていて、再生可能エネルギーは2%にすぎないという。このため、政府としては2025年までに再生可能エネルギーの比率を10ギガワット(GW)、全体の20%に引き上げる方針だと述べた。最初の入札は6月に予定されていることも紹介された。

 

<まずはメルコスールとEUFTAに注力>

 日本企業の関心も高い南米南部共同市場(メルコスール)や通商政策について、ブラウン工業生産副大臣は、世界でメガ自由貿易協定(FTA)の形成が進む中、アルゼンチンが締結している貿易協定は世界のGDP10%以下の範囲にとどまるとして、遅れていることを認めた。その上で、まずはメルコスールとして交渉中のEUとのFTAの早期妥結に注力することを表明した。対EU交渉は、既に優遇品目についてオファーしており、7月にもモンテビデオで交渉が行われるとのことだ。いずれにせよ、北米、欧州、日本を含む東アジア諸国との貿易や投資協定の締結を急ぎたいと同副大臣はコメントした。

 

 日本企業から、メルコスールは加盟国が単独で交渉できない閉鎖的な経済圏だとの指摘があったが、ミケティ副大統領は、現政権はメルコスールが開かれた統合体でありグローバル化を進めるためのプラットホームだとの認識を示した。域外のビジネス関係者からみてメルコスールが1つの大きな市場であると見なされるようにしたいとも述べ、国内の変革と併せてメルコスール改革にも関わる姿勢を示した。

 

(注)経済産業審議官・上田隆之氏の「隆」は、「生」の上に「一」が入る。

 

(竹下幸治郎)

(アルゼンチン、日本)

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