投資申請・企業買収手続き面を透明化-改正投資法・企業法などを解説するセミナー開催-

(ベトナム)

ハノイ発

2016年04月07日

 ジェトロは3月11日、ベトナム日本商工会(JBAV)ビジネス情報サービス委員会と共催で、2015年7月から施行された改正投資法・企業法、および2015年末から2016年1月にかけて制定された同法施行細則の内容を解説するセミナーをハノイ市内で開催した。日系企業関係者ら約130人が参加した。

<行政手続きの透明化を明確に規定>

 セミナー前半では、西村あさひ法律事務所の武藤司郎弁護士が、投資法の改正点および投資法を施行する政令を中心に、以下のように解説した。

 

 投資手続きについては、法改正により、(1)法令に定めのない書類の提出を求めることの禁止、(2)申請書類に複数の問題がある場合は一度で修正・追加の要請を行うこと、(3)法定期間内に関係行政機関が意見照会に対して回答しない場合は同意したと見なすことなど、行政手続きの透明化が図られ、申請者が行政の理不尽な要求や審査の遅延に対抗できるツールが増えた。

 

 金融や小売り・流通、不動産・建設などの条件付き投資分野については、企業登局のウェブサイト(内外投資家共通)や外国投資庁のェブサイト(外国投資家のみ適用)から条件を確認できるようになった。外国投資庁のウェブサイトに掲載されている業種については、関連省庁との協議なしに投資登録機関が登録の可否を決定できるとされたことで、条件部分での透明性は向上し、審査手続きの迅速化も期待される。

 

 投資登録証明書(IRC)の発行手続きについては、申請書類を提出してからの十分な手続き期間がおおむね定められている。しかし、首相の事前承認が必要な案件については、各省人民委員会から計画投資省への意見具申期間が明確ではないため、改正投資法を施行する政令が各国家機関の審査期間を規定していても、各省人民委員会が投資計画省に対して意見を具申する期間をコントロールできない点には注意が必要だ。

 

 買収手続きに関して改正投資法では、対象会社が条件付き投資分野ではなく、かつ買収後も外資が51%未満の場合には、企業登録証明書(ERC)において株主と出資者の変更手続きのみ行えばよくなった。対象会社が条件付き投資分野であるか、または外資が51%以上の場合は、買収手続き前に投資計画省において改正法に盛り込まれた簡易な登録手続きをすればよく、従来の投資証明書(IC)を取得する手続きが不要となった。従来は外資の持ち分比率が1%であっても、ICを保持する必要がない地場の企業を買収する際に、買収対象企業がICを取得することが求められていただけに、この手続きの緩和は今回の改正で外資にとって最も評価できる点といえる。

 

 ICを保持している企業については、ICのうち企業登録に関する事項の変更(法定代表者、住所など)については既存のICと変更後のERCを、投資登録に関する事項の変更(投資家名、投資スケジュールなど)については既存のICと変更後のIRCをそれぞれ保持すればよいこととなった。

 

<本社のガバナンス強化のため監査役会制度の活用も>

 セミナー後半では、西村あさひ法律事務所の廣澤太郎弁護士が、企業法の改正点などについて、次のように解説した。

 

 まず、進出日系企業の形態として多い「1名有限会社」(取締役が1人の特例有限会社)について説明した。「法定代表者」は会社の取引から発生する各権利を行使し、義務を履行する際に会社を代表する者(日本の代表取締役に類似)で、「会長」もしくは「社長」から選任され、定款に異なる定めのない限り「会長」が法定代表者となる。この法定代表者は改正法により1人以上置くことも可とされ、居住要件も少なくとも1人が居住すればよいとされた(改正前は1人のみ、かつ居住要件あり)。法定代表者が複数置かれることで、契約相手方の署名が法定代表者によるものかどうか、ERCや定款を確認する必要がある点で注意が必要だ。「委任代表者」は法人である出資者の名義で、出資者の権利を代わりに行使する者とされ、1名有限会社では原則として委任代表者が同時に「会長」となる。「社長」とは日常業務の執行、事業活動の運営を行う者で、委任代表者・会長が兼務することも可能だ。

 

 「監査役(会)」は、改正法により人数制限はなくなり、出資者が人数を決定し選任することとなった。出資者が法人である場合には監査役の設置義務があるが、監査役は会計士である必要はない。また、ベトナム居住者である必要もないため、本社の監査部門に所属する従業員や監査役を選任することも可能な上、監査役会の権限を定款でアレンジし、本社の監査部門などと同等の権限を付与することもできるため、本社によるガバナンス強化の手法として活用が期待される。

 

 改正法下における投資ライセンス変更手続きについては、例えば、事業目的を追加する場合、既存のICに記載されている情報のうち、企業の基本情報部分の変更に当たるほか、投資プロジェクト情報の変更にも該当する場合が多いと考えられるため、ERCおよびIRCのいずれも取得申請が必要となる(ただし、事業目的はERCの記載内容に含まれないため、新しく発行されるERCには事業目的は記載されない)。また、取締役が2人の2名有限会社から1名有限会社に変更する場合には、持ち分の100%取得を伴うため計画投資局において企業買収登録手続きを経る必要が出てくる可能性がある。この手続きにより外資規制などに抵触しているかどうかチェックされるため、事前に当該分野の外資規制の確認が必要となる。その後、社員総会において会社形態の変更決議を行い、持ち分譲渡契約書に従って持ち分取得を実行し、ICの変更においては企業登録事項である出資者と投資登録事項である投資の形態(1名有限会社から2名有限会社)のいずれも変更となるためIRCERC両方の取得申請が必要となる。

 

 最後に、ベトナム企業との合弁トラブル事例と対応策について、例えば、合弁パートナーが別会社を設立し、日系企業が合弁会社に対して提供した企業秘密を利用して当該合弁会社と競合する事業を開始するケースがある。こうした場合には、合弁契約において競業禁止規定を明記しておくことはもちろんのこと、企業秘密に対しては合弁パートナーにアクセスされないような情報管理体制を敷くことが大切だ。

 

<条件付き分野などは時間的余裕をみることが必要>

 質疑応答では、今回の改正により投資関連手続きの審査期間が短縮されたのか、質問があった。これに対し武藤弁護士は「IRCERCへ手続きが2段階になったことで当初は審査の長期化が懸念されたが、ERCについては電子申請化がなされたことにより、新設企業で条件付き分野以外であれば、以前よりも短縮されているのではないか」と述べた。ある当地日系コンサルタントから、改正法の運用が安定してからは企業新設・ライセンス変更とも以前より審査が迅速化したとのコメントもあった。一方で、関連施行細則が出されてから行政側での実務が蓄積できていないこともあり、条件付き分野や事前承認案件などについては十分に時間的余裕をみておくことが肝要だろう。

 

竹内直生

(ベトナム)

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