憲法改正で最低賃金を罰金・制裁金の単位から分離-中南米における制度改定の動向-

(メキシコ)

メキシコ発

2016年03月03日

 官報1月27日付で新たな憲法改正が公布された。最低賃金を罰金や制裁金の単位と切り離し、罰金や制裁金には新たな単位(UMA)が設定された。メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)が担当してUMAの初期値を決定し、以後原則インフレ率との連動で改定する。他方、これまでインフレ連動だった最低賃金改定はその縛りが解かれ、今後は上昇率がインフレ率を上回る可能性が出てきた。

<一般企業の実態より低かった最低賃金>

 最低賃金は、政府、労働組合、経済界の代表からなる国家最低賃金委員会(CONASAMI)によって決定される。「一般」と「職種別」の2種類あるが、「一般」について、足元の最低賃金改定状況は表のとおり。経済環境により3つの地域に分けられていたが、20121126日付官報公布により、B地域がA地域に統合され、C地域がB地域扱いの2地域となった。その後、2015930日付官報公布で、地域の区別なく1本化された。現在の最低賃金は、20151218日付官報公布により、201611日から日給73.04ペソ(約453円、1ペソ=約6.2円)となっている。

 もともと、労働法第90条に最低賃金の定義として、「一家の長が日常の必要性を満たし、子女の義務的教育を与えるのに十分であるべきもの」とされている(憲法123条にも同様の記載)。この理想と現実には差があるため、実際問題として通常、一般企業の最低賃金は、この法定最低賃金の23倍程度が相場とみられる。

 

<インフレ率連動から外れる最低賃金>

 また、これまで最低賃金は、各種罰金や制裁金などの単位としても使用されてきた。このため、CONASAMIは最低賃金の改定の決定において、純粋に家計を営む上での最低の賃金というあるべき姿に加え、罰金・制裁金の支払い単価の上昇も考慮しなければならず、最終的な改定率は毎年、ほぼインフレ率連動で落ち着いてきた。

 

 現行の仕組みが最低賃金の抑制をもたらしているとの観点から、真っ先に地方自治体が動いた。メキシコ市連邦区議会が20141125日、連邦区制定の罰則に適用する罰金などの単位を制定し、最低賃金とは連動させずに運用する法案を可決した(20141128日公布)。最初の設定単位を2014A地域の最低賃金だった67.29ペソと定め、201511日以降適用した。以後、インフレ率に連動させ、最低賃金とは切り離して毎年改定することとした。

 

 連邦政府もこれに呼応する動きをみせ、20141210日に連邦下院議会が関係する憲法改正案を可決し、最終的には2016127日付官報で公布された。

 

 改正憲法によると、第123AVI.1段落で「最低賃金は指標、単位、ベース、測定ないしは参照用の目的に用いることはできない」と規定された。また、第26B項では「測定・更新の単位(UMA)はINEGIが法の規定に従って計算する」としている。これを受け、128日付政府官報において、INEGIによりUMAの初期値が公表された。そのUMA1単位は73.04ペソと11日改定の最低賃金と同額に設定され、1ヵ月単位は2,220.42ペソ、年単位は26,645.04ペソと設定された。月単位のUMA1日単位に30.4日分を、年単位は月単位に12を乗じたもの(改正憲法移行措置2条)。今後120日以内にUMAの額の決定方法のための2次法制を国会が定めるとされている(移行措置5条)が、同条に規定されるように、基本的には毎年1月に前年12月時点の年間インフレ率を基に、UMAの金額を改定していくものとみられる。他方、最低賃金改定率はインフレ連動を外れていくとみられている。

 

<最低賃金の高騰が労使交渉に影響も>

 今回の改正の趣旨が、最低賃金の抑制をもたらしていた罰金・制裁金の単位との連動をやめることにある以上、今後最低賃金がインフレ率以上に改定されることを想定しておく必要はあるだろう。一般企業は現状で最低賃金の23倍程度の賃金を支払っているため、最低賃金が追い付いてくるのは相当先になるとみられる。ただ、賃金改定の労使交渉は、一般的に最低賃金の改定率をベースに行われることが多いため、インフレ率を超える改定があった場合には、交渉のベースが上振れして、例年の交渉とはやや勝手が異なる可能性も予想される。

 

(中島伸浩)

(メキシコ)

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