ドル・ドン為替レートを新制度に移行

(ベトナム)

ハノイ発

2016年01月21日

 国家銀行(中央銀行)はドル・ドン為替レート制度について、2015年12月31日付で決定2730/QD-NHNNを公布した。新制度は、ドル・ドン為替レートに「中心レート」を設け、ほかの主要通貨とも日々連動させることにより、為替政策を柔軟に行うのが狙い。2016年1月4日から施行されている。

<「中央レート」が毎朝発表>

 今回の変更で、中央銀行が設定するドル・ドン為替レートの「中心レート」が毎朝発表されることになった。中心レートは状況に応じて日々変更される可能性があるが、取引バンド幅はこれまで通り±3%となる。

 

 中銀ウェブサイトによると、中心レートを変更する際には、(1)銀行間におけるドル・ドン加重平均レート、(2)ベトナムとの貿易、貸出・借入、大きな投資がある各国の主要通貨の海外市場での変動、(3)マクロ経済と為替のバランス、(4)為替政策の目標との整合性、が考慮される。

 

 中銀は主要通貨として、米ドル、ユーロ、人民元、円、シンガポール・ドル、ウォン、台湾元、バーツを挙げているもようだ(当地邦銀関係者)。新しいドル・ドン為替レート制度は、これまでの管理フロート制を維持しながらも、中国が行っている通貨バスケットに近い制度になったとみられる。

 

<機敏で柔軟な為替政策が狙い>

 新制度移行の背景には、中銀が為替政策を従来以上に機敏かつ柔軟に行う必要性が出てきたことが考えられる。2015年に入りドン安圧力が強くなり、中銀はドンの為替レートに関し、201517日と57日に米ドルに対するドンのコアレートを1%ずつ切り下げた。さらに8月の人民元切り下げの影響を受け、同12日に取引バンド幅を±1%から±2%に拡大し、819日にはコアレートを1%切り下げ、加えて取引バンド幅を±3%に拡大したことで、実質5%のドン安になった。

 

 こうしたドン安の要因の1つとして、貿易赤字がある。20122014年の3年間は貿易黒字が続いていたが、2015年は約32億ドルの赤字に転落した(ベトナム統計総局)。この背景には、景気拡大に伴い建設・製造用機械設備の輸入が増大したことがある。貿易赤字はドル需要を高め、ドン安を助長する。2016年も同様の状況が続くものとみられている(当地邦銀関係者)。

 

 もう1つは、対外要因だ。人民元切り下げに加え、米国が201512月に政策金利の引き上げを決定した。これらはドル高圧力になり、ベトナムも含め近隣アジア諸国の通貨も下落傾向がみられる。

 

 これまで中銀は、取引バンド幅の上限を超えた際にコアレートの切り下げなどで対応したり、またドル・ドン為替レートの維持のために外貨準備からドルを放出したりしてきた。しかし、こうしたやり方では通貨政策の維持が困難になった時に対応が後手に回ることや、外貨準備高が潤沢でない中でドルを放出することへのリスクが指摘されていた。実際に201512月は輸入も増え、決済用のドル需要が多くなったこともあり、ドルの調達が困難になっていたという(当地邦銀関係者)。

 

 新制度は14日から施行され、早速、中心レートを変更前の1ドル=21,890ドンから21,896ドンと6ドン切り下げ、5日は21,907ドン、7日は21,919ドンと小幅ながらもドン安傾向となった。現在も同様の傾向が続いている。

 

(佐藤進)

(ベトナム)

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