政府調達市場は基準額以上に限り外資に開放-マレーシアとTPP(5)-

(マレーシア)

クアラルンプール発

2016年01月29日

 マレーシアは政府調達をブミプトラ(マレー系と先住民族の総称)優先とし、外資への開放を極めて限定してきた。ブミプトラ政策との絡みもあり、WTOの政府調達協定(GPA)も締結していなかっただけに、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定で政府調達章が設けられたことは、マレーシア政府調達市場への参入を考える外資系企業には画期的といえる。協定では対象外の事項が多いものの、これまでと比べれば外資参入の道が広がったといえそうだ。

<建設は最終基準額まで20年の移行期間>

 協定15章の「政府調達」章は、特定の調達機関が基準額以上の物品とサービスを調達する際の規律を規定している。対象となる調達は、(1)財、サービス、建設分野、(2)基準額以上、(3)中央政府、地方自治体、その他機関からの調達、と規定した。

 

 締約国は原則として、対象調達には内国民待遇を与えること、無差別待遇を与えること、調達過程の公正性および公平性を保つこと、調達計画の公示などに電子的手段を活用することが求められる一方、国内の製品・企業の利用などを要求するといった特定履行措置を調達のいかなる段階においてもしてはならないとされた。一方、全締約国が政府調達の対象外にできる事例としては、安全保障、公共の道徳・秩序・安全に関する案件などが挙げられている。

 

 マレーシアはWTOGPAを締結しておらず、日本との自由貿易協定(FTA)でも政府調達条項は設けていなかった。それだけに、TPP協定に政府調達条項が盛り込まれた意義は大きいが、マレーシア政府は幾つかの適用除外を獲得した。最大の特徴は基準額を設定したことだ。

 

 財、サービス、建設の政府調達に関して、基準額(下限)は当初は高めに設定され、時間とともに下がる移行期間が設けられた(表参照)。例えば建設の場合、基準額を当初の6,300SDR(特別引き出し権、約105億円)から1,400SDRに引き下げるまで、20年の移行期間が設定された。外国企業は基準額以上の政府調達にのみ参入できる。マレーシアの協定発効直後の基準額は他の加盟国と比較しても高く設定されている。

<苦情の審査機関設置まで3年の猶予>

 協定は苦情申し立ての審査機関を自国の調達機関から独立して設けると規定しているが、マレーシアは設置まで3年の猶予が与えられた。また、政府調達に関する紛争解決章の適用には5年の猶予が、投資家と国家間の紛争解決手続き(ISDS)条項の適用について、財は150SDR、サービスは200SDR、建設は6,300SDRをそれぞれ下回る契約には3年の猶予が与えられた。さらに、前述した特定履行措置要求の禁止は、一部の案件では12年の移行期間が認められ、協定発効後25年間は国内経済の危機に対処するための経済政策には政府調達の規定は適用されない。

 

 政府調達の対象となる機関は、付属書に個別に列挙していくポジティブリスト方式で記載されている。マレーシアはほぼ全ての中央政府機関を対象とした上に、その他の機関として、投資開発庁(MIDA)、貿易開発公社(MATRADE)、中小企業公社(SME Corp)、生産性公社(MPC)も対象機関に入れた。一方で、地方政府については政府調達の規定は適用が除外された。

 

<ブミプトラ優遇策は政府調達でも縮小>

 政府調達に関わる財、サービスなどの詳細は国連中央生産分類(CPC)に基づいて付属書に記載されている。財の場合、CPCコード0149が規定の対象になるが、マレーシアはコメ、電気、天然水などに関する調達を対象外とした。さらにサービスでは、CPC6199の多くのサービスが対象となり、建設ではCPC51が対象になるが、しゅんせつ工事や山腹における工事は対象外となった。

 

 CPCコードが明示されたことで、政府調達市場の外資開放分野が明確になった。また、ブミプトラ優遇政策は政府調達章でも残ることになったが、こちらも優遇策は縮小される。建設コントラクターはこれまでブミプトラ資本が最低で30%要求されていたが、今後、マレーシアが政府調達の対象とした分野については、ブミプトラ資本は最大で30%となり、外資の出資比率の拡大が見込まれる。

 

 マレーシアは外資に対して限定的ながらも政府調達市場を開放したことで、国内企業は外資との競争に直面する。一方、政府は国際基準に適合した政府調達の取り決めを行うことで、世界経済フォーラムの「国際競争力指数」や国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルが発表する「腐敗認識指数」の改善につなげることができるとする。また、マレーシア企業が海外の政府調達市場に参入できる可能性が高まった。例えば、米国は政府調達を国内から調達するとするバイアメリカン条項を持つが、TPP協定でこの規定は適用されなくなる。

 

(新田浩之)

(マレーシア)

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