原産地証明書のFOB価格記載を撤廃-AANZFTAで実現-
(ASEAN、タイ、オーストラリア、ニュージーランド)
バンコク事務所
2015年10月08日
タイ税関は、ASEANオーストラリア・ニュージーランド自由貿易地域(AANZFTA)の修正議定書の発効に関する通達を出した。これに伴い10月1日以降、同協定の運用は2012年版HSコードに基づいて行われている。また、原産地証明書の書式が変更され、これまで必須だったFOB価格の記載義務が一定条件の下で撤廃された。タイでは10月1日から、輸入に際して締約国からの新フォームの受け入れが始まった。一方、輸出においては6ヵ月の移行期間を経て2016年4月から新フォームの発給を開始する。
<10月1日に修正議定書が発効>
タイ税関は9月28日、AANZFTAの第1修正議定書(The First Protocol to Amend the Agreement Establishing the ASEAN-Australia-New Zealand Free Trade Area)の発効に関する通達(299/2558)を出し、10月1日に発効した。同修正議定書は、2014年8月26日に全ての締約国の経済相によって署名された後、各国における批准手続きが進められると同時に、原産地規則小委員会などを通じ、運用に向けた議論が行われていた。
同修正議定書の発効に伴い、AANZFTAの原産地規則は、品目別規則(ANNEX2として記載)に統一された。従来は、一部の指定品目については品目別規則を適用する一方、それ以外の品目に対しては共通の一般規則を適用する方式が取られていた。新たなルールの下では、別表2に全ての品目がHSコード6桁レベルで記載され、それぞれの品目別の原産地規則が記載される。
また、これまで関税譲許表および原産地規則は2007年版HSコードに基づいて運用されており、AANZFTAの原産地証明書(フォームAANZ)に記載するHSコードの表記は、2007年版HSコードに基づいて行う必要があった。これが10月1日以降、2012年版HSコードに基づいて運用されることとなった。これに伴い、10月1日以降は、原則として輸入申告手続き上のHSコードと原産地証明書上のHSコードが一致するかたちで運用される。原産地規則は全て2012年版HSコード(6桁レベル)に基づいて品目別に規定され、輸出者は同分類に基づくHSコードを原産地証明書上に記載する。
<FOB価格の記載が必要なケースも>
通達の発効により、タイ税関は10月1日以降、他の締約国が発給した新たな書式の原産地証明書(フォームAANZ)を受け付ける。新フォームでは、輸出国が輸出において当該輸出製品の原産性を証明する際、その判定方法(基準)として付加価値基準(RVC:Regional Value Content、注)を採用する場合を除いて、書式へのFOB価格の記載が不要となっている。
AANZFTAにおける品目別の原産地規則は、農産品など一部の品目に対して完全生産品基準(WO)が採用されている一方、大半の工業製品については、関税番号変更基準(4桁レベル)もしくは付加価値基準(締約国間の累積で40%以上)の選択方式が取られている。新書式の運用が開始されれば、関税番号変更基準などの方法を用いて原産性の証明を行う場合、書式へのFOB価格の記載は不要となる。
他方、在タイの輸出者がタイからの輸出において新フォームを活用できるのは、6ヵ月間の移行期間を経た2016年4月1日からとなる。また、カンボジアおよびミャンマーの2ヵ国については、2017年9月末までの2年間、旧フォームによる扱いが継続され、引き続きFOB価格の記載が求められる。
<利用企業のニーズに対応>
原産地証明書へのFOB価格の記載義務は、第三国の商社などを介した仲介貿易の場合、輸入者は、(1)原産地証明書上に記載されたFOB価格(輸出国の出荷額)および(2)仲介者が発給したインボイス(第三国インボイス)の双方を輸入通関の際の申告書類として用いることになるため、仲介者側からすれば、輸入者に自らのマージンが開示されてしまう事態が生じる。そのため、一部の商社などからは原産地証明書へのFOB価格の記載義務撤廃を求める声が高い。今回の改定により、ASEANが締結するFTAのうち、ASEAN域内、日本、韓国、オーストラリア・ニュージーランドとの4つのFTAにおいて、FOB価格の記載義務が不要となったことになる。他方、インドおよび中国との間では同様の合意には至っておらず、引き続き特定原産地証明書上にFOB価格の記載が求められる。
(注)輸出品の製造工程において、締約国間で付加された価値が一定の要求基準を満たした場合に、原産品と認める方法。AANZFTAにおいては、輸出製品の価値(FOB価格)のうち、40%以上の価値が締約国間(累積ベース)で付加されれば、輸出国の原産品として認められる基準が多くの品目に対して採用されている。
(伊藤博敏)
(ASEAN、タイ、オーストラリア、ニュージーランド)
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