付加価値税率を段階的に引き下げ-2016年1月に20%へ、2017年1月には19%へ-

(ルーマニア)

ブカレスト事務所

2015年09月16日

 ルーマニアの付加価値税(VAT)率が2016年1月に現行の24%から20%へ、2017年1月に19%へと段階的に引き下げられる。ただし、これによる税収減からGDP比で財政赤字が拡大するため、徴税率の引き上げや効率的な政府支出など代替策が求められる。

<大統領が差し戻し、下げ幅と時期を緩和>

 ヨハニス大統領は97日、VAT税率の引き下げなどを含む税制法案に署名した。これにより、201611日以降のVAT税率が現在の24%から20%へ、201711日以降は20%から19%へと段階的に引き下げられることが決まった。既に軽減税率(9%と5%)の対象となっている品目(食品など)に変更はない。なお、同法案に含まれていた特別建設税や燃料税の廃止も20171月から実施される。

 

 VAT税率の引き下げを含む税制法案は上院(428日)、下院(624日)ともに通過していた。その時点では、20161月から19%に引き下げるという案だったが、この案ではIMFEUからの承認が得られなかった。そのため、ヨハニス大統領は7月17、同法案に署名せず、上院に差し戻した。大統領は差し戻す際、「全ての政治勢力が一致団結して中長期的に予測可能な財政政策を行うことで国民の利益を追求できる」と発言し、同法案について与野党が合意できる内容にすべきだとの意向を示した。大統領のこの発言を受け、夏休み明けの827日から再審議され、税率の引き下げ幅と時期を緩和した修正法案が、上院(91日)と下院(93日)を通過し、今回の大統領の署名に至った。

 

 ルーマニアでは上下両院を通過した後、大統領が署名することで法案が発効する(政府が発する緊急政令を除く)。大統領は1つの法案に対して1度だけ署名の拒否権を発動することができ、差し戻されると国会で再審議となる。

 

 ポンタ首相が属する社会民主党(PSD、左派)などが連立を組む与党は、上下両院で議席数の過半数を確保している。一方のヨハニス大統領は、野党・国民自由党(PNL、右派)の出身。

 

<徴税率の引き上げと効率的な政府支出が課題>

 ルーマニアの徴税率はEUで最も低い(2015年9月9事参照)。政府が本税制法案を20152月に発表した際、「脱税の原因の1つにVAT税率の高さが考えられるため、税率を下げることで徴税率を引き上げることができる」旨の説明をしている。これに対して、ルーマニア財政協議会のイオヌツ・ドゥミトゥル会長は330日、徴税率の引き上げの実効性の検証がなされていないと指摘していた。

 

 IMFのルーマニア特命チームは82日、再審議となったVAT税率の引き下げ案について、「税率引き下げによる年間の税収減はGDP2.2%に相当し、引き下げにより政府の財政赤字のGDP比率は上限値3.0%を超える。今後、政府はこの税収減をカバーするため、(1)徴税率の引き上げ、(2)効率的な政府支出、(3)国家予算プロジェクトからEU基金プロジェクトへの移行、などのより具体的な施策を講じる必要がある」と警鐘を鳴らしていた。

 

IMFとの新たな協定の締結に注目>

 ルーマニアは年に数回、IMFから財政政策などに関する審査を受けている。ルーマニアは2009年にIMFなどから受けた融資を2012年から返済しており、2016年まで返済が続く見込み。また、2011年と2013年にそれぞれ2年間の予防的スタンドバイ協定をIMFなどと締結しており、20159月に現在の協定が期限を迎える。そのため、201510月以降の新たな協定を締結するかどうかが注目されている。ユージェン・テオドロビチ公共財務相が予防的措置であるフレキシブル・クレジット・ライン(FCL、ポーランドと同様)をベースにした新たな協定を模索しているようだ、と現地紙では報じられている。IMFによると、FCLには、特定の政策合意を条件としなくてよい、融資利用限度がない、一括で迅速な融資を受けることが可能、というメリットがある。

 

 ルーマニアは2016年に統一地方選と上下両院選を控えており、今回のVAT税率引き下げをはじめ、一部公務員(医師、教師など)給与の引き上げなど、政府の「ばらまき」政策が目立つ。政府は今後、これらに代わる財源をどこから捻出するか、IMFへの説明が求められることになる。

 

(古川祐)

(ルーマニア)

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