自動車協定延長で貿易自由化は先送り

(ブラジル、アルゼンチン)

サンパウロ事務所

2015年07月21日

 ラテンアメリカ統合連合(ALADI)経済補完協定(ACE)14号(通称:ブラジル・アルゼンチン自動車協定)の「追加議定書第41号」が発表された。有効期限は2016年6月30日まで延長され、両国の自動車貿易自由化は1年先送りされた。両国経済の低迷により自動車産業は影響を受けているが、各社は現状打破を試みるべく、輸出先の拡大や景気回復を見越した投資計画を発表している。

<無関税上限枠や貿易バランスは維持>

 630日付法令8477号およびブラジル開発商工省(MDIC)のプレスリリースによると、「第41号追加議定書」の有効期限は71日から2016630日まで。

 

 ブラジルとアルゼンチン両国は、自動車および自動車部品の輸出入額について関税無税で取り引きできる上限や、貿易バランスを維持するための均衡係数を定めている。新議定書では、これまでの均衡係数1.51が引き続き維持される。これは、例えば、ブラジルからアルゼンチンへの輸出額が150万ドルに対し、ブラジルのアルゼンチンからの輸入額100万ドルまでは輸入税が無税となる。

 

 両国は自動車貿易の自由化を目指すという大きな目的に加えて、アルゼンチンは、ブラジルが実施する自動車産業政策(イノバールアウト)の国産部品優遇にアルゼンチン産部品も含めることを要請していたが、新議定書の締結によりこれらの協議は1年先送りされることになった。

 

 背景には、10月に行われるアルゼンチンの大統領選挙において、現職のクリスティーナ・フェルナンデス大統領および閣僚などが任期満了により交代することが決まっており、今後の同国の政策が不透明で交渉の見通しがつかないことが挙げられる。さらに、2015年は両国とも経済が低迷しており、自動車産業も打撃を受ける中で自由化を協議するのは現実的ではないとの考えから、現状を維持するに至った。

 

<景気低迷で打撃を受ける自動車業界>

 両国の自動車貿易は相互に依存している。ブラジル外務省によると、2014年のブラジルからアルゼンチンへの輸出における自動車関連製品の割合は12.2%で2位、アルゼンチンからの輸入での割合は13.4%で3位。また、ブラジルの全国自動車製造業者協会(Anfavea)によると、2014年の自動車および自動車部品の輸出のうち、アルゼンチン向けは完成車(トラックおよびバスを含む)が全体の65.6%、自動車部品は33.0%。輸入は完成車が53.7%、自動車部品は7.7%で、特に完成車貿易が活発に行われている。

 

 アルゼンチン自動車製造協会(ADEFA)によると、2014年のアルゼンチンからの完成車輸出のうち84.9%はブラジル向けであり、ブラジルの景気低迷がアルゼンチンの自動車業界に与える影響は大きい。

 

 2015年に入り、ブラジルとアルゼンチンの自動車業界は苦戦している。アルゼンチンでは、1月から6月までの生産台数が前年同期比12.4%減少し、販売台数(輸入車、大型商用車およびその他大型車を含む)も17.5%減、輸出台数は22.8%減と大幅に縮小している(表1参照)。特にブラジル向け輸出は前年同期比45.2%も減少している。

 一方、ブラジルは、20151月から5月までの生産台数が前年同期比19.1%減少し、販売台数(新車登録台数、輸入車を含む)も20.9%減少しているが、輸出台数は3.2%増加している(表2参照)。これは最近のレアル安が好影響を与えているとみられる。また、これまで輸出相手先としてアルゼンチンに依存してきたが、近隣諸国へ販路を拡大する動きもあり、当地報道によると、フォルクスワーゲン(VW)は、アルゼンチンへ年14,000台輸出している小型シティカー「up!」を、ウルグアイにも6月から輸出し始めた。

 アルゼンチンでは、12月の新政権発足を見越して工場拡張など投資の動きがみられる。新政権下では、現在行われている輸入制限措置などが緩和され、ビジネスの円滑化が図られることが期待される。

 

 ホンダは、ブラジルでの販売が好調な「HRV」のアルゼンチンでの生産を4月から開始しており、ブラジルへの輸出拡大を目指す。日産は、アルゼンチン国内で販売が好調なピックアップトラック生産のために6億ドルの投資を発表した。アルゼンチン・コルドバ州に所在するルノーの工場内に専用組み立てラインを設ける。フォードも、ピックアップトラック生産などのため2016年までに22,000万ドルの投資を発表している。

 

(辻本希世)

(ブラジル、アルゼンチン)

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