2013年のCFIUS審査、中国の案件数が引き続き最多

(米国)

米州課

2015年04月03日

対内M&Aを米国の安全保障の観点から審査する政府内の外国投資委員会(CFIUS)が2013年の審査実績を公表した。中国からの投資案件審査が21件と、2012年に引き続いて最も多かった。

<提出内容のうち公開可能な部分を発表>
CFIUSは、外国主体による、米国の企業体を「支配」する投資案件(いわゆる対内M&A)について、安全保障上懸念がないかを審査する省庁横断の組織だ。案件の提出は、基本的には当事者間の任意となっている。第1段階レビュー(30日間)と、必要に応じ第2段階精査(45日間)の手続きを経る。最終的には大統領の判断で投資案件を差し止めることも可能となっている。

CFIUSは前年の審査活動を毎年7月末までに議会に報告するよう義務付けられている。2月に公表された報告書は2013年の審査実績の公開可能部分を公表する内容となっている。

<中国の大型案件はいずれも承認>
2013年は前年比14.9%減となる97件の審査が行われた。ここ3年の判断分布は表1のとおり。2013年は2012年とは異なり、大統領の判断を仰ぐ案件はなかった。審査の途中で申請主体が提出を取り下げた案件数も、2011年の計6件に対し2012年は22件と急増したが、2013年は8件と再び減少した。

表1案件数とその判断分布

2013年は第2段階へと進んだ案件が48件と、全体の半分近くに上っており、ここ数年の4割前後と比べると高くなっている。しかも、第2段階での精査中に取り下げられた案件は5件と少なく、ほとんどは第2段階で審査をクリアしたことが分かる。また、第1段階レビューを行っている最中に、2013年10月に16日間続いた連邦政府閉鎖により30日がたってしまったために第2段階へと進めざるを得なかった案件が48件のうち5件ある点も指摘されている。全体として、論議を呼ぶ案件はなかったと考えられる。

国別では中国が21件で、2012年に引き続いて最大の審査対象国となった(表2参照)。報告書は個別案件には触れないが、2013年は自動車部品大手の万向集団による破綻した米リチウムイオン電池ベンチャー企業のA123システムズの買収、中国海洋石油(CNOOC)によるカナダの石油大手ネクセンの買収、食肉加工大手の双匯による米豚肉生産大手スミスフィールド・フーズの買収など大型案件が続いた。審査過程では関心を集め、一部議員が懸念を示すこともあったが、いずれも承認された。ちなみに、A123システムズの買収においては、米軍とも業務関係があったミシガン州アナーバーにある国防関連ビジネス部門は買収から除外され、別の米企業が買収した。また、ネクセンはカナダ企業だが、米国に権益を持つ関係上、CFIUSが審査を行った。

表2CFIUSによる主要国の審査件数

<日本の審査件数が倍増>
日本は前年比で倍増し、中国に迫る件数となった。例えば、ソフトバンクによるスプリントの買収においてはCFIUSが審査を行い、2013年5月に買収が安全保障上の懸念を示すことはないと承認を行った。このほか、カナダ、英国、フランスといった国が主要国である点は2012年までと変わりはない。欧州各国企業の審査件数はいずれも前年比で減少しているが、欧州からの2013年の直接投資額は前年比で17.6%増と増えている。欧州経済の善しあしによって審査件数の多寡が変わるわけではなさそうだ。

ワシントンのある弁護士は「政権内のどの部署に、どの段階で持ち込むかによって、審査の難航度合いが大きく変わる」と、審査手続きにおいて恣意(しい)性が高い点を指摘する。例えば、早めに通知していれば議論を呼ばなかったと思われる案件が、通知が後回しになったためにこじれた事例もあるとされる。こうした事前の根回しはとかく日本的だと米国において面倒がられることもあったが、ことCFIUSの審査においてはスムーズな手続きにつながっているようだ。

(山田良平)

(米国)

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