高品質な安全ピン、成功のカギは認知度の向上−ASEAN市場に挑む中小企業(16)−

(ASEAN、日本)

アジア大洋州課

2015年04月14日

松尾製作所(本社:静岡市)の安全ピンは、ファッション性の高いデザインに加え、針先やヘッドにも高い技術が用いられている。同社はインド市場での成功を追い風に、ASEANを含めた世界各国へ販路を拡大するため、ジェトロのASEANキャラバン事業をはじめとする展示会や商談会への参加を通じ、自社商品の認知度向上を目指している。海外市場開拓の取り組みについて、代表取締役の松尾憲次氏に聞いた(1月30日)。

<インドから周辺国へ販路拡大を狙い進出>
問:ASEAN進出の経緯と市場開拓の現状は。

答:国内市場の停滞と販売先の減少により海外への販路拡大の必要性を感じ、ジェトロのASEANキャラバンを利用した。海外進出を決めた背景には、日本国内で安全ピンを扱う店が減少してきたことがある。東京・浅草橋などにある小さい問屋が、バブルが崩壊した約20年前から減少の一途をたどっている。

安全ピンはもともと海外向けの商品ではないが、インドで好評を博したことをきっかけに、インドから周辺国へ販路を拡大しようと考え、進出を決断するに至った。約50年前、米国へ輸出していたが、ヘッドがプラスチック製であることなどから人気が出た。当時は為替レートが1ドル=360円だったことも追い風となっていたが、米国市場の特徴でもあるが、次第に当社商品より安価な商品へ消費者の好みが移ってしまった。そうした中、米国で販売していた当社の商品を見かけたインドの人が興味を持ち、当社を訪ねてきたことがインド進出の契機となった。

インドのほか、ドバイに商品を輸出している。ドバイでは貿易が活発で、輸出した商品がサウジアラビアなどの周辺国へも流れているようだ。当社の商品に関して、中東とインドの消費者の選好を比較すると、中東は地味な色を好む消費者が多い一方、インドは派手な色を好む消費者が多く、違いが顕著に表れている。

ASEANに関しては、インドネシアのバイヤーから毎月コンスタントに注文があるため、さらに注文を増やしたいところだが、後述する通関上の問題点が課題だと感じている。インドネシアでは動物の形をした安全ピンが人気商品だ。インドネシア側のバイヤーは、インドネシアでよくある主婦の寄り合いに商品を持ち込んでおり、寄り合い自体が販売の場になっている、とのことだ。コンスタントに注文が得られ、非常にありがたいと思っている。

ASEANではインドネシアのほかタイにも輸出しているが、インドネシアと異なり、タイではイスラム圏などと服装が異なる影響もあってか、ファッション用途というよりも、むしろ日常的な用途のものが好評だ。

ユニークな安全ピンが並ぶ

<品質と安全性をバイヤーにアピール>
問:ASEANバイヤーの日本製品への評価・反応は。ASEANバイヤーが求めてくる製品の特徴は。

答:ASEANで販売されている安全ピンのうち、ASEAN各国で生産されたものや日本以外の他国から輸入されているものについては、刺さらない、折れ曲がる、表面がざらざらしているなど品質が悪く、粗雑な作りのものが多い。当社の製品は先端が細く、しかも曲がらないため生地を傷めることがない。研磨しているため表面も滑らかだ。バイヤーもこのような事情を熟知しており、「日本製でなければだめだ」との意見を持っているようだ。当社の製品は「細くて丈夫」であることにこだわっている。

価格面では「できるだけ安く」ということを心掛けており、現地では他国の安価な製品と同等か、それに少し上乗せした価格で販売している。したがって、価格競争力に関してはそれほど問題を感じていない。

今回のASEANキャラバンでは、ベトナムのハノイとホーチミンで商談会に参加した。ハノイの百貨店のベビー用品売り場を訪れた際、当社製品が陳列されているのを見て、感動した。ホーチミンの市場については、まだこれからという印象を受けたが、同時に商機も感じた。ジェトロが実施したワークショップも非常に役に立った。商談に関する心構えを聞くことができ、また商談を事前にシミュレートする機会を得られることは極めて有効であるため、このような機会をどんどん設けてほしい。

問:ASEANバイヤーへの売り込みで工夫した点は。

答:針の特徴を説明することや、ヘッドに用いるプラスチックの含有物についての証明書を提示することで、有害物が入っていないことをバイヤーにアピールした。当社商品の形状を模した商品を生産することは容易なため、このように高い品質を備えているということを強調した。証明書については、日本で検査したものを一部英訳し補足として加えた。ASEANバイヤーの間では、もともと日本製品の評価が高い上、証明書を示すことによって納得感がより一層増したようだ。「メード・イン・ジャパン」に対する強い信頼を感じられ、ありがたいことだと思う。このような実感は、海外に出ないと経験できないものだと感じている。

<継続的な展示会参加が認知度を高める>
問:ASEAN市場開拓で直面した課題と対応策は。

答:先に述べたが、通関について問題を感じている。タイのバイヤーに関しては、当社の商品を直接購入するため、静岡県の清水港を利用した船便で出荷しているが、通関上の問題は特に感じない。しかし、タイ以外の国では通関が遅い上、費用もかさむ。発注量を増やすことによりコストダウンしてもらえないか、バイヤーに打診しているものの、なかなか対応が難しいようだ。インドネシアにおいては、このような点が改善されれば、ビジネス環境が一層好転するように思う。このような状況下でも、インドネシアのバイヤーが月1回ないし2ヵ月に1回程度、当社の商品を購入してくれている。このバイヤーとの取引は、2年ほど前に開催されたジェトロ主催の商談会で出会ったことがきっかけだった。

中国においては、代理店を見つけられないと商品の販売は厳しいと感じている。個人のバイヤーが多く、彼・彼女たちは通関が不得手で、スムーズに対応することが難しいからだ。このような状況はベトナムにおいても同様だ。中国に関しては、次回のキャラバン事業に参加して、以前当社商品を購入してくれた上海の会社に代理店を頼む予定で、既に先方は了解してくれている。代理店を介在させることで、個人のバイヤーによる当社商品の購入も容易になるだろう。

問:ASEAN市場開拓における今後の展望と事業展開は。

答:ASEANキャラバン事業をはじめとする展示会や商談会の場へ継続的に商品を出していくことにより、商品の認知度が徐々に高まると考えるため、出展にあまり間隔を空けるべきではない、と感じている。今後はインドネシア、タイはもちろん、ASEANだけにかかわらずモンゴルなど各国に商品を輸出したい。先日、ブータンにおいて当社商品を着用してくれていると報告を受けた。当社の製品の特徴からしても、全世界において潜在的なビジネスチャンスの存在を感じている。

(板東辰倫)

(ASEAN・日本)

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