財務省の増税政策、化粧品や燃料の課税拡大

(ブラジル)

サンパウロ事務所

2015年03月06日

財務省は増税政策に関し、1月21日から30日にかけて、3つの政令と大統領令(暫定措置令)を官報に掲載した。化粧品流通に課せられる工業製品税(IPI)の課税体系が変更されるほか、社会統合基金・公務員厚生年金(PIS/PASEP)および社会保険融資負担金(COFINS)の税率が変更され、金融取引税(IOF)や燃料に対する税率も変更になる。この一連の増税措置は206億3,000万レアル(約8,458億3,000万円、1レアル=約41円)の税収を新たに確保するためのものだが、インフレ圧力の高まりと景気への悪影響も懸念される。

<化粧品の流通業者もIPI課税の対象>
1月29日付政令8393号によると、同政令の付属書で定められた12のコードに分類される化粧品および化粧品関連製品を取り扱う卸売業者が関連会社から仕入れた製品を販売する場合、新たにIPIを徴収する。IPIは、これまで製造業者が製品出荷時に課税されていたが、卸売業者が小売業者に出荷する際、あるいは消費者に販売する際などには課税されていなかった。卸売業者は今後、資本関係などがある国内の製造業者や輸入業者に加え、同系列の別の卸売業者から仕入れた製品を販売する場合も課税対象になる。

IPIは原則、工場の出荷時点や国外製品の輸入時点にのみ課税され、その後の商流においては課税されない。そのため化粧品業界では、製造業者や輸入業者が同系列の卸売業者にその後の流通を任せ、卸売業者に相対的に大きな流通マージンを乗せるという節税策が横行していた。本改定でその後の流通マージンにも課税することにより、これらの節税策を取り締まり、税収を増加させるのが狙いだ。

12の化粧品および商品関連製品の中には、香水、マニキュアといった国内販売が好調な製品が多い(表1参照)。ブラジルの化粧品市場は米国、日本に次いで世界3位だ。レビ財務相によると、化粧品分野の増税により3億8,100万レアルの税収が見込めるという。本施策は2015年5月から開始される。ブラジル衛生香水化粧品協会(ABIHPEC)は、最終製品の価格上昇を懸念している。

表1IPI課税体系変更の対象となる化粧品および関連製品

<輸入品との税率変更で国産品との格差を是正>
1月30日付暫定措置令668号によると、輸入製品に対するPIS/PASEPおよびCOFINSを、現在の平均9.25%(PIS/PASEPが1.65%、COFINSが7.6%)から、11.75%(PIS/PASEPが2.1%、COFINSが9.65%)に引き上げる。2015年5月から実施する。

本措置の目的は輸入品と国産品の間での課税に関する不平等な状況の是正にある。具体的には、輸入品に対しては2013年10月から計算方式が簡略化され、課税ベースがCIF価格のみとなったことで課税額が減った一方、国産品については課税体系が変わらなかったことから、税コスト面では輸入品が有利になったことを指す。ちなみに、同改定(計算方式が簡略化される)以前は、輸入品については、課税ベースとなる輸入申告価格(CIF価格)に商品流通サービス税(ICMS)やIPIなど、輸入の際に課せられる税金を加える内税方式だったため、計算方式が複雑で課税額も高くなっていた。

<金融取引や燃料に関する税率を変更>
1月21日付政令8392号によると、金融機関が行う金融取引に対して課せられるIOFは、個人向け融資の税率が年率1.5%から3%へ引き上げられる(日歩0.0041%から0.0082%に引き上げられる)。借り入れごとの税率0.38%は維持される。

1月29日付政令8395号によると、2012年から負担率が0%になっていた石油関連製品の輸入・国内販売に課される燃料社会負担金(CIDE−Combustivel)の徴収を2015年5月から再び行う。併せて、同製品にかかるPIS/PASEPおよびCOFINSの税率も2月と5月に変更される。これらにより2月以降は、ガソリン価格が1月以前より1リットル当たり約0.22レアル、軽油(ディーゼル)は0.15レアル引き上げられる(表2参照)。

表2ガソリンと軽油社会負担金(1,000リットル当たり)

レビ財務相は、ガソリン価格について言及する立場にないとしている。ただし、昨今の原油安の恩恵を実感しづらい状況(2015年1月15日記事参照)であることに加え、今回の増税による価格上昇で消費者の負担感は増すとみられている。

ブラジル経済が信頼を取り戻すためには、まず財政収支を立て直すことが不可欠で、増税策は必要不可欠とされる。しかし、本施策で製品の価格上昇圧力が高まり、加えて渇水による水力発電の出力低下で電気料金など公共料金の値上げも実施される事態を考え合わせると、経済回復までの道のりは険しいものとなりそうだ。

(辻本希世)

(ブラジル)

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