開城工業団地の操業は中断前の水準に−強みは低廉な労働力とソウルへの近さ−

(韓国、北朝鮮)

中国北アジア課

2014年12月16日

開城(ケソン)工業団地の生産活動は、2013年4〜9月の操業中断前の水準にほぼ戻っている。同工業団地の製品の9割は韓国国内向けで、同工業団地の強みとして、低廉で優秀な労働力、市場への近接性が指摘されている。韓中自由貿易協定(FTA)で開城工業団地の製品が韓国産と認定される道が開かれたことについては、中国向け輸出の機会とする見方と、韓国国内市場での中国製品との競合激化を懸念する声があるようだ。

<中国よりはるかに安い人件費>
11月10日に実質的妥結が発表された韓中FTAでは、「朝鮮半島域外加工地域」で生産される製品について原産地の地位を認定することとなった。それにより、北朝鮮国内にある韓国企業の工業団地である開城工業団地の生産品が韓国産と認められる道が開かれた。開城工業団地は南北経済協力の象徴として、2000年に北朝鮮の開城市とその周辺地域に造成されることが決まり、入居した韓国企業によって2004年末から生産が開始された。しかし、北朝鮮の一方的措置により2013年4月から9月まで操業が中断した(2013年9月20日記事参照)

操業再開から1年以上が経過した最近の状況と韓中FTAへの期待について、12月上旬に行った複数の同工業団地関係者へのインタビューを中心に整理した。

韓国統一部によると、2014年8月現在、開城工業団地には125社が入居、北朝鮮側の従業員が5万3,000人以上勤務している。企業の撤退例はなく、従業員数も操業中断前の水準と変わらない。関係者は「生産額は操業中断前の95%の水準に回復しているが、回復が遅れている企業もある。これは一部のバイヤーが、操業中断リスクの残る開城工業団地での生産品の購入を警戒しているためだ」と説明する。

開城工業団地関係者が一様に指摘するのは、入居企業の満足度は比較的高く、その結果、操業中断後も撤退企業がみられなかった点だ。その上で、同工業団地の強みとして、労働力と立地を指摘している。

現在、開城工業団地の最低賃金は月間70.35ドル。これに各種の手当や社会保険料などが加わっても、平均で150ドル程度で、中国よりはるかに安い水準だ。その一方、労働生産性は平均で韓国の8割程度に達しているという。労働生産性が比較的高い理由として指摘されたのは、まず、北朝鮮は労働市場がないため、従業員の転職がみられないことだ。同工業団地で操業する企業の3分の2が繊維・縫製業で、作業の熟練度が要求される。従業員の勤続期間が長いため、従業員の熟練度が高まり、生産性も高まってくるという。さらに、韓国人と同民族であり、言葉が通じることも生産性向上に結び付いている。

開城工業団地で生産する製品の9割は韓国で販売される。同工業団地はソウル市から約60キロしか離れていない。韓国の総人口5,000万人のうち、半数がソウル首都圏に住んでいる。このような大きな市場に近接しているのが同工業団地のもう1つの強みだ。特に売れ筋商品の変化が激しいアパレル製品は近接地で生産するメリットが大きく、同工業団地は多品種少量生産に向いているとのことだ。

<政治的リスクは払拭しきれず>
一方、問題点も指摘された。最大の問題は2013年の操業中断のような政治的リスクが払拭(ふっしょく)できない点だ。南北当局者は2013年8月に「開城工業団地正常化のための合意書」に署名し、その中で「いかなる場合でも状況に影響されず工業団地の安定的運営を保障する」と規定した。また、同工業団地の運営を話し合う「南北共同委員会」を設置した。それでも、政治的リスクは拭い去れない。ある関係者は「北朝鮮では合意と合意の履行とは別問題だ。合意をしても合意が履行される保障はない」と語った。

次いで、インターネットや携帯電話が使用できないなど、通行・通信・通関上の制約(いわゆる「3通問題」)が挙げられる。入居企業はこれらの制約下で事業を運営せざるを得ない。

<韓中FTAへの期待と警戒が交錯>
韓中FTAで開城工業団地産の製品が韓国産と認められる道が開かれたことについては、同工業団地関係者は「巨大市場の中国市場に輸出しやすくなる点はメリット」と述べた。別の関係者も「中国の消費者は『メード・イン・チャイナ(中国製)』よりも『メード・イン・コリア(韓国製)』を選好する。中国市場に対する入居企業の関心は高い」と述べた。現状では韓国市場向け販売が中心であるだけに、新規市場としての中国に期待をしているわけだ。

その一方で、警戒する向きもある。公共放送のKBSテレビ(11月11日)は「韓中FTAは期待半分、心配半分」とした上で、後者については「中国製品の低価格攻勢に加え、関税メリットまで受けて韓国市場に入ってくるとすると、(韓国国内販売への依存度が高い)開城工業団地入居企業の懸念が高まるだろう」とする同工業団地関係者のコメントを紹介している。

(百本和弘)

(韓国・北朝鮮)

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