欧州委、TTIPの第7回交渉概要を発表−化学分野で環境NGOから懸念の声も−

(EU、米国)

ブリュッセル事務所

2014年10月08日

欧州委員会は10月3日、9月29日〜10月3日に行ったEU・米国間の包括的な貿易投資協定(TTIP)の第7回交渉の概要を公表した。TTIP交渉により、環境や健康、消費者保護の現行規制が変わるのではないかという環境団体などからの懸念が高まっており、同交渉の透明性の確保がますます重要になってきている。

<交渉はテキストの調整段階に円滑に移行>
EUと米国は9月29日〜10月3日の5日間にわたる包括的な貿易投資協定(TTIP)第7回交渉をワシントンで行った。EU側のイグナシオ・ガルシア・ベルセロ首席交渉官は第7回の交渉終了に当たり、声明を発表した。同声明によると、この1週間も生産的な協議を行ったとしており、交渉はテキストの調整段階に円滑に移行し、協議は双方が提出した特定のテキスト案を基に行われたという。

欧州委員会が10月3日に発表した交渉概要は次のとおり。

1.交渉協議
(1)規制の柱
今回の交渉では、将来の協定の「規制の柱」に多くの重点が置かれた。今回はTTIPの全ての規制要素について、規制の調和や貿易の技術的障害(TBT)、衛生植物検疫措置(SPS)などの分野横断的な規律に加えて、医薬品や自動車、化学、エンジニアリングのような前回の交渉で特定された分野において協議されたという。

分野横断的な規律に関しては、テキスト案をベースに協議を十分に行うことを約束している。重要な課題は、EUと米国の規制当局者が高い保護レベルを基礎とする新たな規制課題に取り組むことを可能にする強い協力枠組みを確立しようとすることだとしている。

特定分野に関しては、双方の規制当局者の権限を十分に尊重しながら、不必要な重複を省く具体的な成果を特定する技術的な作業が着実に進捗していると説明している。

<規制の柱では3つの重要な要件での交渉を確認>
TTIPの規制部分は、最も多くの利益をもたらす潜在性を秘めていると考えられている。また、これらの交渉は高度に技術的で、最も革新的な思考を求められるため、最も挑戦的な部分でもあるという。規制の柱に関する協議には、標準・規格、戦略的側面、整合性という3つの重要な要件がある。

a.標準・規格
EUの交渉官は、環境、健康、安全、消費者保護、あるいはEUと米国の規制当局が追求するその他の公共政策目標の保護を弱めたり、危うくしたりするようなことは何も行わないとして、明確で断固とした約束をしていると説明している。次期欧州委の通商担当委員に指名されているマルムストロム次期委員候補は、9月29日に行われた欧州議会での公聴会で、新規則に関する意思決定は既存の民主的な管理の対象であり続けることを再確認したことも補足している。

b.戦略的側面
EUと米国が高度な保護レベルを基礎とする国際規制や標準を発展させる上で、主導的な役割を果たすことを望むのであれば、規制協力の強化は必須となる。それ故、規制課題は明確に戦略的な重要性を帯びてくるという。

c.整合性
TTIPは規制の整合性を強化するという点で、具体的な結果をもたらすとしている。

<エネルギー、関税、知的財産権、中小企業の4分野を重点的に協議>
(2)ルールの柱
協定のルールの柱の幾つかの要素についても協議した。

今回の交渉では、次の4分野に関する協議と意見交換に重点を置くことを決めたとしている。

a.エネルギーと原材料
b.関税と貿易円滑化
c.知的財産権
d.中小企業

(3)サービス分野
また、サービス分野についても協議した。EUと米国は夏前に、それぞれ市場アクセスのオファーを提示している。サービス分野は高度に複雑で技術的。交渉官はそれぞれのオファーの全ての要素の詳細をお互いに説明することに、第7回交渉の多くの時間を割いたという。これは、相手側が提示したオファーの範囲を互いが理解して初めて交渉を前進させることができるため、全ての交渉において重要なステップであると説明している。サービス交渉に関するEU側のアプローチには、公共サービスに関するいかなる約束も含まれていないという。政府は特定のサービスが公共部門によって提供されるべきことをいつでも自由に決定できるままだと説明している。

<透明性確保の点で市民社会との対話を継続>
2.利害関係者イベント
交渉官による協議に加えて、10月1日に利害関係者とのイベントが開催された。交渉官らが1日を使い、市民社会の代表らと意見交換を行う機会が与えられたことを歓迎したとしている。交渉ラウンドごとに、利害関係者との協議セッションが企画されている。今回もまた、約330の多様な利益代表者が参加し、交渉分野に関する64のプレゼンテーションがなされたという。利害関係者の関与は、EUと米国の双方において、明確なメッセージを送ることになる。双方の交渉官は市民を代表して、市民のために全ての作業を行っている。市民のアイデアを聞き、市民の懸念に答える必要があると説明している。

また、(交渉での)事実に加え、交渉官が取るアプローチを説明する義務があるとし、利害関係者との対話は全ての人に開かれており、交渉プロセスを通じて、双方向で継続される。このことが、双方の指導者が設定し、市民の期待を反映する高い野心に応える最終的な協定を確実にすることができる唯一の方法だと説明している。

欧州委はマルムストロム次期通商担当委員候補が、市民社会との対話を十分に約束していることを保証できると補足している。

3.政治的状況
広範な政治状況がTTIPの交渉にどのような影響を与えるのか市民が疑問に思っていることも理解しているとした上で、EUはユンケル次期欧州委委員長が次期欧州委にとって、TTIPを10優先課題の1つにしていることを強調した。それ故、TTIPは次期欧州委においても、強力な政治的支持が継続されるとしている。交渉官も野心的な協定に向けた作業を継続するとともに、環境、健康、安全、消費者、データ・プライバシーの保護、あるいはその他の公共政策目標の保護に関し妥協することはなく、政府の規制する権利も妨げないと強調している。これら交渉へ引き続き十分に専念し、包括的で革新的な貿易協定の目標に向けて可能な限り前進させていくことを米国とも約束している。

<環境・健康基準の変更はないと強調>
特に、化学分野でのTTIP交渉の結果が潜在的に既存のEUの環境・健康基準を引き下げるとする環境NGOからの懸念に対して、ドゥ・グヒュト通商担当委員が10月2日のレターで回答しており、TTIP協定がこうした環境・健康基準を変えることはないと強調している。同レターでは、化学分野に関する現行のEUと米国の規制は、調和も相互承認も実現可能でないほど異なっていることも明確にしている。EUはそれぞれのルールの範囲で、次の4つの分野での共同作業を想定している。これらの作業はより効率的な制度づくりと、企業や規制当局の費用負担を削減する方向で行う。

a.評価する化学品の優先付け
b.化学品の分類と表示
c.新たな問題や新たに出現する問題の特定と対応
d.情報共有と企業機密情報(CBI)のより効果的な保護

また、EUの通商情報を専門に配信するオンライン・サービス「EUトレード・インサイト」によると、米国側は交渉のより政治的な側面に進む前に、EUのマルムストロム次期通商担当委員候補が承認されるのを待っている状態だという。

なお、第8回となる次回交渉は次期欧州委への移行後の12月8日の週にブリュッセルで開催される予定で暫定的に設定されているという。

(田中晋)

(EU・米国)

ビジネス短信 5432308429428