発行要件が厳格化、手続き面でも多くの留意事項−アジア主要国の就労許可・査証制度比較(17)−

(アジア)

シンガポール事務所

2014年10月02日

日本企業のアジアへの直接投資拡大とともに、日本から派遣される日本人も年々増え続けている。アジア各国は外国投資誘致に積極的であり、総じて外国人に対する就労許可・査証制度がビジネス展開上の深刻な阻害要因となっている国はみられない。一方で、外国人の増加とともに一部の国では近年、同制度の規制強化の動きがある。また、その他の国でも同制度や短期滞在時の査証で留意すべき事項が散見される。シリーズ最終回では各国の制度を総覧する。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<事業拡大とともに増加する在留邦人>
日本の対アジア直接投資残高は、2013年末に3,103億ドルに達し、2008年(1,596億ドル)から倍増している。直接投資の増加とともに、アジア地域に派遣される駐在員を含む在留邦人の増加が続いている。

外務省の「海外在留邦人調査統計」から、アジア各国の在留邦人数の推移をみた(表参照)。アジアの中で最も在留邦人数が多いのは中国で、2013年で約11万人が居住している。ASEAN全体では約16万人の在留邦人がおり、国別ではタイ(5万9,270人)、シンガポール(3万1,038人)、マレーシア(2万1,385人)、フィリピン(1万7,948人)、インドネシア(1万6,296人)が続いている。南西アジアでは、インドの7,883人が最も多く、スリランカ(1,002人)、パキスタン(917人)が続いている(注)。

アジア各国の在留邦人数は総じて増加している。特に増加が著しい地域はASEANだ。2013年のASEAN全体の在留邦人数は2008年と比較して1.4倍に拡大、ASEAN各国のうち、エレクトロニクス産業や中小企業の進出が続くベトナムは1.7倍、自動車や消費財産業などの新規投資が相次ぐインドネシアは1.4倍、地域統括拠点の拡充などが続くシンガポールは1.3倍、引き続き中小企業の進出が目立つタイは1.3倍にそれぞれ拡大している。また、在留邦人数はまだ少ないものの、いわゆるタイプラスワンの投資の受け皿となっているカンボジアは2.2倍、同じくラオスは1.4倍、テインセイン大統領の経済改革路線で注目を集めるミャンマーは1.6倍に増加している。2013年の中国は、2008年と比べれば1.1倍に拡大しているが、2012年からは減少している。南西アジアでは、インドが2.4倍に増加したほか、縫製業の進出が続くバングラデシュは1.8倍に増加している。

アジア主要国・地域の在留邦人数の推移

<一部の国では就労査証の発行要件を厳格化>
新規に海外子会社を設立したり、駐在員を増員もしくは交代するなどの際に、まず直面する課題は受け入れ国側の就労許可・査証の取得だ。ジェトロ各事務所からの報告などに基づき、アジア地域における各国別の就労許可・査証制度の概要をまとめたのが添付資料の表1(ASEAN主要国)と表2(中国、南西アジア主要国、オーストラリア)だ。アジア各国はいずれも外国投資誘致に積極的であり、総じて外国人に対する就労許可・査証制度がビジネス展開上の深刻な阻害要因となっている国はみられない。しかし、近年、アジアの一部の国では、外国人の就労許可・査証の発行要件を厳格化する動きがみられ、事業を展開する上で留意すべき規制が存在する国もある。

以下では、各事務所の報告に基づき、一般に各国で企業に勤務する外国人駐在員を対象とする就労許可・査証制度の概要とともに、特に留意が必要な一部の国の制度に焦点を当てて整理する。各国で留意が必要な点としては、就労許可・査証の取得手続き面に加えて、外国人の雇用1人に対して一定数の自国民の雇用を義務付けたり、資本金に応じて雇用可能な外国人数を規定したりする「外国人雇用枠」、就労許可・査証の発行要件として最低額の給与水準を定める「最低給与基準」、大卒以上などと定める「学歴要件」、外国人ワーカーを受け入れている国では「雇用税」が課されている場合などが挙げられる。

まず、外国人の就労許可・査証の面で、近年、規制強化の方向にある国として、シンガポールとインドネシア、ベトナムが挙げられる。シンガポールは、依然として労働市場が最も対外的に開かれた国と位置付けられるが、2010年以降、外国人に対する就労許可証発行が厳格化される動きが続いている。この背景には、外国人増加に対する国民の不満解消や生産性向上を目指していることがある。シンガポールの人口540万人(2013年)のうち外国人は209万人(永住権者を含む)と38.6%を占め、外国人比率は2000年(25.9%)から12.7ポイント増加している。急速な外国人の増加が、不動産価格の高騰や交通機関などインフラ整備への負担増、実質賃金の伸び悩みをもたらしている要因とシンガポール国民に認識され、不満となっている。こうした国民の不満解消とともに、過度に外国人に依存した経済構造から脱却し、生産性の向上を目指していることが外国人雇用規制強化の動きの背景にある。

シンガポールの主要な就労許可には、「EP(エンプロイメント・パス:管理・専門職外国人向け)」「Sパス(中技能者向け)」「ワーク・パミット(WP:建設労働者や工場労働者など低技能者向け」の3種類がある。このうち、EPとSパスに適用される最低給与基準下限の引き上げ、良質な大学の学位を有することを求める学歴要件の厳格化、WPとSパスについては、外国人雇用枠規制の強化と雇用税の引き上げが実施されている(WPの詳細は後述)。さらに、2014年8月からはEPの新規申請要件として、一部の企業内転勤者などを除き、政府が管理する求人バンクでシンガポール人および永住権者向けにまず求人広告を掲載することが義務付けられた。

インドネシアにおいても、自国民への就業機会の増加を目的に、外国人への就労許可・査証制度の規制強化が図られている。2012年に人事関連など特定役職への外国人の就任が禁止されたのに続き、2013年には学歴要件を強化する新しい規定が出されている。具体的には、就労許可の学歴・職歴要件として、旧規定の「就任予定の役職に応じ、学歴を有する、および/あるいは最低5年間の職歴」から「役職の要件に応じた学歴」と「能力認証によって証明される能力あるいは5年以上の職歴」の双方を満たすことへ変更された。ただし、監査役、取締役、興行サービス分野、一時的業務には適用されず、役職の要件に応じた学歴には明確な基準は明示されていない。

さらにベトナムでも、2013年の労働法改正に基づき、就労許可証の有効期間が3年から2年に縮小されたことに加え、外国人雇用の必要性を説明する書面を提出し、ベトナム政府から「外国人労働者の雇用承認書」を受けることが新法で義務化されるなど、就労許可の規制強化が行われた。さらに、新労働法では学歴要件も明確化され、発行対象となる社長、管理者、専門家、技術的労働者のうち、「専門家については大卒かつ職務経験5年以上」が求められ、大卒資格が求められることとなった。しかし、2014年7月には一転、専門家に対する学歴要件を撤廃する政府決議が示され、緩和することが発表されている。製造業の熟練技術者の査証取得などで障害が生じたことが要因とみられている。

このほか、オーストラリアでも、2013年に前労働党政権の下、長期就労査証(457ビザ)の発行要件として英語力の能力証明(IELTSの全てのセクションで5.0以上)、最低給与基準の引き上げなどの規制強化が実施されている。

<多くの国で外国人雇用枠が適用>
アジア主要国で幅広く適用されている就労許可・査証関連の規制に「外国人雇用枠」がある。アジア主要国の中では、シンガポール、タイ、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、ラオス、カンボジア、バングラデシュ、中国などで、外国人雇用枠規制が課されている(外国人ワーカーの雇用枠については後述)。厳格な規制から裁量的な規制まで幅広いが、外国人を増員したい場合、障害となり得る可能性を含んでいる。

シンガポールでは、EPについて外国人雇用枠はないが、Sパスには課されている。Sパスの外国人雇用枠は、サービス業の場合は全従業員の15%以下、非サービス業の場合は20%以下に制限されている。なお、Sパスには雇用税も課税され、2014年9月時点では月額315〜550シンガポール・ドル(約2万7,000〜4万7,300円、Sドル、1Sドル=約86円)が課税されており、2015年7月以降には330〜650Sドルに引き上げられる予定だ。

タイでは、タイ投資委員会(BOI)による投資奨励企業、工業団地公社(IEAT)管轄の工業団地に事業所を所有している企業の場合、外国人雇用枠規制は適用されない。しかし、こうした企業以外の場合には、原則として外国人1人に対して4人以上のタイ人従業員の雇用、外国人1人に対し200万バーツ(約680万円、1バーツ=約3.4円)の払込資本金を有すること、外国人10人を超えるワーク・パミット取得には、納税額が300万バーツ以上であること、輸出額が3,000万バーツ以上であることなど、厳しい雇用枠規制が課されている。

インドネシアでも、「外国人従業員雇用計画書」を労働移住省に申請する必要があるが、資本金、事業規模などに基づき外国人の雇用人数が決定される。一方、金融業についてはインドネシア金融庁の所管となり、外国人の雇用人数も制限的に運用されているとされる。加えて、商社の駐在員事務所の場合は、外国人1人の雇用に対してインドネシア人3人を雇用するルールが適用される。

フィリピンでは、フィリピン経済区庁(PEZA)に認定された企業では、原則として、外国人従業員は全従業員の5%以下にすることが求められる(ただし役員は除かれるとされる)。

またミャンマーでも外国人雇用枠規制がある。外国投資の認可は、ミャンマー投資委員会(MIC)の認可を得た上で投資企業管理局(DICA)の営業許可を取得するルートと、DICAの営業許可のみを取得するルートがあるが、MIC認可ルートでは、全従業員に占めるミャンマー人の割合を事業開始後2年以内に25%以上、次の2年間には50%以上、次の2年間には75%以上にすることが求められている。

ラオスでも、頭脳労働者は全従業員数の20%、肉体労働者は同10%までとする外国人雇用枠がある。ただし、国内企業からの要望を踏まえ、近く、頭脳労働者の外国人雇用枠が25%に、肉体労働者が15%にそれぞれ緩和される見通し。カンボジアでも、外国人労働者は全従業員の10%以下にすることが原則とされているが、10%を超える場合も労働・職業訓練省から特例許可を取得すれば可能とされている。同様にバングラデシュでも、製造分野では外国人1人につきバングラデシュ人20人以上、商業分野では1人につき5人以上という外国人雇用枠規制が存在している。

中国では、現地法人に対しては明確な外国人雇用枠は設定されていないが、駐在員事務所の場合、外国人就労者数は4人までに制限されている。

<最低給与規制を設定している国も>
就労許可・査証の発行要件として、発行する外国人の最低給与基準を設定している国もあり、シンガポール、マレーシア、タイ、インド、バングラデシュなどが該当する。

シンガポールの最低給与額は、EPは3,300Sドル以上、Sパスは2,200Sドル以上と設定されている。加えて、家族帯同ビザの取得は、月額4,000Sドル以上が条件となる。なお、最低給与額は2011年にはEPで2,500Sドル、Sパスで1,800Sドルであり、段階的に引き上げられている。最低給与額はシンガポールの大卒者の給与水準をベースに決定されており、今後も引き上げられることが想定される。

マレーシアの最低給与額は月額5,000リンギ(約17万円、1リンギ=約34円)以上と規定されている。タイでは、就労査証の更新時には日本人について月額5万バーツ(日タイ経済連携協定で6万バーツから引き下げ)以上であることが求められる。

またインドについても、最低年間賃金が2万5,000ドル以上であることが就労査証の発行要件の1つとなっている。バングラデシュでは、出身国別に最低給与要件が定められており、日本人の場合、役職に応じて一般職は月額1,000ドル以上、役員などは2,000ドル以上などと定められている。

<関連機関からの推薦状取得が必要な国も>
このほか、上記以外で留意すべき手続きなどがある国もある。まずインドネシアでは、外国人1人当たり月100ドルの外国人労働者雇用補償金(DKPTKA)を納付することが求められる。

手続き面では、ベトナムで就労許可証を取得するには、「無犯罪証明書」を提出することが求められる点がある。中国においても、一部の都市では同様の証明書の提出を求められる場合があるとされる。

またタイでは、タイ側企業からの「招聘(しょうへい)状」の提出が求められるため、新規進出の際などに時間を要するケースがあるとされる。ミャンマーにおいても、関係省庁からの推薦書が求められている。スリランカにおいても、関連機関からまず推薦状を入手することが求められ、スリランカ投資庁(BOI)の認可企業の場合はBOIが推薦状を発行するが、非BOI企業の場合は関連機関から推薦状を取得する必要がある点に留意が必要だ。

<労働力不足を補う外国人ワーカーの受け入れ>
アジアの一部の国では、国内の労働力不足を背景に、非熟練外国人ワーカーを受け入れ、就労許可・査証を発行している国もある。具体的には、国内の労働力不足が顕著となっているシンガポール、マレーシア、タイなどでは、外国人非熟練ワーカーに対して就労許可・査証を発行し、日系企業でも外国人労働者を採用していることが一般的だ。

シンガポールは、建設労働者や工場労働者、自宅の家事手伝いなどの職種で特定国からの外国人を受け入れており、こうした職種での受け入れには就労許可証(WP)が発行されている。国内の労働力不足を背景に、WPの外国人だけで約100万人の外国人を受け入れている。WPに対しては、外国人雇用枠と雇用税が課されている。業種別に、外国人雇用枠規制については、シンガポール人1人に対して外国人ワーカー5〜7人もしくは全従業員の40〜60%の枠が設定されており、雇用税については、月額250〜950Sドルが課税されている(2015年7月からは月額250〜1,050Sドルに引き上げられる予定)。

マレーシアもワーカー不足が目立つ国で、製造現場などではネパール人やインドネシア人などの外国人ワーカーが採用されており、その数は数百万人に上るとされている。マレーシアでも、外国人ワーカーに対しては外国人雇用枠と雇用税が課されており、企業の業態などに応じて、マレーシア人1人に対して外国人ワーカー0.5〜3人の雇用枠が原則として課され、雇用税は職種や地域に応じて年間410〜1,850リンギが課税されている。加えて、マレーシアでは外国人ワーカーの就労期間は、制度上は原則5年間まで認められるが、近年は3年間に限定されているとされる。そのため、技能の継続性をどう維持するか、課題に直面している企業も多い。

タイでも外国人ワーカーにWPが発行され得るが、前述の外国人雇用枠規制や最低払込資本金規制などが同様に適用される。加えて近年、BOI認可企業に対しては、毎年一定比率で外国人ワーカー数を削減することが義務付けられている。

人口が約700万人のラオスでは、外国人ワーカーを受け入れる制度があり、肉体労働に関する外国人雇用枠は全従業員数の10%までに制限されているが、近く15%に緩和される予定だ。

<短期出張が「就労」と見なされるリスクも>
就労許可・査証は原則として長期間の就労を対象としたものだが、出張ベースの短期滞在においても、業務の内容によっては「就労」と見なされるリスクがある。短期出張で技術指導や機械のメンテナンスなどを行う場合、出張先の当該国から、通常の短期出張に係る査証の枠を超えた就労と見なされる可能性があるためだ。

例えばインドネシアでは、短期出張で技術指導、機械のメンテナンスなどを行う場合は就労と見なされることがあり、留意が必要だ。インドネシアは近年、投資が急増しており、業務が以前より大幅に増している在インドネシア日系企業も多い。こうした場合、近隣国のグループ会社から出張ベースで支援を受けることもあるが、上記のようなリスクが生じ得ることには留意する必要がある。

タイでは15日間を上限に短期間の就労が認められるが、その場合、「15日以内の緊急業務届」を労働省もしくはワンストップサービスセンターに届け出ることが必要だ。

また中国でも近年、不法就労に対する罰則規定が強化されており、長期就労査証以外で入国して就労していると判断されるリスクには留意することが必要と指摘されている。

特に労使関係が悪化している会社などでは、出張者が工場に立ち入った際などに、当局に通報されるケースがタイやインドネシアでは発生しているとされており、注意を要する点だ。

総じて、アジア主要国で就労許可・査証制度が事業展開上の深刻な阻害要因となっている国はみられないが、シンガポール、インドネシア、ベトナムなど外国人の増加とともに要件が厳格化する国があること、外国人雇用枠規制、最低給与基準、学歴要件、雇用税、推薦状の取得などの手続き面や短期出張の際にも留意を要する国が散見される。

(注)在留邦人統計は、在留邦人からの各国の日本大使館・領事館への届け出に基づいて作成されるため、未届けも含めると実際の在留邦人はさらに多いと想定されている。

(椎野幸平)

(アジア)

ビジネス短信 542ba85648c10