多国間・2国間の枠組みで関税削減が進展−アジア地域経済統合の進展とインド(1)−

(ASEAN、インド)

バンコク事務所・ニューデリー事務所

2014年10月01日

2010年に発効したASEANインド自由貿易協定(AIFTA)により、2014年9月現在、既に7割を超える品目の関税が相互に撤廃されている。2014年9月には、フィリピンを除くASEAN9ヵ国とインドがAIFTAのサービス・投資協定への署名を完了。両国・地域に日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16ヵ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も、2015年末の妥結に向けた交渉が進展中だ。在インド日系企業は、こうした自由貿易の枠組みを自社の生産・販売・輸出戦略の中でどのように活用しているのか。またインドの産業界は、RCEP16ヵ国との今後の関係構築をどのように捉えているのか。現地インタビューを基に4回に分けて報告する。

<多国間・2国間のFTAが併存>
インドとASEAN加盟国との間では、2010年1月に発効したAIFTAのほか、2国間の枠組みとして、シンガポールとの包括的経済連携協定が2005年8月に、マレーシアとの包括的経済連携協定が2011年7月に、それぞれ発効している。AIFTAの下では、それぞれの締約国が自国貿易品目を、a.ノーマルトラック(1および2)、b.センシティブ品目、c.高度センシティブ品目(および特別品目)、d.適用除外品目、に分類。このうち、相互貿易品目全体の71%を占めるノーマルトラック1の対象品目については、インドおよびフィリピンを除くASEAN先行加盟5ヵ国が2013年12月末までに関税撤廃を完了させており、さらに9%に相当するノーマルトラック2の対象品目についても、2016年12月末までに撤廃することが定められている。

また、マレーシアとの2国間協定では、AIFTAより相対的に早いスケジュールでの関税削減が進展しており、2016年6月末までにインド側で約8割のノーマルトラック対象品目の関税が撤廃(そのうち、ノーマルトラック1に含まれる大半の品目については2013年9月末までに撤廃済み)される。これに加え、タイ・インド間では2003年10月に締結したFTAの枠組み協定に基づく先行関税引き下げ措置により、対象82品目の関税撤廃が完了している。

<在インド企業は輸入で、在ASEAN企業は輸出でFTAを活用>
AIFTAならびに前出の2国間FTAを通じた関税削減が進展する中で、両国・地域に進出済みの日系企業によるFTA活用も着実に増加している。ジェトロが毎年実施している「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」の最新調査結果によると、2013年10〜11月時点で、ASEAN向けに輸出実績のある在インド日系企業57社のうち、19社が輸出にFTAを活用(活用率33.3%)、11社が活用を検討している(表1参照)。

一方、輸入での活用はさらに進んでおり、ASEANから物品を輸入する在インド日系企業130社のうち、FTAを活用している企業は58社(活用率44.6%)、また輸入での活用を検討している企業も36社に上る。同調査において、2010年8〜9月時点でのASEANとの間でのFTA活用が、輸入で24社、輸出ではわずか3社だったことに比べ、3年間で活用が大きく拡大している状況が分かる。とりわけ、ASEANからの部材調達戦略の中で、FTAの有効活用が進んでいる。

表1インド進出日系企業によるASEANとのFTA利用状況(2国間含む)

また、在ASEAN日系企業の立場から対インドFTAの活用状況をみると、とりわけインド向けの輸出において、FTAの活用が進んでいる(表2参照)。2013年10〜11月時点では、ASEANからインド向けに輸出をしている企業は254社、そのうち94社がFTAを活用している(活用率37%)。所在国別の活用企業数では、タイが36社と最も多く、シンガポール(21社)、マレーシア(18社)、インドネシア(10社)、ベトナム(9社)と続いている。一方、インドからの輸入にFTAを活用している企業は27社、うちタイが最も多い12社となっている。

表2ASEAN進出日系企業によるインドとのFTA利用状況(2国間含む)

上記調査結果が示す通り、在ASEAN日系企業の多くは、インド市場開拓のツールとしてFTAの有効活用を模索している。一方、在インド日系企業は、インドでは調達できない部材を在ASEANのグループ拠点もしくはサプライヤーから調達する際のコスト削減手段として、FTAを位置付けている状況にある。他方、インドからの輸出、ASEAN側でのインドからの調達の面では、FTAの活用がそれほど進んでいないのが実態といえる。

<上位品目はディーゼルエンジン、エアコン、樹脂原料など>
品目別では主にどのような製品でFTAが活用されているのか。インド側のFTA利用実績や統計は公表されていないため、タイ商務省が集計しているFTA活用実績から、対インド輸出の状況をみる。2013年(1〜12月)のタイからのFTAを活用したインド向け輸出額は22億4,183万ドルで、同年タイからのインド向け輸出総額(51億8,182万ドル)の43%に相当する。そのうちAIFTAを活用した輸出額は16億5,154万ドル、タイ・インド2国間FTAのアーリーハーベスト(EH)措置を活用した輸出が5億9,029万ドルとなっている。

表3および表4は、それぞれのFTAを活用した品目別輸出(HSコード6桁レベル)の上位5品目の輸出額、FTAを活用した場合の実効税率、FTAを活用しない場合の最恵国待遇税率(MFN税率)を示したものだ。AIFTAを活用した輸出では、ディーゼルエンジン(自動車向け)が最大の輸出品目となっているほか、ポリエチレン、エチレンなどのプラスチック材料、自動車用部品(その他)、冷蔵・冷凍機器向けの圧縮機などのユニット部品などが上位を占める。上位品目のうち、エチレン(ノーマルトラック2)を除く品目については、全品目の1割程度に相当するセンシティブ品目(2016年末までに原則5%以下に引き下げ)に分類されているため、AIFTAを通じた関税削減幅(2013年時点)は1.5〜3.0%にとどまっている。両国間のAIFTA活用実態からは、わずか1.5%程度の関税削減でも、ユーザー企業にFTA活用のメリットがあることが分かる。

また2国間FTAのEH措置による輸出の上位品目は、エアコン、カラーテレビなどの家電完成品のほか、ポリカーボネート、アルミニウム合金、エポキシ樹脂などの製造業の原材料関連品目が並んでいる。

表3AIFTAを活用したタイの対インド輸出上位5品目
表42国間FTAのEH措置を活用したタイの対インド輸出上位5品目

タイ・インド間のように、AIFTAと2国間協定が併存する場合、品目別の関税撤廃・削減状況はそれぞれ異なり、AIFTAでは撤廃されていない品目が2国間協定では撤廃対象に指定されているケース、またはその逆のケースも少なからず存在している。利用する企業にとっては、自社の輸出入対象品目をそれぞれのFTAに付属する関税譲許表から確認し、輸出入時点で最も有利なFTAを活用する視点が求められる。

(伊藤博敏、西澤知史)

(ASEAN・インド)

FTAの活用でコスト削減を図る進出日系企業−アジア地域経済統合の進展とインド(2)−
RCEPに部材調達や輸出の幅を広げる効果を期待−アジア地域経済統合の進展とインド(3)−
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