ロシア、農産品と食品の輸入制限措置を相次いで実施−対ロ制裁導入国からの輸入を1年間禁止へ−

(米国、EU、ロシア)

モスクワ事務所

2014年08月07日

ロシアは、農産品および食品の輸入制限措置を相次いで導入している。米国やEUによる対ロ経済制裁の強化や、ウクライナ、モルドバによるEUとの連合協定署名への対抗措置とみられる。農産品・食品の輸入制限は、過去にもグルジア産、モルドバ産ワインの輸入禁止などがあったが、今回の事態は輸入制限にとどまらず個別企業に対する査察や提訴にまで拡大している。さらにプーチン大統領は8月6日、米国、EUなど対ロ制裁実施国からの農産品などの輸入を1年間停止するとの大統領令に署名し、即日発効した。

<経済制裁強化への対抗措置か>
連邦動植物検疫監督局および連邦消費者権利保護・福利監督局は7月下旬から8月1日にかけて、ウクライナ、モルドバ、ポーランドを原産地とする農産品・食品に対して相次いで輸入制限措置を実施した(表参照)。

両機関は、輸入制限措置を導入する理由として、a.農産品に対しては衛生・検疫上の問題、b.加工食品に対しては、商標表示、カロリー表示、重量表示、栄養成分、食塩含有量の不適合を挙げている。

最近のロシアの輸入制限導入品目・行為(農産品・食品分野)一覧

ポーランドは、2013年にロシア向けに野菜・果物を804トン輸出しており、輸出額は3億3,600万ユーロに達する。ロシアが輸入制限措置を導入したことで、損失は5億ユーロに達するという。他方、ロシアにとって輸入リンゴの半分以上はポーランド産であり、輸入制限がかかることで、ロシア国内のリンゴの価格が30〜40%上昇するとみられている(「RBKデイリー」紙8月1日)。

<輸入関税の免税条件見直しも>
ロシア経済発展省は、ウクライナ産品の輸入関税免税条件を見直す作業を行っている。ロシアは、CIS加盟国およびグルジアと自由貿易協定(FTA)を締結している。ウクライナとは白砂糖以外の品目が全て免税となっているが、これをWTO加盟国の最恵国(MFN)税率まで引き上げることが検討されている。MFN税率まで引き上げられた場合、加重平均した税率は7.8%となる。CIS自由貿易協定付属書6には、特定国からの輸入量が急拡大した場合はMFN税率を課すことができるという留保条件が設定されている。

ロシアと関税同盟を構成するベラルーシやカザフスタンはロシアに歩調を合わせる行動を取っていないため、関税同盟としての免税条件の見直し作業は簡単ではないとの指摘もある(「RBKデイリー」紙7月30日)。

<マクドナルドを相手取って提訴>
対ロ経済制裁への報復とみられる行為は、農産品・食品の輸入にとどまらない。消費者権利保護・福利監督局のノブゴロド支部は7月3日、マクドナルドを相手取り、モスクワのトベルスカヤ地区裁判所で、チーズバーガー、ロイヤルチーズバーガー、フィレオフィッシュ、チキンバーガーのほか、乳製品を使用したデザート類の製造中止を求めて提訴した。

同支部が4月28日〜5月8日にノブゴロド州内の2つの店舗を査察したところ、油脂、タンパク質、炭水化物の含有量およびカロリー表示や原材料が顧客向けに開示している情報と異なっていることが判明したという(ノーボスチ通信7月25日)。本訴訟の予備審問は8月に行われる予定だ。「イズベスチヤ」紙(7月30日)によると、ロマン・フジャコフ連邦下院議員は同監督局のポポワ長官宛てに、マクドナルド以外にバーガーキングやケンタッキーフライドチキン(KFC)といった米国系大手ファストフードチェーンでも検査を行うべきではないかという質問状を出した。他の企業にも影響が波及する可能性が高まっている。

<対ロ制裁実施国からの農産品などを1年間禁輸に>
プーチン大統領は8月6日、大統領令「ロシア連邦の安全保障を目的とする特定の特別経済措置の適用について」に署名し、同大統領令は即日発効した。同大統領令は、ロシアの国家利益の保護を目的とする2006年12月30日付連邦法第281−FZ号「特別経済措置について」および2010年12月28日付連邦法第390−FZ号「安全保障について」に基づくもの。

同大統領令によると、ロシア連邦の行政機関、地方自治体、ロシア連邦の法律に基づいて設立された法人、およびロシアで登録された企業などは、自身の活動において、大統領令の発効日から1年間、ロシアの法人、個人、もしくはその両方に対し経済制裁を導入した国を原産国とする一部の農産品、食品原材料および食料品の輸入を禁止・制限するとしている。

対象品目のリスト作成と関連法令の制定は連邦政府が行う。大統領令では同時に、本措置の導入による農産品・食品の急激な価格高騰が起こらないように、地方政府と協力し、商品市場のモニタリングと監督を行うことを連邦政府に対し要請している。

<EUからの農産品・食品に打撃か>
経済発展省のアレクセイ・リハチョフ次官によると、対象品目リストは既に準備できており、政府の承認待ちだという。メドベージェフ首相の報道官であるナタリヤ・チマコワ氏は、8月7日までには承認されるだろうとしている(「ベドモスチ」紙8月6日)。

農産品市況研究所のドミトリ・ルィリコ所長は「ロシアには毎年300億ドルを超える食品が輸入されており、その大部分が制裁導入国からのものだ。最大の国・地域はEUであり、インパクトの大きい品目は乳製品、食肉、野菜・果物だ」と指摘する。

(齋藤寛)

(ロシア・米国・EU)

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