現地地裁判事向けに知財訴訟セミナー−デリー高裁とジェトロが連携−

(インド)

ニューデリー事務所

2014年04月15日

知的財産に関わる事件が頻発しているインドの法曹界には、知的財産の重要性に鑑みた迅速・的確な審理が求められている。ジェトロは、デリー高等裁判所と連携し、知的財産に関する司法制度の日印協力事業を行っており、デリーで商標権侵害をテーマに両国の専門家によるセミナーを開催した。

<司法制度の日印協力事業>
インドにおける知的財産権侵害訴訟では、各地の地方裁判所のほか、デリー、ムンバイ、チェンナイやコルカタなどの高等裁判所が一審を担当している。知的財産をめぐる訴訟の約7割がデリー高等裁判所で行われるという専門家もいる。ジェトロではデリー高等裁判所の判事を日本に招いて、インドにおける知的財産関連法などを日本の産業界に紹介する機会を設けたり、日本の知的財産高等裁判所などを訪問し司法手続きに対する理解の醸成を図ったりしてきた。

一方、一審が地方裁判所で開かれることも多く、デリー近郊の地方裁判所も多くの知的財産事件を扱っている。このためジェトロでは2月15日、経済産業省の委託事業として、インドにおける知的財産訴訟の大半を占める商標権侵害をテーマに、デリーで地方裁判所判事ら約100人を対象に「日印知的財産訴訟セミナー」を開催した。

<両国専門家が事例や判例を紹介>
同セミナーはデリー高等裁判所の協力で、日本とインドの専門家がその経験に基づき双方の訴訟事例や判例を紹介するかたちで行われた。日本から、元知的財産高等裁判所判事の三村量一弁護士(長島・大野・常松法律事務所)、金沢工業大学客員教授の青木博通弁理士(ユアサハラ法律特許事務所)を招き、インドからはデリー高等裁判所判事2人が講師を務めた。

セミナーの第1部では、登録商標と、侵害の疑いがかかっている商標とが類似しているか否かをどのように判断するかについて、日印の判例に基づく説明がなされた。第2部では、損害賠償額をどのような根拠・算定式に基づき算出するかや、1国で販売された商品を他の業者が他国に輸入する、いわゆる「並行輸入」が商標権侵害に該当するかなどについて、日印各国の運用の説明がなされた。

<活発な質疑応答で課題も明らかに>
講演後には、参加した地方裁判所判事らから以下のような多くの質問が寄せられた。

○登録分類と関係のない分類の商品で類似品が販売されていた場合の判断
○周知性が特定地域限定だった場合の判断
○周知性判断に必要な証拠
○誤認混同の判断主体
○他国で登録されている商標同士のインドでの係争
○土地管轄と執行の確保

これらの質問はいずれも商標権侵害事件で極めて重要な事項で、セミナーに参加した地方裁判所判事が訴訟審理で直面している課題だが、これまで十分な研修がなされていない実態がうかがえた。質問に対する回答では、日印間で法的根拠に差異があるものの、結論において大きな違いはなかった。英米法系のインドと大陸法系の日本の違いこそあれ、その判断に大きな違いがないことを確認できたことはセミナーの成果の1つだ。また、日本の訴訟審理手続きや専門委員制度など、日本の知的財産関係の司法制度にも多くの質問が寄せられた。

<インド側が知財保護の重要性に言及>
インドで適切な知的財産権保護を受けられるのか懸念する声も日本の産業界から聞かれる。しかし、こうした機会を通じ、デリー高等裁判所のN・V・ラマナ所長(現最高裁判所判事)からは、イノベーションや創造活動に報いるため、司法における知的財産権保護の重要性が語られた。また、同裁判所のB・D・アハメド副所長は、インドの健全なビジネス環境を確保するためには商標の保護が必須だと強調しつつ、地方裁判所における適切な審理を促した。

今回のセミナーのような取り組みを通じ、インド司法において責任のある立場の人物から知財保護の重要性が言及されたことも、大きな成果といえる。

(今浦陽恵)

(インド)

ビジネス短信 53422bc099cf0