GCCとのFTAが発効−シンガポールからの市場アクセス改善に期待−
シンガポール事務所
2013年09月18日
湾岸協力会議(GCC)・シンガポール自由貿易協定(FTA)が9月1日に発効した。GCCにはバーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6ヵ国が加盟していて、シンガポールからこれら中東諸国への市場アクセスの改善が期待される。
<GCCは約98%の品目で関税撤廃>
GCC・シンガポールFTAは、物品貿易、税関手続き、サービス貿易、投資、政府調達、電子商取引、人の移動など幅広い分野をカバーしている。GCCが中東域外の国と締結する初めてのFTAで、シンガポールからGCC諸国への市場アクセスが改善される。同FTAは2008年12月に署名されたが、GCC側の批准手続きに時間がかかり、2013年9月にようやく発効に至った。なお、シンガポールにとって同FTAは、ヨルダン(2005年8月発効)に次いで中東地域では2つ目のFTAとなる。
物品貿易分野では、シンガポールは協定発効と同時に全ての貿易の関税を撤廃する(ただし、シンガポールで関税を課している品目はビールと薬用酒のみ)。一方、GCC諸国の関税スケジュールはカテゴリーA、カテゴリーB、カテゴリーCの3種類に分類され、カテゴリーAは協定発効と同時に、カテゴリーBは協定発効5年後に、それぞれ関税を撤廃(それまでは基準となるベースレートを維持)、カテゴリーCは関税削減・撤廃の対象外となっている。シンガポール政府によると、カテゴリーAは品目総数の約95%を占め、カテゴリーBが2.7%、残りの品目はカテゴリーCとなる。関税撤廃の対象外に分類された品目は、魚介類(HS03、HS16の一部)、たばこ類(HS24の一部)、肥料類(HS31の一部)、マットレス類(HS94の一部)などだ。
また、貿易取引の実務で、輸出国と輸入国で適用するHSコードの解釈が異なる事態が生じた場合には、世界税関機構にHSコードの解釈の確定を委ね得る条項も盛り込まれている〔Chapter2(Annex1−6)〕。
GCC諸国の平均関税率はオマーンの13.7%を筆頭に、バーレーン(5.1%)、カタール(5.1%)、サウジアラビア(4.9%)、UAE(4.9%)、クウェート(4.7%)となっている(WTO調べ)。
シンガポールからGCC諸国への2012年の原産品輸出(シンガポール経由の再輸出を除く)は、33億ドル(シンガポール輸出総額の1.4%)だ(表参照)。このうち、UAE向けが20億ドルで最も多く(ただし、UAE向けは同国から第三国への再輸出も多く含まれると推定される)、サウジアラビア(8億3,000万ドル)、オマーン(1億8,000万ドル)、カタール(1億2,000万ドル)、クウェート(1億ドル)、バーレーン(3,000万ドル)と続いている。品目別では、主として一般機械、輸送機器、石油製品、化学品、食料品などが輸出されている。
<原産地規則は「付加価値基準35%以上」が適用>
原産地規則〔物品の生産国(国籍)を特定するための基準〕については、ほぼ全ての品目で、「付加価値基準35%以上」が適用される。付加価値基準の計算は、工場渡し価格(Ex−Works Price)をベースとするもので、「(工場渡し価格−非原産材料)/工場渡し価格×100」の計算式が用いられる。在アジアの日系企業に幅広く活用されているASEAN自由貿易地域(AFTA)など、アジアで発効済みのFTAで採用されている付加価値基準はFOB価格ベースなので、GCC・シンガポールFTAの付加価値基準とはベースが異なる点に留意が必要だ。FOB価格には工場から港までの輸送費や輸出者の利益などを計上できるが、工場渡し価格は工場の出荷価格なので、付加価値基準の算出においては工場渡し価格の方が厳しいルールといえる。一方、アジアで発効済みのFTAの付加価値基準が40%以上となっているのに対し、GCC・シンガポールFTAでは35%となっており、工場渡し価格ベースでも付加価値基準としては緩やかな基準といえるだろう。
付加価値基準と違って「品目別ルール」が適用される品目は食品類などを中心に10品目で、関税番号変更基準(HS4桁:8品目、HS6桁:2品目)が適用される。また、関税番号変更基準が採用される品目に対しては、デミニマス(関税番号変更基準の適用において、一定割合までは、同一の関税番号の非原産材料が入っていることを認めるルール)も採用されており、工場渡し価格の10%以内であれば、同一の関税番号の非原産材料の使用が認められる(Chapter3−Article3.6)。
また、累積規定(あるFTA締約国の原産品である原材料を他のFTA締約国で利用する場合、同原材料を原産材料と見なす規定)も含まれており、原産地規則の算定において、GCC諸国とシンガポールの間で累積を行うことができる(Chapter3−Article3.7)。
<第三者証明制度を導入後、自己証明制度の採用を検討>
原産地証明手続きについては、協定発効後2年間は第三者証明制度(輸出者が政府などの第三者機関が当該製品の原産性を判定し、原産地証明書を発給する制度)が採用される。その後、シンガポールとGCC間で協議を行い、双方が同意すれば、自己証明制度(輸出国の輸出者もしくは生産者が自らの責任で原産性を証明する制度)を導入すると、協定書に盛り込まれている(Chapter4−Article4.6)。
<ハラール認証の相互認証を目指す>
GCC・シンガポールFTAで注目される内容の1つがハラール認証(イスラム法上、適正な方法で処理、加工された食品であることを証明する制度)の相互認証に関するものだ。
協定書には、協定発効後1年以内に、シンガポールのハラール基準認証制度である「シンガポールMUISハラール基準(SMHS)」をGCC諸国が認証するかどうかについて交渉することを約束する条項が盛り込まれている(Chapter8−Article8.5)。今回のシンガポール政府の発表によると、既にGCC加盟6ヵ国のうち、クウェート、オマーン、カタール、UAEの4ヵ国がSMHSを各国のハラール基準と同等と認めており、残りのバーレーンとサウジアラビアの2ヵ国とは今後、交渉が行われる予定としている。
シンガポールのハラール基準がGCC諸国でも認証されれば、シンガポール産食品のGCC諸国への輸出が円滑化されると期待される。
<政府調達で双方のサプライヤーに内国民待遇>
GCC・シンガポールFTAでは、GCC諸国の定められた政府機関による一定金額以上の政府調達において、相互のサプライヤーに内国民待遇を与えると明記されている。また、内国民待遇を供与するサプライヤーについて、外国資本であることなどによって差別をしないとも明記されている(Chapter6−Article6.3、Article6.4)。
シンガポール政府の発表によると、GCC諸国が国内の政府調達において自国産品・サービスに対して10%の優遇措置を供与する場合、シンガポールのサプライヤーにも同優遇措置が供与されるとしている。つまり、GCC各国国内の政府調達で内国企業と外国企業がともに入札する際、内国企業の応札価格が外国企業の同価格よりも10%の枠内で割高であっても内国企業が落札できるが、こうした政府調達においてシンガポールのサプライヤーは内国企業と同等に扱われることとなる。一方、各国ともに中小企業に対して10%の優遇措置を提供する権限は留保するとしている(Chapter6−Article6.8)
<シンガポール企業はGCCの一部企業の過半数株を取得可能>
サービス章では、シンガポール政府の発表によると、シンガポール企業、シンガポール国籍者と永住権者がGCCにおける一部のサービス業に投資する場合、過半数の株式を取得できることを成果としている。特にGCC諸国の一部の国で、金融、建設サービス、コンピュータ関連サービス、環境関連サービス、法律・建築・エンジニアリングなどの専門サービス分野への参入でメリットがあると強調している。
なお、投資に関してはGCC・シンガポールFTAに章(Chapter)としての記述はなく、別途、2国間投資協定(BIT)を締結している。現在、シンガポールはGCC加盟6ヵ国のうち5ヵ国とはBITを締結済みで、カタールとは交渉中だ。
なお、シンガポール政府によると、現在、セムコープ、ケッペル、PSAなどのシンガポール政府所有企業やフレーザーなどの民間企業が、GCC諸国で事業を展開している。2012年時点では、160社以上のシンガポール企業がGCCで操業する一方、シンガポールで操業するGCC諸国の企業は189社に上っている。
GCC・シンガポールFTAの条文は、シンガポール政府(シンガポール国際企業庁)ウェブサイトで確認できる。
(椎野幸平)
(シンガポール・湾岸協力会議<GCC>)
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