極めて限定的な北朝鮮とのビジネス関係

(北朝鮮、米国)

ニューヨーク事務所

2013年03月06日

2月12日の北朝鮮による核実験を受けて、国連を中心に新たな制裁内容について議論が行われているが、現時点で米国の北朝鮮に対する経済制裁は資産凍結による取引制限、輸出入制限を柱としている。両国間の貿易は限定された状況が続いている。

<資産凍結と輸出入制限が制裁の柱>
対外的な経済制裁を管理する財務省外国資産管理局(OFAC)によると、米国政府は現時点で商取引の制限、輸出制限を柱とした経済制裁のほかに、経済援助の分野でも制限を設けている。

米国政府は対敵通商法(TWEA)と外国資産管理規則(31 C.F.R. part 500)によって2000年6月16日以来、北朝鮮および北朝鮮国籍保有者が所有する資産とその利益を凍結してきた(表1参照)。2005年6月28日の大統領令では、大量破壊兵器とその支援に係る資産の凍結が決まった。その結果、2006年9月に澳門匯業銀行(バンコ・デルタ・アジア)に北朝鮮が保有する資金が見つかり、同行の在米国口座がいったん凍結され、北朝鮮に大きな打撃を与えたと報道された。

その後、2008年6月26日に発表された大統領令13466号および大統領布告8271号で北朝鮮はTWEAの対象国から除外され、外国資産管理規則による制限の対象外となったが、TWEAが規定した北朝鮮との取引に関するいくつかの制限措置は継続することが決定された。同制限措置はその後、大統領令13551号と13570号によって制裁対象が拡充されてきた。

表1米国による主な対北朝鮮経済制裁

制裁の内容は、a.資産とその利益の凍結、b.北朝鮮の船舶・航空機を含む商取引の制限、c.北朝鮮からの輸入の制限に分けられる。北朝鮮および北朝鮮国籍保有者が所有する資産とその利益(に係る取引)は、2000年6月16日以降凍結されており、その後も同内容は維持された。さらに、2010年8月30日に発表された大統領令13551号によって、同号別表に記載される個人が所有する資産とその利益、および財務長官が国務長官と相談の上で決定する個人あるいは組織が所有する資産とその利益にも、対象が拡大した。こうした資産とその利益が、北朝鮮による武器とその関連物の取引を促す、または北朝鮮のぜいたく品の調達を促す、あるいは北朝鮮政府と政府高官が関与またはそれらを利するマネーロンダリング、商品・貨幣の偽造、紙幣の密輸、麻薬取引など不法な活動に関係すると考えられることがその理由だ。

若干の例外を除き、米国人は北朝鮮への送金、支払い、輸出、預金引き出し、あるいは大統領令13551号ならびに同号別表で定められた組織あるいは個人の資産とその利益の取り扱いについても禁じられている。

北朝鮮船舶・航空機に係る商取引については、米国人は同国における船舶・航空機の登録、北朝鮮籍の船舶・航空機の運航許可取得、北朝鮮籍の船舶の所有・リース・運航や損害保険契約を結ぶことは認められていない。

北朝鮮からの輸入については、大統領令13570号により同国からの商品、サービスおよび技術は、OFACのライセンスなしに直接的または間接的に輸入することが認められていない。これは、第三国で製造される最終製品向けに組み込まれたり、あるいは形を変えて利用される部材についても同様だ。

<輸出品目の大部分は人道支援関連>
また、北朝鮮を仕向け先とした商品の輸出については、大統領令13551号によって凍結された資産とその利益の保有者を相手に含む販売に関して禁止されている。それ以外の仕向け先への輸出については、OFACの枠組みでは禁止されていないが、主に商務省の輸出管理規則(EAR)ならびに国防総省の武器輸出管理法および国際武器取引規則に基づいて管理が行われている。

商務省の輸出管理規則では、同規則99条で規定される食料品および医薬品を除く、米国輸出管理規則(EAR)が対象とする全ての輸出品および再輸出品について、輸出許可(輸出ライセンス)の取得が義務付けられている。輸出許可が必要な品目は案件ごとに審査の対象になる。ぜいたく品(例えば、高級乗用車、ヨット、宝飾品など)、武器および関連品、核拡散およびミサイル技術に係る輸出または再輸出については、通常拒絶される。一方、北朝鮮国民の利益を目的とする人道支援品目、国連の人道支援活動を支援する品目、ならびに米政府が裁定した農産物または医療機器品目でぜいたく品でないものについては、一般的に承認される。

国防総省の武器輸出管理法および国際武器取引規則では、防衛物品および防衛役務の輸出および輸入を規制している。

こうした状況の中で、2国間の貿易関係は極めて限定されている(図参照)。2012年の米国からの輸出品目をみると、食料品・医薬品など人道支援を目的とした物品が大部分を占める。同様のトレンドはここ数年変わっていない(表2参照)。一方、北朝鮮からの輸入品目をみると、2009年以降は統計上の「実績なし」の状況が続いている。両国間の直接投資については統計上の実績はない。

米国の対北朝鮮貿易額の推移
表2米国の対北朝鮮貿易の上位品目

経済協力・経済援助の分野でも、両国の関係は極めて限定されている。具体的には、難民の受け入れ、放送、非政府組織による民主化促進・人権・ガバナンスなどの活動、緊急食糧援助、核兵器の廃棄・解体などに限られている。このほか、核兵器開発、人権侵害、環境破壊行為などを理由に、国際金融機関の決議の際に北朝鮮への支援については反対の立場をとることが米国法で定められている。

(秋山士郎)

(米国・北朝鮮)

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