フランチャイズによって軽減されるリスク−フランチャイズビジネスの実態と制度(2)−
ホーチミン事務所
2013年01月17日
連載の後編は制度について。フランチャイザーが外国企業であれ、国内企業であれ、投資手続きがいらないので外資規制にかからないというメリットがある。ただし、直接投資・直営に比べ収益が小さいなどのデメリットもある。
<フランチャイズ契約の内容に特段の縛りなし>
フランチャイズビジネスは、ベトナムでは、2005年制定の商法で規定されており、日本の「中小小売商業振興法」のような個別の法律は整備されていない。フランチャイズとは、フランチャイザーがフランチャイジーに対して、モノの売買やサービスの提供を、条件を付けて許可し要請する商業活動と定義されている(商法284条)。ここでいう条件とは、フランチャイザーが規定するビジネス手法(商標、商号、ノウハウ、スローガン、ロゴ・広告の使用など)にフランチャイジーが従うこと、フランチャイザーがフランチャイジーを監督し支援することとされている。
個別のフランチャイズ契約の内容には、フランチャイズ内容、フランチャイザーとフランチャイジーの権利・義務、フランチャイズ料、支払い方法、契約の延長・停止、紛争解決など、標準的に盛り込むものについての規定はあるが、これを盛り込むべきという縛りはない。フランチャイジーがフランチャイザーに支払うべきロイヤルティーなどの価格については、法令上特段の規定がないため、当事者同士の契約で決められる。また、外国の企業とベトナム国内の地場企業の場合は言語に縛りはないが、国内の地場企業と国内のフランチャイズ店舗の場合はベトナム語の契約でなければならない(商法に関する政府議定2006年35号、2011年120号)。
<外国のフランチャイザーは投資手続き不要>
外国の企業とベトナム国内の地場企業のフランチャイズ(マスターフランチャイズ)を外国企業が行うには、フランチャイザーとなる企業が商工省(MOIT)に対してフランチャイズ登録を済ませていること、当該のモノの売買・サービス提供がベトナムで制限・禁止されている分野でないこと、という条件がある。そのため、商工省に対して、フランチャイズ登録を申請し、登録の認可を得なければならない。
しかし、直接投資(現地法人設立、合弁企業設立、出資など)と違って、フランチャイズ契約の場合は、投資計画局(DPI)への投資手続きは必要ない(政府議定35号、120号)。また、フランチャイジー企業B(図参照)には、地場企業、外資企業(その分野の投資ライセンスを別途取得した企業)ともになることができる。
また、商標などをあらかじめ国家知的財産局(NOIP)に出願・登録しておき、ブランドを保護するのが通常だ。
外国からのフランチャイズの特徴は、直接投資を伴わないので資本を入れないということはもちろん、投資手続きが必要ないため、外資規制を避けられることだろう。表1にあるとおり、例えば飲食分野(ホテル外の飲食店)では、外国から直接投資ではなく地場企業とのフランチャイズを行えば、投資ライセンス不要のため、その規制が避けられる。また、小売り分野の場合、外国から直接投資をした外資系企業が国内直営店展開すると、外資企業に対する出店規制にかかるが、外国から地場企業にフランチャイズを行えば、その規制にかからない。また、外資企業であっても国内フランチャイズ展開すればその規制にかからない。
<国内フランチャイズも外資規制かからず>
国内フランチャイズ(サブフランチャイズ)を行うための条件は、制限・禁止分野でないこと、外国企業がベトナム国内の企業とマスターフランチャイズ契約を登録後に1年間営業した実績があること、だ。そのため、マスターフランチャイズの登録後、ベトナム国内の企業がすぐにサブフランチャイズによる店舗展開を開始することはできず、1年待つ必要がある。
外国からの直接投資と異なり商工省への登録は不要だが、事業開始後は各地の商工局(DOIT)に定期的な報告をすることになる。
国内フランチャイズの特徴も前述のとおり、外資規制を避けられることだろう。外資企業が直営店展開すれば出店規制にかかるが、外資企業であっても国内フランチャイズ展開すればその規制にかからない。
ただし、地場企業、外資企業のいずれも国内フランチャイザー企業になることができるかどうかについては、表2のとおり外資に対する制限がある。WTO自由化約束では、国内フランチャイズ分野は流通分野の一部として整理されているため、流通分野の国内フランチャイズは自由化されているが、流通以外の分野での国内フランチャイズについては不明だ。つまり、小売り以外の分野(飲食や教育など)では、外資企業が国内フランチャイザー企業になる場合の投資ライセンスは、ケースバイケースの認可になり、今後実態がどうなるかは不明だ。
なお、例えば日系では、自由化されている小売り分野ではあるが、ビナファミリーマート(ファミリーマートとベトナムでのパートナーとの合弁企業)が既に国内フランチャイザーのライセンスを取得済みだ。
<低リスクでブランドを広めるのに便利>
ベトナムではフランチャイズビジネスはまだ根付いておらず、パイオニアとして入っていく必要があるため、うまくいかない面があるのは当然だろう。国内の企業による直営店舗の場合は外資規制があるため特にそうだ。
フランチャイズビジネスは、看板とノウハウを貸してライセンス料を得つつブランドを広めるやり方なので、リスクが少なくブランドを広めやすい手法といえるだろう。外国の企業がベトナム国内の企業のマスターフランチャイズを行えば、前述のように直接投資を伴わないため、資金負担だけでなく外資規制にもほとんど引っかからず、さまざまなリスクが軽減される。また、国内フランチャイズを行えば、小売りの場合は外資規制を避けられる上、その他分野でも、自ら直営店をつくるよりも、土地使用権を持っている既存の企業や個人をフランチャイジーにすることによって、複数店舗を出店しやすくなる。
一方で、デメリットも当然ある。オリジナルブランドに比べてサービスの質が落ちる(勝手にアレンジされてしまう)可能性がある、看板やノウハウが流出する、個人商店へのフランチャイズとなると店舗が狭くなる(ベトナムの家屋は狭く長細い)、直接投資・直営に比べて収益が限られる、などが考えられる。実際、コンビニチェーンのショップアンドゴー(SHOP&GO)は、国内では直営店舗とフランチャイジー店舗の両方があり、フランチャイジー店の方が比較的店舗が狭く、商品の種類も少なめだ。
まずはフランチャイズで始めて、時期が来たら直接投資、というやり方など、バリエーションはあると思われる。選択肢やパーツの1つとして、今後フランチャイズビジネスはますます重要なツールになっていくだろう。
(近江健司)
(ベトナム)
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